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第百話 道中

盗賊団の名前は特に決めてません。

 お尻が痛い。馬車が進むにつれてお尻のダメージも深刻なものになっていく。そりゃあまあ舗装もされてない道路をゴムですらない木製の車輪で進んでいるのだ。揺れは当然である。


 しかも座席は木製。こんな世界に板バネやショックアブソーバーなんてある訳ないから揺れはダイレクトにお尻にくる。よく見ると商人はお尻にクッションのようなものを敷いている。


 カップルは男性が女性を膝に載せている。これは恐らく彼女のお尻を心配したものだろう。男性はひたすら耐える構えらしい。男らしいものだ。


 吟遊詩人の人はそもそも座っていない。なるほど、最初から立っていればお尻は痛くならないね。あ、座席には楽器や荷物が置いてある。


 膝立ちで外の景色を見てるのは記者さんっぽい人。あれはあれで膝が痛くなりそうだけど。時々立ってるから軽減はしてるのかもね。


 私はもう我慢が出来ないと、お尻の下に念動サイコキネシスで薄い膜を作る。揺れからお尻を守るんだ。あ、ダメだこれ。念動通じて揺れの衝撃が来る。他に何かないのか……


 馬車が拓けた場所で止まって、今夜の野営地と言われた。馬車から降りてテントを立ててもいいし、馬車の中で寝てもいいんだって。護衛の冒険者はご飯を採りに行ったらしい。食事は各自で用意するんだって。


 一応アイテムボックスには温かい食事を入れてるけど、ここで出すのもどうかと思ったので保存食を摘む。固くて食べにくい。塩辛いのはいいんだけどね。


 テントを出すのも目立ちそうなので、馬車の中で寝させてもらう。カップルは木が生えて森っぽくなってる方に進んで行った。もしかして野外活動のお時間ですか? いや、覗いたりしないからごゆっくりどうぞ。


 商人さんがスープを分けてくれた。その代わりに話し相手になって欲しいんだって。人肌が恋しくなったんだろうか。記者の人も女性じゃない? いやまあ温かい食べ物はありがたいから付き合うけど。


 商人さんは行商人だったけど、街の商人の娘に見初められてお店を任される事になったんだって。で、そのお店の経営はそこまで上手くいってないから、何か珍しいものを仕入れてきたいとアンダーゲートの街に望みをかけたらしい。


 で、行商の時に使っていた馬車は資金繰りのために売り払ったらしい。いや、馬車残してそれで仕入れしなさいよ!


「あなたはどうしてアンダーゲートに?」

「ええと、魚介類が美味しいって聞いたから」


 嘘である。まあ魚介類が美味しいのも行く理由にはなるけど、下手するとこの商人さんと扱う品が競合してしまうかもしれないのだ。目の付け所がシャープかどうかは分からないけど、行商人ってことはそれなりに目端は利くと思う。


 食事も終わってのんびりしてたら吟遊詩人が歌い始めた。アンダーゲートにまつわる歌みたいだ。なんかクラーケンがどうとか、メイルシュトロームがどうとか言ってた気がする。


 ぶっちゃけ、メイルシュトロームってでかい津波で全てを押し流すみたいに思ってたんだけど、巨大な渦潮なんだってね。私としては渦潮はサイクロンスクィーズなんだよなあ。いや、あれは水の竜巻なんだけど。


 食事終わってしばらく後にそれぞれが就寝する。私も馬車の中で寝るよ。あの男女は戻ってこないけど、盛り上がってんのかな? いやいいや。寝とこう。


 疲れていたからか、目を瞑ると眠気が訪れる。誰も来ないとは思うけど、私の周りは障壁バリアで覆っておこう。


 しばらくすると喧騒で起こされた。なんだよ、もう。眠いんだけど。周りがなんだか明るい。焚き火の火がテントに燃え移ったりしたのかな? 馬車に被害は無さそうだからほっといてもいいよね?って思ったけど、寝付くにはうるさ過ぎる。


「ちょっと、なんなの?」


 馬車から外に顔を覗かせると、森から男女が走ってきていた。後ろからは松明を掲げた男たちが寄ってくる。これは、盗賊団というやつか?


「ひぇー、なにごとですか?」


 商人が慌ててテントから出て来た。そこに盗賊の斬撃が迫る。私は咄嗟に障壁で斬撃を弾いた。良かった、成功だ。


 私がやったとかは分からないはず。商人さんは必死で馬車まで走ってくる。そうこうしていたら護衛の冒険者が現れた。人数差的には冒険者の方が少ないんだけど、がっちり馬車の後ろ側を固めてくれてるので安心出来る。このままもう一回寝ようかな。


「ヒャッハー!」


 今どきヒャッハーなんて叫ぶバカいるんだとか思いながらいわゆる手斧を持って襲って来る。斧ならば馬車を解体出来るからだろう。よく考えてある。まあ、私が居るんだけどね。


 ガキン!盗賊たちの斧は何か硬いものに阻まれた。車輪も折れよとばかりに攻撃して来たもんね。斧をまじまじ見つめて呆然としたあと、もう一度叩きつけるように馬車を攻撃する。


 もう一度ガキンと音がして弾かれた。そこに冒険者が後ろから攻撃。盗賊たちは制圧されたようだ。


 まあ何のことは無い、私の障壁バリアなのだけど。自分の身体の周りではなく、馬車の周りに展開してみた。障壁解いた後に冒険者のうちの一人が馬車に攻撃して、荷台の一部が破損したりしたのだが、それは別口。冒険者は雇い主にこっぴどく叱られていた。


 そんな感じの旅が二日目も続き、三日目の夕方近くには街が見えるくらいにまで近付いた。街に入りたかったが、閉門時間に間に合わないということで街の近くの草原で再び野宿である。


 いや、この距離なら私は街中に入れるけど、正規の手続きを取った方が良さそうだからみんなと一緒に休んだ。


 また男女のカップルが離れていったので野外活動ご苦労様です、って思って見送った。あれ? でも初日の夜はあの二人、襲撃の時にどこにいたっけ? そうそう、森から走って来てたよね。男女が二人で盗賊団から手を繋いだまま逃げ切れる? あれ? もしかして何か見落としをしてないだろうか。


 もしかしたら……私は護衛の冒険者の人に今夜も盗賊団が襲って来るかもしれないと用心を促しておいた。うん、悪い予感は当たって欲しくないんだけどなあ。

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