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第百三話 居候

また風呂かよ!って言わないでください。

 「あの、これを」


 私はおずおずと書状を差し出した。


 「なんだ? 賄賂か? まあ身体で払って貰ってもいいが、と思ったがその貧相な身体では食いでは無さそうだな」


 放っとけ! 私の身体は潜入捜査とかそういうのに便利な様に、あと、目立たないように、ちゃんと、調整された、賜物なんだ!


 「何かあればこれを見せるようにと言付かっておりまして」

 「なんだ? 田舎の村の村長でも署名してあるのか? 言っておくがそんな十把一絡げな書状などなんにも………………」


 書状を読んでいる男爵の顔色が明らかに変わった。怒りの赤色レッドではない。顔から血の気が引いて青くなってる。というか色を無くしている。


 「き、き、貴様、こ、これを、ど、どこで、盗んで、」

 「いえ、もらいました。ヒルダから」

 「ひうっ!? なぜ、なぜ、あのお方がお前如きにこれを!?」

 「少々縁がありまして」


 ついでに言えば二大公爵家のどちらにも顔は利くのだが、言っても仕方あるまい。


 「…………あ、あー、その、なんだ。諸君らの働きには感謝している。報奨はそれなりに出させてもらおう」

 「ありがたき幸せ!」


 冒険者パーティーと吟遊詩人は小さな袋を受け取ってそれぞれ帰って行った。いや、私は? 私は帰れないの?


 「さて、貴方様の仰ることを簡単に信じる事は出来ぬ。それで、確認の使者を出そうと思うのだが」

 「確認の? ええ、まあ、暫くは滞在するつもりですので」

 「うむ。滞在する場所は領主邸の中に部屋を用意しよう」


 ええー、領主邸とか滞在したくないんだけど。まあいざとなったら転移テレポートで逃げたらいいか。


 「分かりました。お世話になります」


 宿屋はどの道取らなきゃいけないと思ってたから渡りに船ではあるんだけど。出掛けるのが面倒そうだなあ。


 「よろしい。では部屋を案内させよう。入りなさい」

 「お呼びでございますか、旦那様」


 入ってきたのは三つ編みメイド。なんというか素朴な感じの女性だ。ただ、所作は割としっかりしている。


 「アンナと申します。なんでもお申し付けください」


 ん? 今何でもするって言ったよね?(言ってない)まあ私も鬼では無いから無茶振りするつもりは無いんだけど。


 「では、後はこの者に案内してもらってくれ。私はちと仕事が立て込んでいてね」


 仕事が立て込んでいるのは本当か嘘かは分からないが、この性格の人だと面白そうな事案が来たから首を突っ込みに来たんだろう。そして雲行きが怪しくなったから引っ込む。なるほど、貴族の立ち回りというやつか。それに引替えテオドールは。相変わらず書類仕事はしてないらしい。ヒルダ様頑張るよねえ。


 「では、こちらへ」


 アンナに先導されて、屋敷の中を進む。私としては出掛けたいんだけど、一旦は部屋に案内してもらおう。


 「こちらでございます」


 案内された部屋はそこそこ大きい客用寝室である。男爵と言えとも来客はそれなりにあるのだろう。まあ港町を管轄してるなら利権は数多くあるんだろうね。


 「お食事は部屋に運ばせていただきます。入浴など用事がございましたらなんなりとお申し付けください」


 食事はこの部屋で、まあテーブルもあるし不便では無い。入浴は風呂場があるらしい。お風呂は大切だよね、うん。


 「じゃあ街に出掛けたいんだけど」

 「申し訳ありませんが出す訳にはいきません」


 アンナに拒否されました。いや、市場に買い物というかウインドウショッピングしたかったんだけど。いや、窓は無いからウインドウショッピングってのは変か。まあどんなものが売ってるのかは見たかったんだよね。


 「なんで?」

 「旦那様の言いつけでございます。ご容赦ください」


 どうやらこのメイドさんは私が街に出ないようにする見張りらしい。転移で逃げ出してもいいけど、ヒルダ様の名前出しちゃったからなあ。まあ確認が取れるまでの間だろうし、そこまで急いでる訳では……あ、いや、それなりに急いではいるけど。


 「あー、わかりました。それなら夕食まで入浴させてもらってもいいですか? 旅帰りですし、戦闘もありましたから」

 「はい、こちらでございます」


 アンナに連れられて再び部屋の外へ。風呂場は二種類あり、領主家族用と使用人用らしい。私は、領主家族用に案内されそうになったけど、道中の解説で使用人用のお風呂の方にしてもらった。絶対落ち着かないもん。


 脱衣場で服を脱ぐ。後は一人で出来るからと声をかけようとしたらアンナまで服を脱いでいた。ぷるん、とおっぱいが揺れる。なかなか結構なものをお持ちで。いや、私もそこそこはあるよ? でも私よりも大きめだねえ。ティアには及ばないけど。


 「お背中をお流しするように申し使っております」


 これは嘘だろう。おそらくは風呂の中まで見張っていろと言われてるんじゃないだろうか。まあ、私も見られて困ることなど何も無い。研究所ではケツの穴まで見られてたしね。何がバイタルチェックだ、医療班のくそばばあ。


 中はそれなりに広く、ちらほらと使用人の姿も見える。男性用と女性用で浴槽は分かれているので目に見えるとこにいるのは女性ばかりだ。


 浴槽に入る前に身体を洗うのはここでも同じらしい。アンナは私を流し台に座らせると、泡の出る木の実を潰してその泡で私の背中をゴシゴシし始めた。


 「冒険者にしては綺麗な肌ですね」

 「あー、まあ、あまり傷になる様なことしてないからね」


 実際は治癒ヒーリングの能力で小さな傷は即座に再生が掛かるんだけど。まあそこまで話す必要もないかな。


 お湯を流してもらって気持ちよかったので、私もアンナの背中を流してあげることにした。いやまあ、スキンシップしとかないと気まずいのは嫌だし。


 背中を向けて貰うと肌はちょっとがさついてるかなって感じだ。肩の辺りからなんか傷になってる感じのものがあった。いくつもの筋がついていて模様のように見える。痛くないのかと聞いたら気付かなかったと。なるほどねえ。

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