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第百一話 逃走

なお、逃走中は見た事もない模様。

 果たして、盗賊団は襲来した。街の近くだというのにご苦労な事だ。それとも街の近くだからこそ襲って来てるのかもしれない。つまり、街の衛兵がここに来ることはないという事だろう。


 それならば各領の騎士団が周回してるんじゃないかと思うんだけどそれも来ないのかもしれない。恐らく盗賊団はそれを熟知しているのだろう。


 そうでなければ単なるバカだ。単なるバカがそこまで長く活動出来るわけが無い。当然盗賊団も大きくなっていかない。人数が増えて大きくなればそれだけしなければいけない対策も増えるというものだ。


 今回襲撃してきたのは三十人くらいの集団。人数差は絶望的だ。三十人くらい大したことないって思ってしまうのは無双ゲーをやってた記憶からだろう。お主こそ万夫不当の豪傑よ!みたいな。


 冒険者の数は六人。前衛の盾役二人、回復役の水門魔法使いが一人、弓使いが一人、火門魔法使いが一人、なんでもこなしそうな人が一人だ。私の見た剣士は壁役の人だったみたい。パリィ!とか叫びながら攻撃をいなしている。一対一なら強いんだろうけど、複数人が波状攻撃してくる今は多勢に無勢だ。


 吟遊詩人が近付く盗賊たちを風魔法で吹っ飛ばしている。どうやら彼も魔法が使えたらしい。


 私の方にも攻撃は飛んでくる。剣での斬り合いとかやったことないから困るよね。私も教えて貰うべきだろうか。運動能力はそこまで悪くないはずだし。


 えっ、攻撃? ああ、こいつら程度の攻撃なら私には障壁バリアがあるから傷つかないよ。私に届く前に剣がボロボロになるよ。まあ檮杌とうこつよりも高い攻撃力の人が居たら話は別だけど。


 ガキン、と私の後ろで音がした。私は盗賊に対峙している。後ろに回り込まれたのだろうか。そう思って後ろを振り向いてみると、驚愕した顔をうかべたカップルの片割れの女性。手には細長い円筒型の棒を持っていた。あれは、なんだろうか?


「馬鹿な、どうして」

「何がどうして、なんですか?」

「ご、ごめんなさい。盗賊を狙ったんだけど外してしまって」

「それはなんですか?」

「これは吹き矢よ」


 どうやら間違って撃ったのが私に当たった様だ。……ってそんな訳あるかい! 吹き矢ってことは飛距離はそこまでないんだよ? それなのに私よりさらに先にいる盗賊に当たるわけないじゃん。


「初めて見ました。どう使うんですか?」

「ええ、そうね。こうやって……口に当てて、こうよ!」


 ガキン!またしても私の障壁バリアに阻まれた。弾丸よりは弱そうだから多分貫通しないと思うの。


「完全に不意をついたのに防がれた!? もしかして常時展開してる!? なんて魔力量なの!?」


 いや、そもそも魔力は関係ないんだけど。なんでも水魔法に身体の周りに障壁を張ることが出来る魔法があるらしい。私のは魔法じゃないからね。それはともかく……


「あなたも盗賊団の一味なの?」

「くっ、バレたら仕方ない。そうさ。油断させて殺すのが役目だったんだがねえ。あんたにゃ通じなかったみたいだ」


 バレたというのに随分と余裕そうだ。なんでだろう?


「だが見てご覧? 他の奴らを。数の差ってやつさ。戦いは数だよ。数を揃えた方が勝つのさ」


 まあ私は政治に傾倒していたヒトラーのしっぽでは無いのでそんなことは分かってる。私だって数を揃える事が出来れば揃えたかったよ。


「私もそう思います。戦いは数だと。でもやるしかないんですよ。みんなを助けるためには」


 私は馬車に手を当てた。そして、馬車を連れて転移をする。場所は、少し離れた場所だ。アンダーゲートに近付いている。


「荷物が……消えた!?」

「あそこだ!」


 全部の馬車をいっぺんに、というのは無理だが一台くらいならなんとかなる。そしてこの馬車は積荷を積んだ馬車。冒険者が乗ってたやつでも、私たちが乗ってたやつでもない。盗賊団の主要目標。


 そう、盗賊団は殺したくてやってる訳ではない。目的は荷物なのだ。極端な話、荷物を全部差し出せば見逃してくれる盗賊団だっているんだ。


 商人さんが道道で話してくれた。馬車を使わないのはこの街道に盗賊団が出るからだと。乗り合い馬車を使ったのはそれなりに信頼出来る冒険者が居るからだと。


 この噂が出回ってたら自前で馬車は使わないという商人が続出したのかもしれない。当然ながらこの商人さんは流通ルートが細くなってる今なら一攫千金ができると思ってアンダーゲートに行くところらしい。


 そして、冒険者ギルドもそれを知っている。知っているから護衛の冒険者は優秀なシルバー級のパーティに依頼したんだそうだ。


 アンヤ婆ちゃんの言ってた「護衛の依頼がいくらでもある」というのは「護衛を任せるに足るパーティは出払ってる」って事だ。


 ちなみに私に護衛させようとしたのは、私なら転移テレポートがあるからいざとなったら馬車ごと転移出来るから、というのが理由だろう。人遣い荒いよね。しかし、こんなことなら依頼受けといた方が良かったのでは? ボブは訝しんだ。いや、ボブって誰?


「おい、貴様、一体何をした!」

「馬車を動かしただけだよ?」

「嘘だ! 御者は最初に殺った! その馬車が動く訳ねえ!」


 あー、御者さんは殺されちゃったのか。誰か代わりいるのかな? 動かすの大変だよ。あ、馬はついてるままだから動かせはするんだけど。私に御者の技能はないよ? はいよー、シルバーっていうだけなら出来るけど。


「そんなこと言われても……ほら」


 私は改めて転移で馬車をアンダーゲート方面に向けて転移させた。


「また動いた!」

「おい、やべえぞ。アンダーゲートの方に寄ってねえか?」

「なんだと? クソ、そいつをぶっ殺せ!」


 血なまこになって男たちが殺到してくる。あ、これ、あれだ。逃走中ってやつだ。鬼ごっこみたいなやつ。私、苦手なんだよね。まああの頃は転移も取得してなかったし、追う側がむしろ転移使って来てたけど。転移使える今なら負ける気はしないよ。ハンデは馬車だね。

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