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第九十四話 会頭

名前はドフォーレだけど、ブライさんのモデルはフルブライトさんです。

「あの、ヒルダ様」

「お嬢様、わたすのごたぁ、ノラっち呼んでくだせぇ」


 どこの言葉だよ! というかノラ? 街で悪戯わるさするにはぴったりの名前ですね。愛はひとり芝居。知らんがな。


「ええと、ノラ様?」

「ノラでええだよ、お嬢様」

「そ、そのお嬢様というのもやめて欲しいんですけど」

「しゃーねぇだよ。そういう役割だもんで」

「……分かりました」


 ヒルダ様……ノラに勝てる気がしないのでそのままスルーする事にした。まあ私は貴族子女というには品が無さすぎるので、どこかの商人の娘ぐらいがいい所だろう。細かい設定はノラに任せる。


 フォーレ商会はそこそこ大きい店を構えている。王都にいくつか支店を置いているらしく、一番大きいのは大通りの店なんだそうだ。


 ただ、本拠地の店舗はもっと下町にある小さな店舗。元々はここから始まったらしく、小さな店で出迎えてくれる。


「たんのもぉ〜」

「はいはい、いらっしゃいませ。おや、はじめてのお客様ですな? フォーレ商会にようこそ!」


 中から出て来たのは好々爺といった感じのお爺さん。凄く温和な感じがする。周りに纏っている空気が既に優しい。


「すんません、お嬢様のアクセサリーを探しとって、この店ならっちゅうて聞いてきたんだす」

「おお、そりゃあ困った。それは恐らく大通りにある本店の事じゃろうて」

「ここは本店では無いのですか?」

「うむ。本店は息子がやっておるのしゃよ。まあここにおっても暇でしょうがなかったところじゃ。中に入りなさい」


 そう言ってお爺さんは私たちを中に招き入れてくれた。中には小さなテーブルにお茶が淹れられていた。お爺さんは奥に引っ込むと、そこからティーポットとカップを二つ持って私たちの前に置いてくれた。


 そして、ティーポットを自分のカップに注いでそのまま飲んでみせた。これはお茶に何も仕込んでない、ということを示す作法なんだとか。嫌な作法だ。でも貴族社会ってそんなものかもしれない。


「ではいただきます」

「い、いただきます」


 私もノラもお茶を口に入れた。口の中に爽やかな感じが広がる。これは歯磨き粉! じゃなくて何かのミント系だろう。ハーブティーというやつだ。なかなかオシャレな。


「美味しい」

「そうかいそうかい。気に入って貰えて嬉しいよ。これはな、森に入って採ってきた草をお茶にしたものでな」

「草を、お茶!?」


 ノラが驚いている。というかヒルダ様、お茶で驚いちゃいけないと思う。道端に生えてるたんぽぽだって根っこを煎ればコーヒーになるのだ。



「育ちの良さまでは誤魔化せんようじゃったな。お嬢さん、変装は悪くないが、所作が綺麗過ぎる。どう見ても上流階級のお嬢様じゃ」

「ええっ……」


 ガックリしているノラ……いや、もうヒルダ様でいいよね。まさかバレるとは思わなかったのだろう。


「あの、どこが悪かったのでしょうか?」

「一番は姿勢じゃな。いつでもピシッとしとる。座っても崩れん。そんな下働き、メイドがいるもんかね。まあメイドの中にはそういったやつもおるが、そういう奴は周りに気を配る護衛のメイドじゃな。いつでも戦闘態勢に入れる感じの」

「ぐっ」


 なるほど姿勢の問題か。これは、私の方もいたらなかったんだろうな。


「そっちのお嬢さんの方は姿勢は良かったがなかなか無理をしとる感じでな。重心がやや後ろよりじゃ。いつでも逃げられるように用心でもしとったか?」


 当たりだ。得体の知れない爺さんのテリトリーに入るのに警戒しない訳にもいかない。ましてや、ヒルダ様になんかあったら、私が嫌だし、テオドールにも何言われるか分からん。


「さて、まあ積もる話はあるが、冷めんうちに飲みなさい。どうしてこんなことをしとるか話を聞かせてくれんかね?」


 そうしてチャーミングにウインクをする。爺さんのウインクは色気などないお茶目な感じだ。どくけをぬかれてしまった。


「改めて自己紹介をしようか。フォーレ商会、元会頭のブライ・ド・フォーレじゃ。まあ一応準男爵をいただいておるので貴族の端くれというところかな」

「……冒険者のキューです」

「お嬢様!」

「もう全部バレてんだからお嬢様はやめてよ。ほら、自己紹介した方がいいと思うよ。多分この人は信用出来る」

「どうして」


 どうしてってこの人の頭の中が好奇心だったからだよ。接触してなくてもある程度の感情なら読み取れるからね。もちろん、近くにいる人限定だし、人が多過ぎると出来ない。


「わかったわ。リンクマイヤー公爵家のヒルダよ」

「なるほど。ミルドレッド公爵家は名乗らんのかね?」


 この人、ヒルダのことも把握済みなんだ。ますますもって恐ろしい。


「私はリンクマイヤーに、テオドール様のところにお嫁入りするのだからもうミルドレッド公爵家は関係ないわ」

「ふむ、騙そうとした訳では無い、ということじゃな。ならば良かろう」


 満足そうに顎を撫でながらブライさんは言う。かなりの曲者だ。手強い。


「さて、それじゃあどういう経緯でうちの商会を探ろうとしていたのかを話してもらえるかね? ああ、話の内容に関わらず解放すると誓う」


 確かにこの人からは敵対する意志を感じない。まあ豹変する人はいるので絶対大丈夫とは言えないけど。ここは正直に話してみるのが良さそうだ。


「分かりました。お話しします。実は……」


 そうして、ヒルダ様が私が商業ギルドで体験したこと、その時の悔しい思いなどをとうとうと語った。私が最初説明してたんだけど、擬音が多くて分かりにくいって言われた。ぐぬぬぬ。


「そうかい。はぁ、クライドがなあ。あのバカ孫が」

「お孫さんとは会っておられないので?」

「あやつが成人した折に支店を任せてくれと言ってきてな。それならば先に商業ギルドで経験を積む様にと放り込んだんじゃが。つくづくどうもならんな。父子おやこ揃って」

「ということは息子さんも?」

「うむ、勝手に本店を大通りの方に移してワシはこの通り閑職の身じゃな」


 ブライさんは大きくため息を吐いた。

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