第百四話 捕縛
ちなみにキューちゃんは薬への耐性はそれなりについてます。
アンナと一緒に入浴したあとはアンナが冷たい飲み物を持ってきてくれた。これは……ジュースだねえ。というか果実を搾ったやつ。そういえばこういうの飲みたいと思った事ないな。食事時以外は飲み物とか摂取しないもんね。
飲んでみると氷で冷やしたのか冷たさがしみる。冷蔵庫でもあるのかなと思って聞いてみたら火門の魔法を使えるメイドがいるのだそう。エレノアさんでも出来そうだから今度やってもらおうかな。
「では、食事まで暫くお待ちください」
アンナが恭しく礼をして部屋の外に出る。音はしないが透視で辺りを見る。隣の部屋に何人かの男性がいて、扉の外は騎士が二人固めている。扉から出ようとしたら斬りかかって来るかも。
さて、どうしたものか。このまま街に出てもいいんだけど、いつ部屋に入ってくるか分からないもんね。ご飯までは大人しくしておこうかな。しかし、順風耳持ってないから声が聞こえないのは難点だなあ。何やってるのかは見えるんだけど。
ちなみに何をやってるかと言うと剣を磨いている。いや、剣だけじゃなくて投げナイフとか槍とかも磨いている。おそらくは命令が下ったら私を始末するつもりなんだろう。まだ偽物の書状と思われているのだろうか。
まあ考えても仕方ない。しばらくは寝ることにしよう。障壁は寝ながらでも張れるから一応やっておく。
しばらく寝てたらノックの音で起こされた。窓の外は夕日が沈もうとしていた。疲れてたのかな? 何時間寝たんだろう。
「キュー様、お食事の用意が整いました。お運びしてもよろしいですか?」
外にいるのはアンナらしい。食事か。なんだかんだで昼ごはんを食べてないからお腹は減っている。喜んでいただくとしよう。
アンナは私の返事を聞くとゆっくりとドアを開いて中に入ってきた。食事はワゴンのようなものに載せられて運ばれてきていて上に布のようなものが被せてある。毒物を途中で盛られない為か、それとも単なる冷めないようにという心遣いなのか。
「どうぞ、お召し上がりください」
私のベッドのそばにあるテーブルに料理が並べられていく。カトラリーを置かれたあとはスープとサラダが出された。一応念の為に鑑定。うん、毒物などは入ってないようだ。
サラダを食べる。うーん、もっと油っぽいドレッシングが欲しい。さっぱり過ぎる。スープは……うん、温かくて美味しい。良くコクがある。
両方を平らげると肉料理が出された。せっかくだからいっぺんに出して欲しかったけど。なんかの鳥肉みたい。
「アンナさん、これ、なんだか分かる?」
「私のことはどうかアンナとお呼び捨てになさってください。そちらはキジバトの塩焼きです」
八洲でキジバトと言えば体長三十センチくらいのハトの仲間なんだけど、このキジバトはかなり大きい。五十センチくらいの肉だ。いや、美味しそうだからいいんだけど。
どうやって食べるのか分からなかったので、切り取って食べる。肉汁が閉じ込められていてとても香ばしい。これは食いでがある。ご飯が欲しいなとか思いながら食べる。あ、パンはあるよ。なんか硬いやつ。
骨についた肉をしゃぶってたら甘味が出された。果物を凍らせたものらしい、いわゆるシャーベットた。スプーンて削り出して食べる。ガリガリと削るのは楽しい。
食後にはお茶が出た。少し濃いめのお茶だ。なるほど、ここに入れてきたか。間違いない。眠り薬だ。毒では無い。もしかしたら毒を盛られるかと思ってたけど、眠り薬にしたみたい。私が警戒しながら食べていたら入れなかったのかもしれない。
まあ私は鑑定で分かるから気にしないで食べたんだけど。しかし眠り薬なのは解せない。もしかして、私のこの肢体を狙って? いやまあ、そりゃあ脚線美には少しは自信ありますけど? えっ、初耳? ボディラインは綺麗なんだよ! じゃないと潜入捜査がやりにくいからね。モデル体型ならぬマネキン体型だよ。
「アンナ」
「なんでしょうか?」
「良かったら一緒に飲みませんか? お話ししながらこの街について教えてください」
「え? ああ、はい、よろしいのですか?」
あれ? アンナはもしかして関与してない? 心の中を覗いてみよう。接触テレパス! ありゃ、まっさらだ。新人だけど失敗しないように頑張ろうとか思ってる。うん、いい子だ。となれば最初からこのお茶に入れるつもりだったってことか。
私はカップを手に取り、アンナに手ずから入れてあげた。なんだよ、これくらいは出来るよ。注ぐだけだもん。
さてと、あとは効くまでおしゃべりだ。この街のいいところ、悪いところ、名産品、美味しい食べ物、街の人の様子、聞きたいことは沢山ある。
街のことについて話し始めたと思ったらカシャンと音がして、カップを取り落としていた。もう効いたの? 即効性? それとも疲れてたから効いちゃった?
そのままアンナは眠った。私もそれに倣って寝たフリをする。どんな反応になるのか確かめたい。
しばらくすると隣の部屋からだろう、男性が数人入ってきた。そして眠っているアンナと目を瞑っている私を確認する。
「おい、二人とも寝ちまったみたいだぜ」
「呆気ねえなあ。ご主人様は警戒してたみたいだけど所詮は小娘って事だ」
「で、どうする?」
「二人ともご主人様の寝室に運べってよ」
「うひゃー、好きだねえ。アンナも可哀想になあ」
「遅かれ早かれお手つきにはなってたろ? そういうお方なんだし」
「違えねえな」
今の会話からすると私とアンナは領主様であろう男の慰みものになるらしい。あの、ヒルダ様の書状はいいのか? いや、あまり深くは考えてないのかもしれない。まあいかにもな顔してたもんなあ。NTRもののチャラ男みたいな。ウェイ系だったし。
「よし、こいつは冒険者らしいから魔法封じの手枷つけとけ」
がちゃんと手に何かを嵌められた。どうやら嵌めていると魔法が使えなくなるらしい。まあ、私にはあまり意味が無いんだけど。