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第十一話 救出

灯台モトクラシー

 今すぐに助けに行きたい。映像越しに転移テレポートを発動させようとする。ダメだ、飛べそうにない。転移に大事なのは飛ぶ先の情報なのだ。薄暗い地下室ではそれがどこなのか分からない。しかも多分地下一階だとは思うけどそれより下かもしれない。


「クソ、どこだよ、ここ。薄暗くて分からねえ」

「落ち着いて。そうね、このウェイターも馬鹿ではないでしょうからどこかの廃屋を使ってるはず」

「さすがに勤め先の倉庫には閉じ込めてないと思うんだけど」


 さすがに直ぐに足がつくし、オーナーに知られたら大目玉で店から追い出されるだろう。バイトテロとは訳が違うのだ。


「私たち冒険者ギルドには捜査権なんてありませんからね」


 捜査権を持っているのは領主、そしてその代理である代官である。だいたい貴族で、今回問題動きが疑われているのはその代官なのだ。


 なるほど、先程ギルドマスターが「私の実家」の力を使えないかと言ったわけだ。私のことを外国の貴族と勘違いしてるからね。


「スラムにある地下室のあるビルならいくつか知ってる。でもだいたいどっかのグループのテリトリーなんだよ」


 どうやらスラムの中にギャング団みたいなのがあってそいつらが地下室のあるビルを根城にしていたりするらしい。まあウェイターがそのギャングなのかは分からないけどそうでないとも言いきれない。


 八方塞がり。こうなったら一軒一軒覗いて見るしかない。私はビリー君に案内を頼むことにした。スラムにある地下室のあるビルを全部調べるのだ。


「よし、そういうことなら」


 ビリー君は快く引き受けてくれた。私はビリー君を連れてスラムに跳ぶ。あっという間にビリー君と出会ったあの場所に辿り着いた。


「こっからだったら近くにあるよ」


 小走りで走る。ビルの周りには何人かの男がたむろしていた。あれがギャングってやつ? ちっとも強そうじゃないんだけど。派手ではあるから近寄りたくはないかな。


「どうする? 処す?」

「いや、待ってくれ。あいつらは友好的な奴らなんだ」


 そう言ってビリー君はにこやかに手を振って近付いて行った。


「やあ兄弟」

「おお、ビリーじゃねえか。今日はいつものしっぽは居ねえのか?」

「リリィなら家で寝てるよ」

「おっ、また体調崩したのか? あいつ弱いからなあ。気をつけてやれよ。なんか食って行くか?」

「あー、いや、いいんだ。ちょっと捜し物してるだけだから」

「金になるんなら付き合ってやるぜ?」

「いや、報酬とかも少ないんだけど妹の為だから」


 それを聞くとチャラそうな男がうるうるし始めた。


「そうだよなあ。お前は立派だよ。オレもあんな可愛い妹欲しかったぜ」

「まあまあ、それじゃあそろそろ行くよ」

「おう、気を付けろよ」


 そんな会話をしてこっちに戻ってきた。随分仲良さそうだね。


「あそこのチームは昔、飯食えなくて倒れてた時に食事を貰ったんだ。顔は派手だけど良い奴ばっかさ」

「それじゃあ妹さんが居るわけないじゃない」

「いや、保護されたのかもって」


 あー、このチームが保護して、たまたまうえがこのチームで見つけていじめたみたいな。なるほど。そういう考えもあるのか。でも違ったので次。


 次のビルは今度はタチの悪そうな奴らがいた。まさかこいつらとも友好的? って聞いたらそうでも無いみたい。見境ないから気をつけてって言われた。しかしどうしよう。せめてビルの中が見えたら……おや?


 私の中で何かが弾けた。もしかして、見えるのかな、私。透視クレヤボヤンス。呟くとビルの中が手に取るようにわかった。手前にいる奴らの服も透けて見えるけど視界には入れなかったよ。


 地下室を見る。デブの男が三四人の女の子を侍らしてベッドの上で下品に笑っていた。ベッドの上でものを食べるのはどうかと思うな、私。


「ここじゃない」

「え?」

「中が見えた。デブがいた」

「ピッツの野郎だ。知り合い?」

「いや、私は知らない。でも見えた」

「やっぱすげぇな。じゃあここはナシだ」


 そんな感じでスラムのビルを何軒も回ったが、ビリー君の知る限りの地下室のあるビルではリリィちゃんは見つからなかった。


「ビリー君、もうビルはないの」

「うん、ないんだ。リリィ……」


 泣きそうになるビリー君。こうなったらスラムに詳しい人員を雇ってやるしかないか。そう思って転移した場所はビリー君と入ったレストランの前。


「オレがここに入らなきゃ」

「そこはごめん、私のせいだね」

「いや、いいんだ。キュー姉ちゃんは美味しいものを食べさせてくれようとしただけだしな」


 ビリー君、いい子だなあ。私は何気なく店内の様子を見てみる。あのイケメンウェイターがここに居る。仕事中なのだろう。顔を見るだけでムカムカしてくる。顔が良ければ何をしてもいいと思ってんのか?


 そして、私は何気なく視線を下に向けた。レストランの地下倉庫、縛られたリリィちゃんと恰幅のいい脂ぎったオッサンのオーナーが下卑た笑いを浮かべながらそこにいた。


「いたぁ!?」

「なんだよ、いきなり。どっかぶつかったのか?」

「違うよ! ビリー君。リリィちゃんだよ! リリィちゃんがここに居る!」

「なっ!?」


 そういうや否や駆け出そうとしていた。私は慌ててそれを止める。


「待って、こっちの方が早い!」


 私は転移で地下室に移動した。透視先に転移とか出来るのかなと思ったが、割とスムーズに出来た。出て来た座標はオーナーの上。


「ぐへへへ、ぐへぇ!?」

「リリィ!」

「あ、おに、おにい、お兄ちゃぁん!」


 私は完全に蚊帳の外である。でもまあ見つかってよかったし、衣服も乱れてないみたいだから間に合ったんだろう。


「良かったね、リリィちゃん」

「あれ、お姉ちゃんだ。どうして?」

「説明はあと。逃げるよ」


 私はビリー君とリリィちゃんの手を取る。


「させるか!」


 咄嗟の判断か転移の瞬間にオーナーに足を掴まれた。そのまま転移してしまう。目標座標はギルドマスターの部屋だ。

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