第百五話 拷問
水滴を落とし続けると気が狂うみたいなお話です。
「失礼します。ご主人様、例の女を連れて来ました」
「ご苦労。抵抗はされたか?」
「薬が効いているみたいで何の抵抗もありませんでした」
「そうかそうか。そっちにいるのはアンナだな?」
「はい。どうやらこの者にお茶を誘われて巻き込まれたようで」
「ふむ、まあいずれは味見しようと思っていたが思ったよりも早かったな。まあ、こいつはオレに逆らえんから後回しにするか」
眼前で繰り広げられるゲスい会話。アンナは私に巻き込まれただけだというのに、一緒くたにするつもり満々のようだ。まあ遅かれ早かれこうなってたってことか。しかし、私にそういうことをして、取り返しつかなくなると思わないのだろうか?
「おい、お前ら。ベッドの上に二人を運べ」
男たちが私たちをベッドに運ぶ。キングサイズというやつだろうか。私たち二人が寝転んでもベッドの上のスペースは十分にある。
「発育はいまいちだが、公爵令嬢とのコネは魅力だからな。こいつをオレの下僕にして、いずれは公爵令嬢も」
あー、こいつ下衆だわ。決定。というかあのヒルダ様がテオドール以外の男に靡くわけないんだよなあ。いやまあそんなこと分からないだろうけど。
とりあえず無防備になるまで待とう。男たちを部屋から出すまで。あれ? 男たちは部屋に残るの? 困ったなあ。
シンターは私の上に被さるように乗ってきた。そして私の服をビリッと引き裂く。いや、ちゃんと脱がせろよ。買い直さなきゃダメになっちゃったじやないか。
「手錠が邪魔だな」
外してくれるのかと思ったら、私の手をバンザイさせた。ぶっちゃけ、いつでも外せるけど油断を誘わないといけない。
私の乳房に手を伸ばされた。いや、乳房っていうか、膨らみってレベルなんだけど。ティアみたいなのは持ってないよ!
「小さいのもなかなかいいものだな」
余計なお世話だよ。後でお風呂でゴシゴシ洗うか。まあ正直、自分の身体にそこまで執着してないからこれくらいは平気だ。
「もう我慢出来ん」
そう言うと私を組み敷いたまま、上着を脱いでズボンに手を掛けた。そこで見ている奴らに「いつまで見ている!」と怒鳴りつけて部屋から追い出した。ドタドタと部屋から出ていく男たち。外から覗いてんのかもしれない。
「やるぞ、やるぞ、やるぞ!」
鼻息を荒くしながらスボンを脱ぐと硬いものが飛び出す。私はそこで膝を上げて最低限の動きで急所に膝蹴りをかました。
「おごっ!?」
転移で拘束具から身体を移して……あれ? 拘束具もついてきた。なるほど、身体に接触してるから逃げられないのね。それなら……ていっ! 私を拘束しているこの腕輪の鎖部分に障壁を割り込ませて鎖を切断した。
「お、おごごごごご」
「お痛はここまで。私の胸を揉んだ代金はちゃんと請求しますから」
「何故だ! 薬が効いてるんじゃ」
「ごめんなさいね。あの程度の薬は効かない様に訓練されてるから」
まあ実際は摂取量が少なかったのもあるんだろう。というか睡眠薬程度で何とかなるほどヤワな身体はしてないんだよね。
「この!」
「おっと」
逆上しながら掴みかかって来ようとするんだけど、ズボンが半分脱げた感じの足で動けるはずもない。引っかかって転びそうになっている。いや、転ばなかっただけ、優秀なのかもしれない。
「おい、誰か来てくれ! 暗殺者だ!」
失礼な。暗殺者ではないよ。私には暗殺向きの能力ないからね。せいぜいがスパイだ。そして、その叫び声は外には聞こえない。私の障壁で音を遮断したのだ。
「さて、私を手篭めにしようとしたこと、ひいては両公爵家に仇なそうとしたこと、何か言い訳はありますか?」
「ぐっ、ぐううううう」
ぐうの音くらいは出るらしい。私は速攻で相手の足を払うとそのままマウントをとった。
「さて、喋るまでお付き合いお願いしますね」
「何をするつもり……ぐぎゃ!?」
私は何も言わずにまず一発、顔面に拳を見舞った。ちなみに怪我するといけないので拳は念動でコーティングしてある。
「まず、なんで私を狙ったの?」
「そんなの知るか……ぐぎゃ!?」
「まあ喋りたくなるまで殴るだけだからいいけど」
「ほ、ほんな……ぐぎゃ!?」
無様な悲鳴が上がる。私としては大して手間はかからないからそのまま殴り続けてもいいんだけど。ほら、君が、謝るまで、殴るのをやめない!ってやつだ?
「わ、わかった。話す、話すからやめてくれ!」
十発も殴ってないんだけど心が折れたみたい。カウントしながらゼロになったら殴る、みたいな規則性のあるやつをやったらあっさり喋った。最終的にはゼロて殴らなくなると何をされるか分からないって恐怖で心折れるらしいんだけど詳しいのは分からない。
「お、お前を人質に取り込めば、公爵家が言うことを聞くかもしれないと思ったのだ」
「いや、そうはならんやろ。私はこれでも単なる冒険者なんだけど?」
「手紙には公爵家の恩人と書いていたから」
あー、ヒルダ様が分からせようと思ってそんな事を書いちゃったのかな? いや、それはそれで問題なんだけど。でもこいつ、私を取り込めると思ってた?
「オレのテクニックがあればイチコロだと思ったんだが」
テクニック? ぶっちゃけ気持ち良くはなかったし、触り慣れてないのかと思ったんだけど。ああ、そういえばこいつは領主だったな。となれば気持ちよくなくても気持ちいいですって言わないと癇癪起こされるかもしれないってやつだな。
「アンナは?」
「こいつはオレの所有物だ。どう扱おうと勝手だろう」
「そんな訳ないでしょうが。雇ってる子でしょう?」
「オレに雇われるということは女はオレに抱かれるということだ!」
訳分からん。それでいて就職の時にその事は説明してないんだと。せめて同意の上ならば自由にしなさいってところだけど、こいつは、「いざって時に顔が歪むのがたまらなく好き」みたいな性癖らしく、話してないんだと。サプラーイズってか。