第九十二話 上辺
フレッツ君の名前はまあ……時々他の人の名前も間違えそうになります。歳かな?
スタンピード→森林暴走
自分でやったことを忘れてノリで書いてました。訂正します。(2025-02-11)
その言葉にエドワード様の顔が苦悶に歪む。苦悶逝くもん!……失礼しました。いや、原因は何となくわかる。教団が吹聴したテオドールの噂、というか悪評だ。
「商業ギルドは公爵家では手出しできない、と?」
「いえいえ、そうは言っておりませんが、しかし……跡継ぎのテオドール様が色々と領内でなさったのでしょう? 王都の商人の間ではなかなか有名になっておりましてな」
商業ギルドのギルドマスターは先程までとは違い、ニコニコした顔をしながらもこちらに飛ばしてくる眼光は鋭い。
「その噂はこちらまで回ってきておるのです。ですからどうにも抑えが効きませんで」
「兄は、兄はこの街を救ったというのに……」
「ええ、もちろん分かっておりますとも! 例えそれが公爵家の精兵の方々の活躍によるものだとしてもね」
「なんだと?」
「いやあ、そういえばそこには氷の魔女、エレノア様もそこのキュー様もいらっしゃったとか。それならば不可能ではありますまい」
この言い方だとさも「テオドール様の悪評を消す為に公爵家が手を回して手柄を捏ち上げた」
とでも言いたい様な感じだ。もしかしたらこのギルドマスターはそういう風に信じてるのだろう。あ、もしかして、それでシノブさんを森の探索に同行させたのか? あそこにはエレノアさんと私というテオドール以外の関係者が揃ってたからね。
でも、それならシノブさんがこの間の檮杌の件を報告してないのはおかしすぎる。というか私も自然と入ってたな。もしかしてシノブさん、「私の仕業」とかそういう報告してません?
「シノブさんからどう聞いてるかは分かりませんけど、テオドール……様は間違いなく英雄ですよ。アリュアスさんに聞いてみたらどうですか?」
「冒険者ギルドの方は商業ギルドには厳しいですからな。あの方も戦場では頼りになるでしょうが、ギルド運営となるとどうも、ね?」
こいつ! アリュアスさんの手腕まで疑ってるのか! いや、まあでもあまりアリュアスさんの手際って見た事ないんだよね。だいたいエレノアさんが片付けてるから。さすエレ!
「もちろん、キュー様に対する御無礼はお詫びします。ですが、平民の小娘、おっと失礼、平民にすぎない方に対する無礼なぞ、叱ってお終いですな。とてもではありませんが、クライド君の実家を敵に回してまで、というのはちょっと」
「ならば公爵家は敵に回してもいい、と?」
「まあはっきり申し上げますと、その方がマシなのですよ」
言い切った!? という事はバックについてる商人には公爵家、もしくはそれ以上の奴がついている可能性がある。公爵家はリンクマイヤーとミルドレッドの他は大した勢力にもならないって前にヒルダ様に聞いた。じゃあその上……?
「お分かりいただけたのでしたら、キュー様の手続きをさせていただいて、お終いにいたしましょう。エドワード様、わざわざ御足労いただき、ありがとうございました」
そう言って私の手続きをスムーズに進めてくれて、取り扱い品目や業態については決まってからで構いませんと言われた。
商業ギルドを出てからエドワード様の落ち込みようは酷かった。こういう時、そう! フリッツ君、いや、名前忘れてないよ? 君の出番ですよ! 大丈夫だから!
「あの、エドワード様、そのテオドール様のの事は残念であったと思いますが」
「フレッツ! お前まで、お前まで、兄さんの事を!」
ごめん、フレッツ君だった。いやまあ、声に出してないからセーフだよね。とりあえずエドワード様を慰めとかなきゃなあ。……このまま既成事実作れないかな?
「あの、エドワード様? 公爵家として噂の払拭などはしなかったのですか?」
「いや、ここのところ忙しくて本当にそれどころではなかったのだ。森林暴走に教団に檮杌だからな」
言われてみればかなりな案件ばかりだ。しかし、それでは情報戦で後れを取っている事になってないか? 最悪のケースを考えれば、王都の大店が教団と繋がってる可能性も。いや、それは考えすぎだろうか。
あのクライドとかいうやつ、明らかに仕事に不満持ってたもんなあ。絶対、「オレはこんなところでこんな仕事してるようなやつじゃあない。親父の店を継いで何人もの部下を従えて……なのに、なんだこの仕事は!」
みたいな不満たらたらだったもん。いや、接触テレパスなんかしてないよ。触りたくもないし。
しかし、教団のやっていた「国の弱体化」というのはまだ続いているらしい。これは一度王都に行って色々調べた方がいいかもしれない。
「という訳なんですよ、ヒルダ様」
「どういう訳なのよ!」
「ですから、エッジの商業ギルドでエドワード様が舐められまして」
「知らないわよ。義弟と言ってもそこまで干渉しないわ」
「公爵家の今後にも」
「あらそうなのね。でもそういうのは自然と治まっていくものよ」
「テオドールの悪い噂を消す為なんですけど」
「それを早く言いなさい! わかったわ! 何をすればいいの!?」
わっかりやす、まあヒルダ様はこうでなくちゃ。とりあえず王都の大店を調べたいのでそういう専門の人居ないかなって。
「リンクマイヤーとミルドレッドのどちらのを使う?」
あの、どっちのって、もうリンクマイヤーの密偵も掌握してるんですか?
「テオは使わないし、エドワードは下手だもの。私が使うしかないでしょう?」
あー、まあエドワード様には似合わないわな。そしてテオドールには別の意味で似合わない。テオドールも成長すれば或いは……いや、無理だな。だからヒルダ様が選ばれたのかな?
「リンクマイヤー家の方でお願いします。さすがにミルドレッド家に情報流す訳には」
「あなたはミルドレッドも救ったのだからあなたが頼めば大丈夫と思うのだけど。まあいいわ。泊まっていきなさいよ。情報来たらすぐ分かるでしょ」
なし崩しに泊まることになりました。いや、公爵家の設備は高級で居心地いいから良いんだけど。テオドールがどんな顔するかなあ。