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第百六話 一家

五人姉妹にしようかと思いましたが多すぎて書ききれないのでやめました(笑)

 領主の顔面に足の裏で足跡をつけてやったら気絶したみたい。でもまあこのままだとまずいよね。


「アンナ、一緒に来る?」


 アンナは嬉しそうな顔をしたがすぐに目を伏せた。


「私は、一緒には行けません」

「そう……」

「一緒に行けば残された家族が危なくなるかもしれませんから」


 アンナは街の宿屋の娘だという。家族ぐるみで宿を切り盛りしていたが、父親が金を持ち出して女と逃げたせいで借金だけが残ったという。とんでもないやつだ。


 借金をしたのはカラス銭と呼ばれる高利貸し。あっという間に利息が膨らんで身売りせざるを得なくなって領主様のところに奉公に上がったらしい。


 まあこの話には疑問点がたくさんあったりするんだけどそれはとりあえず保留にしよう。


「でも却下ね」

「ええっ!?」


 そう言うと私はアンナをお姫様抱っこして転移テレポートを敢行した。領主館は出たからどこに行くかだけど、アンナの自宅はどこですか?


「あの、私の家は港の近くの宿屋で」


 港の近く、ということは立地的には良いところ。外から来る客が泊まりやすいから客が来なくなるということもないだろう。余程酷い経営をしてない限りは。


 案の定、盛況な宿屋のある通りにアンナの実家はあった。アンナを抱っこしたままバン、と入口から入る。


「いらっしゃいませ、海鳥の羽ばたき亭にようこそ……ってアンナお姉ちゃん!?」

「ただいまウルリカ。お母さんは?」

「多分奥にいるよ」

「ありがとう」


 受付に居た十歳くらいの子はアンナの妹らしい。奥に進むと食堂があった。


「いらっしゃいませ、何をご注文……アンナ?」

「お母さん!」


 アンナさんが私から降りてお母さんのところに駆け寄った。そしてひっしと抱き締め合う。


「お母さん、お母さん、お母さん。私、私、怖くて」

「ごめんね、ごめんね。お母さんが悪かったんだ。ごめんね」

「ちょっと、お母さん、仕事サボんないで……アンナお姉ちゃん!?」

「イレーヌ、ただいま」


 厨房から出て来た元気そうな女の子がアンナの顔を見るなりその表情を崩す。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿! 今まで何して、うわぁーん!」

「ありがとうイレーヌ」

「うわぁーん! 知らない、お姉ちゃんなんか知らない! でも大好き! うわぁーん!」


 とうとう大声で泣き出してしまった。食事をしていたお客さんたちもポカーンとしている。いや、もらい泣きしてる人もいるな。こういうの弱いんだろう。特に海の男ってやつは。何せ家族を残して海に出た男たちだもんな。


 とりあえず三人で固まって泣いてても仕方ないので泣き止ませて、イレーヌさんは厨房へ。料理を一手に引き受けてるらしいのでお願いする。お母さんはウェイトレスってことでそのまま給仕に。これはお金の勘定が出来るのがお母さんとウルリカちゃんだけだかららしい。


 お客さんが帰ったり、宿の部屋に行ったりしてから家族が全員揃った。まずはお母さん。お名前はオリビエらしい。見たところ三十半ばくらいのまだまだ女が滲み出てる年齢だ。


 アンナ。実年齢は十八歳。私よりもよっぽど大人だよ。三つ編みとメガネで隠しているが、顔立ちは整ってる。イレーヌ。年齢は十四歳。成人前だけど、料理が好きで見よう見まねで料理していたのが今に至る。ウルリカ。実年齢は十一歳。頭は良く、勉強がよくできる。愛想もいい宿屋の看板娘。ここに父親のエイリークがいるらしいのだが、エイリークは女と逃げたらしい。


「あの、オリビエさん、旦那さんはそこまで女好きなのですか?」

「いいえ、そんなことは。ですから女と逃げたと言われても何故なのか分からなくて。きっと帰ってきてくれると信じているのですけど」


 そう言ってオリビエさんは目を伏せた。まあ海の男を相手にしていたら少々のギャンブルというやつは嗜み程度だろう。付き合いで娼館に行くというのは考えづらい。となれば、その女とどこで出会ったか、である。


「失踪した日のことを教えて貰えませんか?」

「分かりました。あれは少し前のことでした。うちの中で保管していたお金が無くなっており、領主様のところの執事さんが、お屋敷のメイドを主人が連れ出して逃げた、と。それでなにか無くなってるものは無いかと言われて、保管していたお金が無くなっていたと」


 女と逃げた、という話を吹き込んだのは領主館の人間だということか。


「お屋敷からも金が盗まれた。今すぐ払ってもらおうって言われて払いたかったのですが、お金が無くて紹介していただいた金貸しに借りる事に」


 金貸しを紹介したのも領主っと。どんどんきな臭くなっていく。


「で、借りたものを返せないのなら、宿屋の娘を差し出せ、と。私でも良いと言うことだったので私を差し出すつもりでしたが、アンナが代わりに行ってしまって」


 あれ? 借りたものを返せないならってことは金貸しに渡すつもりだったお金のカタに、領主様のところで奉公? どう考えても無関係じゃない。本当にありがとうございました。


「アンナさんはお屋敷でなんて言われてたの?」

「逃げても構わないが、もし逃げたらお前の家族がどうなるか分からんぞ? って言われてました」


 ということはそろそろ領主の追っ手がこの宿屋に来るかもしれない。表がなんかうるさくなってきたよ。仕方ない。ここはきっちり障壁かいておこう。家一件分くらいなら一晩中でも守ってみせる! あ、嘘です。お腹すいたらご飯食べていい? いいよね? ダメかぁ……


「ここだ。総員、弓準備。放て!」


 いや、軍隊がいきなり民間人に発砲するなんて有り得るのか? 発砲っていうか弓矢だけど。それでも戦時中でもないのに弓矢を射掛けてくるのは非常識だ。


 まあ飛んでくる矢羽根は全て私の障壁で防いでるんだけどね。何とか敵の総大将を捕まえて理由を聞かなきゃね。あっ、敵が慌ててる。でも怯むな、撃ち続けろって。あ、火矢もあるね。どっちにしても刺さらないし、効かないんだけどいい加減鬱陶しいよね。

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