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切腕(episode98)

被害状況、チンピラの手

 朝食の会場で騒いでいたのは昨日のチンピラだった。何やらウェイターに向かって文句を言っているみたいだ。自分の食べたいものがなかった? いやまさか。そんな馬鹿みたいな理由で暴れる人なんていないでしょ。


「なぜ、ベーコンエッグがひとつもないんだ!」


 どうやら馬鹿みたいな理由だったらしい。というか馬鹿だ。あれは単なる馬鹿なのだ。


「申し訳ありません。ちょうど切れておりまして。今追加を作っているところですからまもなく出来上がって来るかと思いますが」

「オレが、食いたい時に、なんで、用意してないんだって言ってんだよ!」


 ウェイターの胸倉を掴んでガクガク揺らす。お客さんに手を出してはいけないとでも言われてるんだろうか? あんなやつ、顎に一発入れてやればノックアウトできるだろうに。そういえばノックアウトって、米帝語ではKNOCK OUTって書くらしい。ノックなのに一文字目がKなんてずるいよね。


「それぐらいにしてはどうだろうか?」


 横からそのチンピラの腕を掴むように手を出してきた人がいた。昨日のターバンの人だ。よく見るとかなりの高身長だ。顔もそこそこイケメンだし。


「なんだぁ、てめぇ?」


 あ、私知ってる。そのセリフは負けフラグってやつだ。いや、チンピラの方はかなり頭に来ているのかピリピリした空気をまとっている。対するターバンの人は割とゆるゆるだ。朝だからかな?


「ここは朝食を取る場所です。皆さんの迷惑になる事はよくありません」

「そんなこと知るかよ! オレはお客様だぞ! お客様ってのはなぁ、神様なんだよ!」

「神とあなたとを一緒にするのはよくありません。この世に神はおひとりしかいらっしゃいませんから」


 ……あー、まあ神様とうじしゃは一人かな。創造神様が作ったもんね。調和神様はどちらかと言うと他の世界とのバランス取りみたいな感じだし。まだ見ぬ至高神じゅうやく様方に至ってはほぼ関与してないのだろう。


「神がどうした! 便所にでも丸めて捨てとけよ!」


 さっきまでこの人は自分が神だと言ってた様な気がするのだが。もしかして、神こそ我が下僕よ! みたいな人かな? 最強無比の拳法の使い手だったりする?


「ふむ、公の場での乱暴狼藉、度重なる神への侮辱。私の国ならば処刑されても文句は言えんのだが」

「知るかよ! ここは八洲だ! 八洲人に従いやがれ、毛唐が!」


 そう言うとチンピラはターバンさんに殴り掛かる。だが、大きく振り上げた拳は、振り下ろしても当たることなく、派手に空振ってよろめいた。


「てめぇ、避けてんじゃねえぞ!」

「それは避けるさ。痛いのは嫌いだからね。防御力に全振りしたくなるくらいには」


 そんなこと言われると、身体から毒蛇ヒドラとか古代兵器とかそういうのが出てきそうだよね。まあ、出て来たのは鋭いパンチだったんだけど。


「ゲホォ」

「全く。朝から汗をかかせるような真似はやめて欲しいね」

「てっ、てめぇ!」


 そう言うと懐から拳銃を取り出した。やれやれこのまま撃たれるのも嫌だから水魔法で壁でも作る準備を……って思ってたら床にゴトリと音がした。


 拳銃が床に落ちたのだ。そしてついでに言えばチンピラの手首から先も落ちていた。


「なん……う、うぎゃぁぁぁぁああああ!?」


 絶叫が船中に響き渡った。本当に響き渡ったかどうかは知らないけどその方がかっこいいしね。実際近くにいた私はうるさいほどに聞こえたし。


 ターバンの人の横には黒服でシミターを抜いている男性が立っていた。あの人、かなり、強いと思う。あと、人を斬る事に躊躇いが全くなかった。


「失礼。私の供の者が粗相をしてしまったようだ。私に対する殺気には敏感なボディガードでね。許して欲しい」


 そう言いながら、床に落ちた手首を拾って差し出す。


「運が良ければくっつくかもしれないよ。まあこの船にそういう医療設備があればだけど」


 ターバンの人の笑い顔は酷薄な感じがした。この人、絶対ヤバい人だ。チンピラは……今でも床を転がっている。正直迷惑なんで海に投げ込むなりなんなりして欲しい。


「おい、何をしている! 医務室に運べ!」


 数人がかりでチンピラを抑えつけ、担架に載せてどこかへと運び出して行った。くっつくかどうかは分からないけど、このままにはしておけないのだろう。


 昨日と同じようにホワイトなスーツに身を包んだテカテカ主催者が今の出来事についてのお詫びを述べた。そして、ターバンの人の方に歩いていく。


「王子、大変失礼致しました」

「こちらこそ。偉大なる神の名を貶されてカッとなってしまいました。申し訳ありません」

「いえ、招待客への配慮が足りませんでした。不快な思いをさせてしまいなんとお詫びすればよいか」

「構いませんよ。この船では友人にも会えましたし、何より、魅力的な女性にも会えましたから」


 そう言ってターバンの人は私にウインクをした。もしかして、魅力的な女性って私の事? あ、いや、そういえばカジノで裕也さんに耳打ちしていたな。ということはこの人は裕也さんのご友人で、私が付き人だと思われてるのかな?


「やあ、お嬢さん。おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」

「あ、はい。お陰様で」

「良ければ一緒に朝食などいかがですか?」

「あ、朝食は部屋に婚約者が居ますので」

「ほう? ユーヤの婚約者殿は随分と成長された様で。以前お見かけした時はまだあどけないお年だったと思うのですが」


 !? こ、この人、裕也さんの知り合いだよ! やっぱり。こんな時、どういう顔していいのか分からないの。笑えばいいとか言うなよ? 今笑ったら笑顔がひきつるのが分かるんだから!


「せっかくならユーヤとも一緒に朝食を摂りたいものだが、案内して貰えませんか?」


 にっこりと友好的に笑ってるように見えるが、多分目は笑ってない。これは、私には拒否権は無いのだろう。


「……分かりました。裕也さんには許可を取りますけどよろしいでしょうか?」

「構わないよ。親しき仲にも礼儀あり、だからね」


 礼儀とか全部すっ飛ばして脅迫して来てません?

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