妻達(episode109)
実際のタージ・マハルなどの丸屋根は聖性とか高貴さの象徴なのだそうです。あとは大空へのあこがれとか。日本でも橋の欄干に使われている擬宝珠とかそんな感じらしいですね。
八洲の周防天部空港からチャーター便で約半日。いや、もっと少なかったかもしれない。飛行機の中で美味しい料理を出されてパクついてたらいつの間にか眠くなって、気付いたら空港に到着していた。あ、抱っことかはされてないよ。
空港に降り立つと砂漠があるのか乾いて砂交じりの風が頬を打つ。肌に悪いなと思いながら薄く顔の周りを水の膜で薄く包む。
「ナジュド王国へようこそ、我が友たちよ。歓迎致します」
ファハドさんが改めて恭しく礼をしてきた。まあ戸惑ったけど、歓迎してくれるんだもんね。そこから車に乗って王宮へと向かうとの事。いきなり国王陛下と謁見とかドキドキするよ。前の世界でも王族なんて遠くから眺めたことしかないもんね。
王宮の建築様式は向こうの世界では見たことが無いものだ。強いてあげるなら宗教施設だろうか。塔の先が丸くなっており、そこに空間があるのだという。何故かと聞いたら地熱から避難する為なんだそうな。なるほどね。
赤い絨毯が敷かれた通路をどんどん進み、大広間に出る。ここで謁見をするそうで、私たちの前に一際豪奢な絨毯に座ってる色黒な人物がいた。ファハドさんにちょっと似てるかも。
「よく来た。我が息子の友人、それに伴侶よ。歓迎しよう。我はムスターファ。この国の王である」
流暢な言葉でそれを言っていた。八洲語お上手ですね。あ、いや、八洲語じゃない? なんとなく違うような……
「陛下に置かれましてはご健勝のこととお慶び申し上げます。ファハド王子の友人にて、八洲の筆頭家、鷹月歌裕也でございます」
裕也さんが深深と下げた頭を上げて口上を述べると、そのまま再び頭を下げた。
「こちらのものは私の秘書を勤めております、黒峰と申します」
黒峰さんが裕也さんに言われてもう一段頭を下げる。私はなんかついていけずにぼーっとしている。あ、頭下げなきゃなんだっけ?
「その者がお主の最後の妻か?」
「はい。彼女はティア・古森沢。素敵な女性です」
「ふむ、なるほど、確かにな」
王様の視線が私の胸元に集中するのを感じる。ドスケベジジイじゃん、こいつ。まあそんなことはおくびにも出せずに黙って下を向く。いや、いくら覗き込まれても乳首はガードしてあるからね?
「して、ファハドよ。この度帰ってきたのは」
「はい、妻大戦の開催を申請したく」
「なるほどな。ならば当人同士の話し合いも大事であろう。しかしその前に他の妻への目通しは済んだのか?」
「……まだでございます」
「ならばまずはそれを終えてからにせよ」
「かしこまりました」
そうして私たちは国王陛下の前を辞した。部屋から出てほっと一息吐く。
「ふう、緊張した」
「堅苦しい父で済まない。国王ともなるとなかなか気軽にはいかなくてね」
ファハドさんが苦笑する。気軽というか威厳バリバリって感じでしたが。
「まあいい。妻たちに紹介させてくれたまえ」
そう言ってファハドさんは王宮を出て西の屋敷に着いた。どうやら王子は二人とも王宮に住まずにそれぞれが屋敷を与えられて、管理能力を問われるらしい。
「今帰ったぞ!」
「おかえりなさいませ、殿下。この度はおめでとうございます」
出迎えてくれたのは三人の美女。いずれが菖蒲か杜若。英語だとどちらもアイリス。
「それで殿下、彼女を紹介してくださいませ? 私は殿下の第一妃、ラティーファです」
にこやかに笑う女性だが、背は高く、おっぱいも大きい。そして笑ってはいるものの、細い目は何を考えてるのか分からなくするところがある。ほら、あれだ。裏切りの細目ってやつだ。失礼か。
「私は第二妃のナディアよ。よろしくね」
エッフェル塔に登るような褐色肌の少女とは違い、お淑やかさが見て取れる美人さんだ。目尻は下がっており、とても優しそうな印象だ。
「私は第三妃のファティマ。よろしくね、後輩さん」
そう言って出てきたのはおっぱいがドーン、おしりがプリン、腰ほっそなお姉さん。活発そうな見た目であり、目尻はつり上がったつり目である。
「あ、あの、第四妃ということになっているティアです。よろしくお願いします」
「あら、殿下? なっている、というのはどういうことなのかしら?」
ラティーファさんが細い目を更に細めて追及してきた。あ、もしかしてこれはなんにも言わずに連れて来られたパターン?
「ま、待て、ラティーファ、これには深い事情がだな」
「はあ、殿下。あなたの兄君であるギカール殿下が妻を揃えたというのは聞いていますが」
「その通りだ。一気に四人揃えて私を挑発してきたのだ。さもないと私の不戦敗になると」
「一人足りずとも他の三人で勝てばいいのでは?」
「それが出来れば……いや、信じてはいるが、お前たちに戦闘能力などないからな。何より危険に晒したくない」
「この様な娘ならいいのですか?」
腹立たしげに私を指差す。まあラティーファさんは私の身を案じてくれてるんだというのは伝わってくる。
「それは、まあ、見て貰えたら分かる。この者の凄さはな」
「はい、戦闘能力については私が保証します」
それまで口を閉ざしていたハリードさん(居たのか)が口出しをしてくれた。それを聞いてラティーファさんも「ハリードがそういうのなら」と納得してくれた様だ。ラティーファさん、ハリードさんのこと呼び捨てなんだね。
「ファハド様とラティーファ様は幼なじみでして。昔から私が護衛につく事が多かったのですよ」
ハリードさん、解説ありがとうございました。ちなみにナディアさんとファティマさんはラティーファさんのお友達なんだそうで。いや、お友達に一緒に嫁入りしませんかとか持ちかけたの?
ラティーファさん曰く、嫁大戦の事は昔から知っていて、いずれ兄であるギカールと争うだろうと思って布石を打っておいたんだとか。やっぱりこの人傑物じゃない? 下手したらファハドさんより上だと思うんだけど。
それから私の実力を見るとかでなんか円形の闘技場の様なところに連れて行かれた。兵士の訓練場なんだって。ちょうど兵士が何人か日頃の訓練をしているのも見えた。