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第百十話 進軍

テオドール、頑張った。

「なるほどなあ。テオのことだ。もう出発しているのだろう?」


 鎧のおじさんが楽しげに言う。


「あ、はい。兵を率いて行くと」

「ふむ、ならば便乗してやろうかな」

「おい、ミストラル。貴様、騎士団を動かす気か?」

「宰相閣下、これは明確な国家反逆罪ですよ? 騎士団を動かしたところで何の問題もありませんぜ」

「ぐぬぬぬ」


 鎧のおじさんはミストラルさんというらしい。騎士団を動かすとか言ってたからそれなりに偉い人なんだろう。伽藍堂のやつらみたいな立場かなあ? あいつら怖いんだよね。


「改めて自己紹介しよう。陛下や宰相閣下との面通しは済んでるみたいだからな。ワシはミストラル・ウォーカー。この国の騎士団長をやっておる」

「騎士団長様でしたか。私はキューと言います。しがない冒険者です」

「なるほど、あなたが公爵家の恩人か。ルドルフから聞いている」


 ルドルフ……? ああ、そういえばルドルフだかランドルフだか分からないけど公爵様のお名前がそんな感じだった気がする!


「いや、テオのお陰で楽しくなりそうだ。騎士団の者共にもいい演習になるだろう」

「王都の守りはどうするのですか。騎士団長が単なる地方貴族の叛乱に鎮圧に行くなど」

「なあに、それならカームもゲイルもいる。近衛もいるし、第一と第二は残していくからよ」

「第一は王都守護、第二は治安維持だから当たり前ではないか!」

「第四も残しといてやるよ」

「諜報部隊だから必要ないだけだろうが!」


 さっきから宰相閣下が怒鳴りまくってる。血圧上がるよ? 血圧降下剤は……この世界にはないか。


「よし、じゃあ陛下、ちょっくら招集かけて行ってくるぜ」

「ふむ、まあ構わんだろう。帰ってきたらきちんと報告してくれよ」

「そういうのは苦手なんだけどな。まあいい、部下から何とか報告させるぜ」


 そう言うとミストラルさんは歩いて去っていった。私にはイマイチ状況が掴めないのだけど。


「あの、国家反逆罪というのはどういう」

「ふむ、貴族の立ち位置を知っているかね?」

「あ、はい、何となく。偉いんですよね」


 八洲の八家みたいなものだと思ってるんだけど、詳しくは分からない。


「偉いのはそうだが、王国の貴族においては、貴族の所領というのは国王からの預かり物になるのだよ」


 あ、自分の土地にするって形じゃないんだ。あれだね、公地公民とかそんな感じ。昔の八洲もそんな感じだったらしいけど、なんか荘園とかいう私有地が出来てボロボロになっちゃったんだっけ。


「爵位に応じて土地の広さが決まり、そこを任せている貴族には一定の自由裁量権を与えている。また、他の貴族からの介入を防ぐために爵位に関わらず、領地内では一番強い権力を行使出来るようにしてあるのだ」


 つまり、男爵家の領地で伯爵家とかが無理難題を押し付けてきても、跳ね除けられるということだ。


「それだと今回の件、何も出来なくないですか?」

「確かに領地内では好き放題出来る。それと同時に貴族としての尊重も大事なのだよ。男爵領に行った伯爵様か野宿しないと行けなくなったとかはダメだ」


 一応王国の順位として爵位は尊重しないといけないらしい。それが貴族社会というもの。で、今回の件は公爵家が身分を保証した人物を蔑ろにし、あまつさえ公爵家の婚約者であり本人も別の公爵家出身のヒルダ様まで手篭めにしようとしたのだ。


 そして、ヒルダ様が居るのはリンクマイヤー公爵家。男爵領内では無いのだ。あと、私も手紙のメッセンジャーみたいな感じになってるので、男爵領内には居ても公爵家の遣い扱いなんだと。手を出したら戦争。そして目上の貴族に対する叛乱なのだと。宿屋の娘たち? そっちは成り行きだとさ。


 私はそのまま王城を辞してアンダーゲートに向かう。あ、ルドルフさん、リンクマイヤー公爵様は「テオに全て任せる」との言葉をいただいている。これでテオドールが勝手に兵を動かしたことにはならない。


 私がアンダーゲートに着いてもまあ静かな日常が広がっている。宿屋はところどころが少し破損はしてるものの、全体的には何もなってない。


「ただいま」

「あ、キューさん、おかえりなさい」

「遅くなりました。あ、これ、食べてください。食べるものないかと思うので」


 私が差し出したのは王都で買った保存食。正直あまりおいしくない。水分を吸われるようで口の中がボソボソする。イレーヌさんが口惜しそうにしていた。いや、一週間待ってください。本物の保存食ってやつをご馳走してあげますよ、とか言わなかっただけ良かったのかもしれない。


 宿屋は営業出来る状態ではあったが、さすがに兵士を差し向けられたくないので休業してもらうことになった。ウルリカちゃんが「休むのはいいけど休業の補償とかしてくれるの?」などと言って私を困らせた。その辺は要相談ってことで。どうしてもダメなら私が自腹を切るなんて約束までさせられてしまった。大丈夫だよね?


 夜になると宿屋の前に昨日と同じ様に、いや、それよりも多くの兵が動員されて宿屋を取り囲んでいた。中に居るのは私一人。まあ私だけなら転移で逃げれるし。反撃開始といきましょう。


 まず兵士たちが矢を射掛けて来ます。まあこれがまともに放たれたものでは無いので大して宿屋に被害は出ていない。


「火矢だ、火矢で燃やせ!」

「昨日もダメだったじゃないですか。油もタダじゃないんですよ」

「うるさい! あんな木造家屋など燃やし尽くせ!」


 兵士たちは渋々といった感じに火矢を準備し、放つ。私は障壁バリアを展開し、火矢を弾いて周りの家に延焼しないようにする。この辺りは木造の建物が多いのだ。鉄骨だと錆びるからね。石造りで作るには大きな石が足りないのだろう。


「くそ、またか、なんとか、なんとかしないと……」


 そんなことをしていると門の外から大音声が聞こえた。


「開門、開門せよ! 我はリンクマイヤー公爵家の軍。領主に話があって罷り越した。領主殿にお目通り願いたい!」


 あ、テオドールが着いたみたい。それにしても早いな。休憩無しの強行軍でここまで来たのかな?

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