第百二話 入関
浅黒肌の男性、割と好きです。NTR系のチャラ男みたいな奴。
追ってきてるやつを突き放すように街に向かって転移する。触れていれば出来るから大して疲れたりしない。
追いつく。
テレポート。
追いつく。
テレポート。
追いつく。
テレポート。
追い……ついてこない。へばっている。
「ち、ちくしょう、なんなんだお前は!」
「私? 私は通りすがりの単なる商人見習いだよ」
「単なる商人にそんな真似が出来るかよ!」
いやまあどっちでもいいよ。ここまで来れば十分さ。あ、弓ても射掛けてくる? 私には通じないよ。周りに障壁張ってるからね。
「何の騒ぎだ!」
ほーらでーたぞ、たなあげぼうやもたなあげむすめも出て来ないけど、異変を聞き付けたアンダーゲートの衛兵たちだ。すごく面倒そうな顔をしてるが、街の近くで騒ぎでも起こされた日にはこうやって誰何しないと責任問題になるよね?
「盗賊です。巡回馬車が襲われました!」
「なんだと!? おい、人数を集めろ!」
「くそっ、やってられるか!」
衛兵たちが仲間を呼んでいる間に盗賊たちは逃げ始める。向こうの方はだいぶ片付いたみたいだな。さすがは護衛に定評のある銀級の冒険者だ。
私は逃げようとする盗賊団のボス格の奴らの逃げ道を塞ぐ。ボス格ってなんで分かったかって? だって命令してたもん。「そいつをぶっ殺せ」って。ボスじゃないにしてもそれなりの身分って事でしょ。盗賊団の中では。
「逃がすと思った?」
私は転移で男たちの前に出る。そして、広範囲に障壁を展開した。厚みはないけど、前には進めない。いや、力づくで壊すことは可能だと思うけど、それでも力を込めないとダメ。一見すると逃げ道のありそうなこの状況で、力任せに障壁を破ろうとする奴はかなり冷静な判断が出来るやつだろう。
案の定、盗賊たちは障壁にぶつかると、そこから横に移動して逃げようとした。無駄無駄。それぞれ一キロずつ横に長く延ばしてるから。その代わり高さはそこまででもない。二メートルくらいだ。空が飛べたら逃げれたかもね。
「捕まえたぞ!」
「バカな!」
障壁の前でもがいてた奴らを衛兵たちが捕らえる。とんだ捕物になってしまった。衛兵たちにとっては迷惑だったろう。他の馬車の客たちも事情聴取という事で街中への入門を許された。まあ門の中に入った時にはもう夜中なんだけど。
「とりあえず取り調べを行う。名前は?」
「キューです。冒険者ギルドに所属してます」
「ここには何の用で?」
「ええと、商売のネタを探しに」
「お前は冒険者だろう?」
「商人でもあります」
とりあえずまだ商人としては取り扱う品も決まってないので、身元のしっかりしてる冒険者を名乗った。
「盗賊団とは無関係だな?」
「ええ、もちろんです」
衛兵の責任者が取調室のテーブルの上に置かれた小さな箱を見る。箱は沈黙を保っている。あ、真偽の箱か。ごめん、それ、私が嘘ついてても分からないと思うよ。魔力ないから。
「ふむ、嘘は言ってない様だな」
ごめんなさい。嘘はついてませんが、ついててもそれでは分かりません。
「よし、わかった。とりあえず今夜はこの宿舎に泊まってくれ。朝になったら領主様に報告する」
入門手続きは特にないらしい。巡回馬車なら降りた時に色々調べられるらしいけど、今回は盗賊の仲間じゃないって尋問でわかったのでパスらしい。
とりあえず一日二日徹夜した位ではなんともないけど、寝れるなら寝ておこう。しかし、ここのベッド、やたら硬いなあ。羽毛布団とか欲しい……
翌朝。朝一番に起きました。嘘です。あまり眠れなかったんで早めに目を覚ましたんだよ。寝るならもっとゆっくり寝たい。
領主様に呼ばれてるということで私を含めた乗客全員が城に呼ばれた。いや、城とは言ってるが、ちゃんとした城ではない。田舎の寄合所みたいな外観の平屋だ。領主様、こんなところに住んでるの?
中に入ると広くなったところにそのまま謁見の間が入ってる様な場所だ。もしかしてここ、謁見の間だけ作ってあるところ?
「面をあげよ」
恭しく頭を下げていると領主様から声が掛る。顔は……まあ悪くない。ナイスミドルというやつだ。浅黒い肌が異彩を放っている。別に私は白くて綺麗な肌じゃないといけないなんて思わない。日焼けした肌には日焼け肌の良さがあるのだ。問題はイケメンかどうかだ。
そこにいくとこの領主様はとんでもないイケメンではないが、それなりにいい男だ。精悍さが顔に出ている。文書仕事よりかは外で活発に活動してそうだ。
「オレがこの街の領主、シンター・アンダーゲートだ。一応男爵位は貰ってるが、大した身分じゃねえ。かしこまらなくていいぞ」
「シンター様!」
「うっせぇな。王都の舞踏会でもあるまいし、礼儀なんか犬にでも食わせちまえ」
側近の人が諌めていたが気にもとめてないようだ。苦労人なのかな。メガネをクイクイしてる。下っ端研究員がよくやってた仕草だ。
「あー、この度は巡回馬車を盗賊団から救ってくれてありがとな」
「勿体ないお言葉!」
冒険者パーティのリーダーらしき男が恭しく返事をした。私たちと同じ馬車に乗っていた剣士の人だ。この人がリーダーだったのか。
「吟遊詩人のお前も魔法で援護してくれていたらしいな」
「いえ、私は自分の身を守っただけに過ぎません。それに英雄譚にも等しい活躍を目の前で見せていただいて詩のタネが出来ました」
言いながら楽器を奏でる。ポロロンと綺麗な音色だ。ああいうのも聞いてみたら面白いかもしれない。
「そしてお前だ」
「私ですか?」
領主様が私に向き直った。
「荷馬車を御者なしで移動させたそうじゃねえか。一体どうやったんだ? 木門の魔法か? それともなんか別のもんか?」
「あ、ええと、その、まあ色々とありまして」
「色々じゃわかんねえよ。一応オレァ領主だぜ? なんなら強要も出来る立場なんだが」
いや、脅迫かよ! はっ、そう言えばもしこの様な事があればこれを使えとヒルダ様が。今がその時だ!