冥土(episode12)
拷問スタート!(紫ゲージ点灯)
そのメイドさんは私と凪沙を見た後、タケルの方に向かってほぅとため息を吐いた。
「タケル様、凪沙様だけでは飽き足らずこの様な巨乳まで。メイで我慢してくだされば良かったですのに、そんなに巨乳が良かったんですか?」
「メイ、何を勘違いしてるかは知らないけど違うから」
「でもお家に女性を連れ込むというのは」
「それはこいつらを見てから言ってんだよね!?」
タケルが指差した先には転がってる男たちがいる。私たちが頑張って持ってきました。
「場を和ませようというジョークです。アメリカンジョークというやつです、きっと」
「いいから。ええと、鍵付きの部屋があったよね。そこに」
「タケル様が凪沙様の下着を保管してる部屋でございますね」
「!? タケル、あなたって人は!」
メイドさんは残念なものを見るような顔でタケルに言う。凪沙は真っ赤になりながらもタケルに文句を言おうとしていた。
「ジオラマ作ろうと思っておいてる部屋だよ! まだ取り掛かってないからなんにも置いてないよ!」
「もちろんアメリカンジョークですとも。では連れて行きましょう」
そう言うとメイドさんはひょいっと一人をかつぎ上げた。あと二人は私が持ってあげた。その間に凪沙はシャワーを借りるとか言って消えていき、タケルはなんか疲れた様な顔で頭を抱えていた。
部屋の中に男たちを下ろすと、メイドさんが話しかけてきた。
「あなたとははじめましてですね。タケル様がお世話になっております。古森沢家のメイドの鼎メイと申します」
「あ、ティア・古森沢です」
「タケル様と源三様に言われて古森沢の縁者にしておくように指示しておきましたが、大丈夫だったみたいですね」
ゲンゾウ様、というのが誰だかわからないが、私の身元を偽造してくれたみたい。なんか凄くお世話になってしまっている。
「あの、ゲンゾウ様というのは?」
「あら、ティア様は源三様のお店で働かれているのでしょう?」
あ、もしかしてオーナーの事だろうか。しかし、私に対しても「様」ってのは慣れない。いや、違う。慣れないのではなくて貴族子女の自分を思い出すから嫌なんだ。
「様って言われるのはちょっと」
「ですが、古森沢の姓を持つならば当然になりますので」
「いや、待ってください。私はそんな大した人では、ないですから」
私の劣等感が頭をもたげる。貴族たるブルム家での扱いが思い出されてくる。私はもうあの家とは関係ない。こっちの世界で関係なく生きるんだ。
「……わかりました。では不遜ではございますが、ティアと呼ばせていただいても?」
「もちろんです、メイさん」
「メイ、とお呼び捨てください」
「わかったわ、メイ」
そしてゴミどもを置いて部屋を出た。風呂上がりのさっぱりした凪沙にタケルが赤くなりながらちょっかいをかけられている。
「もどかしい。そのまま押し倒せばいいものを」
「メイ?」
「こほん。なんでもございません。直ぐにお食事を用意致します」
静かに台所に消えていった。あー、まあ凪沙はタケルの事好きなんだろうなとは思う。私は別にタケルのことは恩人ではあっても好きでもなんでもないからくっついてくれればいいなと思う。私はもっとガッチリした、御伽噺の勇者様みたいに戦える人が好きなのだ。
しばらくするとメイがご飯を作ってくれたらしい。簡単なもので、と言ってた割にはメインのオムライスといくつかの細々したおかずがテーブルに並ぶ。
「メイのご飯美味しいのよね」
「ありがとうございます、凪沙様」
「ねえ、いい加減私の事は凪沙って呼び捨てにしてよ」
それもそうだ。古森沢の名前を持たない凪沙は呼び捨てにしても構わないはずだ。
「将来的にも古森沢になられるであろうお方を呼び捨てにするなんてとてもとても」
「め、めめめめめめメイ!?」
「タケル様、タケル様を貰ってくださる方なんて凪沙様くらいしか……ああ、こちらにティアという第二候補がいましたね」
メイはくすりと笑いながら私の方に話を振ってくる。いや、さっき私は好きでもなんでもないって言ったよね? いや、言ってないか。
「ティア。そ、そ、そうなの!?」
「凪沙、私の好みはもっと筋肉ついてる人」
「あ、あー、そ、そうなんだー、まあそうよねえ。タケルは男としてちょっと頼りないよねえ」
「うっ、ご、ごちそうさま」
そそくさとタケルが食事を終えて部屋に去ってしまった。
「凪沙、その、私も悪かったけど、今のはさすがにあんまりじゃない?」
「そうです。そこで「私はタケルみたいなの好きだけどね」とか位は言うべきではないかと」
「二人とも! なんで、なんで、私がタケルのこと好きなのバレて……」
むしろなんでバレてないと思ったんだろうか。あれだけわかりやすいヒントがちりばめられていて、分からないのはよっぽどだ。問題はそのよっぽどにタケル自身が含まれているってことなんだけど。
「ティア、お風呂に入ってくるといいですよ」
「ありがとう。お言葉に甘えていただくわ」
「えっ、ちょっと、私の疑問は?!」
凪沙の疑問とかもう今更過ぎて答える気にもならなかったので、私はお風呂に入る事にした。着替えは無いのでメイのを借りたが、ブラジャーだけは凪沙の為にストックされてるのがあるのでそれを借りた。
この場合、なんで凪沙のサイズのブラジャーがあるのかは聞かない方がいいのだろうか。一応私も貴族子女の嗜みとしてそういう行為は一通り知識としては知っている。実地? した事ないよ!
さっぱりして、メイと交代し、寝る準備を整えて私は男たちが閉じ込められてる部屋に入った。芋虫のように転がってる奴らは食事さえしてないのだ。排泄されると掃除が大変だろうから、手短に済ませる必要がある。
「今から尋問をします。速やかに答えてください」
「だ、誰が! 警察官を捕まえると公務執行妨害だぞ!」
「あらあら、ティア。狡いですよ。独り占めですか? 私もやらせてください」
お風呂から上がったばかりのメイが微笑みながら立っていた。