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接腕(episode99)

ティアの本領発揮ですね。

「裕也さん、すいません。ちょっといいですか?」

「おや、どうだったね?」

「それがその、色々ありまして、お客様が来てるんですけど」

「客?」


 裕也さんが訝しげな返事をした時に、ターバンの男。高円寺? いや、違う違う。


「ユーヤ、ぼくだよ」

「……はぁ。やっぱりか。供の者も一緒でいいから入って来なよ」


 供の者? そんな人いたかな? とか思ったらすぅっと姿を現した。いや、わかんねえよ!


「ただいま戻りました」

「やあ、ユーヤ。何年ぶりだろうね」

「昨日カジノで会っただろう?」

「あれは、滝塚裕也に会ったんだよ」

「今のぼくも滝塚だよ」

「またまた。今は非公式なんだから鷹月歌たかつかで良いだろ?」


 いやまあだいたい予想はついてたけど、滝塚裕也の知り合いではなくて、鷹月歌裕也の知り合いなんだね。そういえば王族とか言ってなかった?


「ファハド。ぼくはそれを無闇に広げられるのを好まない。彼女がぼくの正体を知らなかったらどうするつもりだったんた?」

「ユーヤ、これでも王族だ。人を見る目はもちあわせている。君が婚約者なんて嘘をつかせるのに、事情を話してない訳がない」

「……彼女に嘘を言って婚約者にしていたら?」

「そんなことが出来るわけないだろう? 君は本当の婚約者殿になんと申し開きをするつもりだい?」

「うっ、ぐっ、メ、メアリー嬢はそんな、狭量な人間では……」


 どう考えてもこのファハドとかいう王子様の方が一枚上手だ。この人にも苦手なものはあるのか。


「いやいや、女性ってのは複雑なものでね。例え納得していても、別の女性、それもこんなに魅力的な女性が婚約者である君の側にいたら気が気じゃないだろう?」

「ぼくには、彼女が魅力的には、見えないから」

「この場合大切なのは君の価値観ではなく、メアリー嬢の価値観だ。彼女は素敵なレディになりたいと色々努力してるからね。もちろん、バストアップにも余念が無い」

「そ、そんな!?」


 裕也さんががくりと膝を落とした。バストアップがそんなにショックなのかな? まあ、私が手伝ってもいいけど。でもまだメアリー嬢とやらに会ったことないんだよね。


「まあ、それはおいといて、なんで君は滝塚裕也としてここにいるのかな?」

「滝塚で招待されたからだよ。君は?」

「ぼくは本来の立場たる、ナジュド王国の王子としてさ。だからハリードだって連れて来てるんだよ」


 ハリード、というのは先程の凄腕ボディガードの事らしい。一切気配を感じなかったから、向こうの世界にいたらゴールド級冒険者に匹敵すると思う。私が勝てるかって? 無理無理無理無理! ま、魔法の存在を知られてなければ先制で何とか、ってところかな。なんの慰めにもならない。


「しかし、よくやるよ。命を狙われてるところに飛び込むなんて」

「そんな事は百も承知さ。ぼくには彼女がいるからね」


 そう言って裕也さんは私の方を指さした。いやいや、私、そこまで強くないよ?


「ま、そこまで信用出来てるならいいかな。気を付けなよ。昨日だけで三度命を狙われてた」


 えっ、三度も狙われてたの? それって私が護衛として役に立ってなかったって事?


「知っている。だけど、問題ない」

「いやいや、昨日は暗殺メインだったけど、そろそろ強硬手段に来ると思うんだよね」


 ファハド王子がそんなことを言ってると向こうの方からドタドタという音が聞こえてくる。


「そら、おいでなすったぞ」

「ぼくの敵なのか、君の敵なのかはっきりさせたいところなんだが」

「そんなことどうでもいいじゃないか。見敵必殺サーチアンドデストロイだよ」

「お前な……くそっ、ティア、頼めるか?」


 言われて私は頷く。敵の技量は分からない。このハリードとかいう人レベルが複数居たらどうにもならないと思う。


「この部屋だ!」


 ドアの外から声が聞こえる。ガチャリと音がした。これは銃弾が飛んでくる音! 私は急いで水流で膜を作る。


「水よ壁となりて、飛来するものを押し流さん。水門 〈流水防御リフレクト〉」


 部屋の中に現れる水の壁。ドアを貫いて放たれる銃弾を上から下に流れる水が押し流していく。床に着いた水はどこへともなく消える。どこに消えるかというと、そのまま上に循環するのだ。ループですよ、ループ。


 ドアを蹴り破って入って来た彼らが見たものは部屋の中に不自然に存在している「滝」と、平然としている裕也さんとファハド王子。黒峰さんは後ろで立っているだけだ。


「なっ、なんだこりゃあ!?」


 よく見ると入って来たのは軍隊でも暗殺者でもなく、単なるアロハシャツ着たチンピラである。よく入れたな。こいつら。


「貴様らは一体なんなんだ?」

「うるせぇ! アニキのカタキだ! やっちまえ!」


 そう言って男たちはマシンガンを構える。軽快な連射音が響くが弾丸は一発たりととおらない。通さない。サイドギャザーで横漏れも安心。なんだよ、サイドギャザーって。


「やべー、こいつらやべーぞ」

「おい、アニキに報せた方が良くねえか?」

「ばか! オレらがドヤされるだけだろ!」

「ちくしょう、やってられるか!」


 まあマシンガンが通じなかったら打つ手がないんだろう。切り込んでくるかなと思ったんだけど。まあ水の壁には向かってこないよね。


 私の横で影が動いた。黒豹のような動き。エベレストの黒い獣を思い出す。しなやかに飛び出したのはハリードさん。あっという間に数人の手を切り落とした。いや、待って!?


「ひぃぃぃぃぃぃ、オレの、オレの腕が!」

「そんな、そんな、そんな!」


 すぐに持っていけばくっつくかもしれないが、さすがにこれだけの人数がいれば間に合わないやつもいるだろう。どうするかね。まあ後味悪いからとりあえず手はくっつけといてやってもいいかなあ。


「わかたれし身体よ、水の流れをもって元の姿に戻れ。水門〈欠損接続リコネクト〉」


 私は魔法を唱えながら、一人一人の腕を繋げていく。無事全員繋げ終わったらチンピラたちは私の方をうるうるした目で見てきた。

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