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尾行(episode11)

タケルはお金持ち。

「あー、まずは名前と生年月日、住所だな」

「古森沢タケル。皇紀二千七百三年九月十七日生まれ。住所は……」

御簾深みすみ凪沙。皇紀二千七百四年三月二十五日生まれ。住所は……」


 タケルと凪沙がよく分からない呪文のような言葉を吐いている。もしかしてなんかの組織の暗号だったりする?


「ええと、君は?」

「ティアは八洲語が上手く出来なくて」

「あー、そうだったのか。じゃあ代わりに君が」

「ティア・古森沢。皇紀二千七百八年 年八月二十日生まれ。住所は私と同じで……」


 それをさらさらと書取ってくれる。そして私はパスポートというものを求められた。それに関しては凪沙が日本生まれだから無いと言ってくれた。何か無いとまずいものなのだろうか。凪沙は何も言われてないんだけど。


「まあいいか。ともかく、事件について、というか乱闘について話して欲しいんだがね」

「分かりました」


 そうして凪沙は店内であったことを話してるはずなんだけど、私の覚えてることとちょっと違う。というか凪沙は居なかったよね?


「なるほど、だいたいわかった。あいつは古森沢のオーナーからも注意が来ててな。まだ何もしてないから捕まえられなかったんだが」


 どうやらオーナーが予め相談はしてくれていたみたいで割とスムーズに取り調べは済んだ。ふう、それにしても私、ティア・古森沢になってたんだけど。


「よぉし、じゃあ一応指紋採らせてもらってから帰ってもらうかね。いやあ、お呼び立てして申し訳ない。これも仕事でね」


 大男の方は一言も喋らずにギロリとこっちを睨んでいるだけだった。小男の方は陽気に笑うと私たちを帰してくれるみたいな事を言っていた。これで一件落着かあ。ああ、疲れた。


「はぁあ、えらい目にあったわ」

「凪沙、タケル、ありがとう」

「いいのいいの。こういう時のための私らだから。それよりも……いや、歩きながら話そう」


 そう言って私たちは歩き出した。今日は凪沙はタケルの隣を自分の足で歩いている。私、お邪魔かなあ?


「ねぇねぇ、ティアちゃん。瞬間移動とかワープとか出来たりしない?」

「え? ワープ? ワームなら知ってますけど」

「そうじゃないよ、そうじゃないんですよ」

「あの、凪沙?」


 タケルが不思議そうに聞く。凪沙は声のトーンを落として言う。


「警察署からつけられてる。なんでかは分からないけど」

「捕まえようってそれなら署内の方が簡単だっただろ?」

「警察の人じゃないか、表立って警察とバレちゃヤバいかって事じゃない?」

「うーわー、ぼく荒事は苦手なんだけどなあ」


 タケルが嘆く。うん、それは知ってる。初めて会った時も絡まれてたもんね。私は接客中かと思ってたんだけど。


「この先に公園があるからそこで迎え撃とう」

「迎え撃とうって、タケル、大丈夫なの?」

「大丈夫な訳はないけど、スタンガンくらいなら持ってる」

「なんで持ってるのかは聞かないでおくわ」


 そんな事を話しながら公園へと入る。日も暮れかけていわゆる薄暮の頃。彼方と此方の境界が曖昧となり、たそがれ時と呼ばれる時間。行方不明が多く見られる時間。


 実際は周りが見えにくくなることで落とし穴に嵌って死んだり、事故で車とぶつかったりしたのが始まりだろうが、ともかく周りが見えにくい。


 襲撃者はそれを承知の上なのか、私らが公園に入ると足早に追い掛けてくる。まずは誰何すいかの声からだ。


「待ってください。人違いでは無いですか?」


 タケルの言葉に人影たちは答えない。どうやら狙ってるのはこの三人の誰かで間違いないらしく、無言でジリジリ近付いてくる。


「あの、こんな事していいと思ってるんですか? 警察の方ですよね?」


 凪沙の言葉にも答えない。どうやら視線は私にあるみたいだ。私はなにかやったのだろうか? もしかしてアリサの傷を治したのが悪かった?


「おおおっ!」


 男のひとりがタケルに向かっていった。タケルはそれを華麗に交わす……なんてことが出来るはずもなく、胸ぐらを掴まれて地面に叩きつけられた。


「タケル!?」


 凪沙がタケルに近寄る。今度は男が凪沙を後ろから捕まえようとする。させるか!


 私は素早く男の前に回り込む。こういう奴らはまず足をとめないといけない。幸いにしてここは地面が剥き出しだ。


「土門 〈落窪ピット〉」


 男の身体がガクンと崩れた。そこに私は顔面へ膝蹴りを叩き込む。手応えあり。その後ろから別のやつが襲ってくる。一方向からしか来ないんだったら対処も難しくない。


「金門 〈身体強強化ワイドストレングス〉」


 魔法で身体のパワーとタフネス、そしてクイックネスをあげて向かってくる別の男を吹っ飛ばした。


「なっ!?」


 残った男が思わず声を漏らす。そしてそのまま逃亡しようとする。


「逃がさない」


 私は突風で相手のスピードを落としておいて走って追いつく。そのまま剣で攻撃して殺そうかと思ったけど、どうやら殺人はダメみたいで慌てて止められた。仕方ないからと柄で殴る。


「ねえねえ、こいつらどうする?」

「うーん、とりあえず尋問するかなあ。なんで狙われてたのか分からないとどうしようもないからね」

「じゃあ、タケルの秘密基地にレッツゴーだね」

「秘密基地じゃなくてセーフハウスね」


 そう言って一人が一人ずつ男を背負って近くにあるマンションに入った。そこでエレベーターに乗ってタケルがカードキーを差し込むと、エレベーターが自動的に動いた。


 エレベーターは買い物の時に学習したからね。でもボタン押さずに動くのはすごいなあ。


 やがて最上階と思しきところに辿り着き、エレベーターが開くとそこには部屋があった。出口に玄関があるのだ。こんなの初めて。


「相変わらず広いなあ」

「日頃はあまり来てないからメイさんに任せてるんだけどね」

「おかえりなさいご主人様」


 メイさんが誰かわからなかったが直ぐにそれは判明した。出迎えに出て来たのは実家でもよく見たメイドさんだったのだ。

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