暴爆(episode92)
強大なる炎よ、爆炎より来たりて、我が呼び声を聞け。我が掌に集いしは暴虐、疾く来たりて爆ぜよ。〈暴爆〉!
というのが実際の呪文。なお、使うと本人の手も暴爆される。
「はーっはっはっはっはっ! さすがに蜂の巣だろう。馬鹿な奴め。我ら三本爪龍集団を探ろうとするからこうなるのだ! おい、死体をとっとと処理しろ!」
硝煙で見えにくいからって確認もしてないのにそういう事言うかな。えっ? もちろん無傷だよ? あの程度の質量で私の流水防御が崩れる訳もない。ドラゴンだって防いでみせる……ごめんなさい、嘘です。ドラゴンの質量で殴られたらさすがに結界ごと吹っ飛びます。でもこの世界にはドラゴン居ないよね? さっきドラゴンがどうとか言ってたけど。
「やあ、これはすごいな。どういう仕組みなんだい?」
「実家の秘伝です」
「実家はどちらの家かな? もしかしてヨーロッパの方?」
「禁則事項です」
「ううん、手強いね。まあいいや。今度仕組みを教えてね」
「つつしんでお断り申し上げます」
「えー? ぼくは雇い主だよ?」
「それはそれ、これはこれ」
しつこいな! いや、使ったのは私が悪いんだけど、タケルの友だちだから目を瞑ってくれるかなって思ったんだけどなあ。
「やあ、ミスター。名前は、なんだったかな?」
「貴様、どうして生きて」
「いやあ、どうやらぼくにはそんなおもちゃは通じなかったみたいだよ?」
「馬鹿な、この王湾腕の揃えたエリートと武器が……」
犬が鳴いてるみたいだね。犬の卒倒、ワンパターンとか言うんだっけ? ただ呆然としてるだけで、そのまま殴り倒せそうだ。まあこの後本当にワンパターンにマシンガンを撃ってくるか、別のパターンで来るか。警戒だけはしておこう。
「王大人、ここは我に任されよ!」
奥の方からゆっくりと歩いて来たのはムキムキマッチョなゴリラみたいな男性。あー、いや、好みではあるんだけど、ちょっと顔面偏差値を三十ぐらい上げてから来て欲しい。身体つきだけは好みなんだよ。タケルや裕也さんよりも。
「おお、剛! お前がいたか! ならばお前が三人を始末してしまえ!」
「是!」
男の身体が一瞬消えて位置を見失った。速い! 目を強化しないと見切れない。位置は……真後ろ!?
「女だてらにやる様だが、あまり出しゃばるんじゃないぞ。女は慎み深く家にこもっていればいいのだ! なんなら貴様の足を出歩けんように纏足にしてやるぞ?」
ペラペラとよく喋る。纏足だか、非想天則だか知らないけど、私の身体に何がするなら持参金と結納の品を持ってこい! あ、その前に顔面偏差値をだな。って言ってる場合じゃない。男の手が背中に当てられたと思ったら衝撃が背中を襲った。一瞬息が詰まってそのまま倒れ伏す。
「がっ!?」
「短勁というやつだ。なかなか便利でな。しばらく寝てろよ」
痛った! めちゃくちゃ痛った! 実家にいた時に先生から腹に剣をぶち当てられて以来の痛さだよ! くそっ、反応が遅れたけど、私の身体には常にオートヒールが掛かってるから傷自体はすぐに治る。問題は衝撃だ。殺すことが出来ずに身体が痺れてる。またオートヒール掛け直さないと。
「ぐっ、がっ」
「おお? まだ動けるたぁ根性あるじゃねえか。こりゃあ楽しめそうだ」
そう言って剛なる男は鮫のように笑った。鮫が笑うのかどうかは議論を待つところだが、竜巻とともに現れたり、宇宙にまで進出してたりするので、笑うくらいならやってのけるだろう。
「剛! 先に滝塚だ! 殺せ!」
「ちっ、楽しませてくれよ。だが、クライアントはあんただからな。従うぜ」
そう言って剛は裕也さんの前に立つ。それに立ち塞がるように黒峰さんが通せんぼをする。
「どけよ」
「ど、どきません!」
「震えてんじゃねえか、ええ、おい!」
そう言って黒峰さんの襟に手をかけるとそのまま下に綺麗に切り裂いた。肌には傷がついてないから服だけ脱がしたんだろう。黒峰さんのそこそこ大きな胸の膨らみがポロンとばかりにこぼれ落ちる。咄嗟に黒峰さんは胸を隠してしゃがみ込んだ。
「これだから女はよ! 男が服破かれたくらいでへたり込むこたぁねえからな。趣味に走って女侍らせてっからこんな目に会うんだよ、お坊ちゃん」
「いや、ぼくは彼女たちを信頼してるし、不満なんかないさ」
「へっ、とことん女に甘い男だ。反吐が出るぜ。女なんて欲求不満解消する道具だろうがよ」
「ぼくはそんなこと思った事もないな」
「すかしてんじゃねえよ!」
まあそこまで時間稼がれたら私としても回復して立ち上がれるよね。もう隠し事はなしだ。服が弾け飛んでおっぱいぷるん!だけど気にしない。……いや、一応破れた服でおっぱい支えとこうかな。クーパー靭帯切れたら嫌だし。
「木門〈雷纏〉、並びに水門〈損傷回復〉」
デュアルキャスト。出来るかどうかは一か八かだったけどやれば出来るもんだ。いや、元から相性のいい組み合わせというか合わせて使うのを推奨されてたりするけど。五行相生、水生木だよ。
「この、まだ生きてやがったか! 今度こそぶっ殺してやるぜ! 喰らえ、短勁……」
「遅いよ」
「何っ!?」
私の雷纏は手足に雷を纏う。そして筋肉を刺激してんのか、雷と同化してるのかは分からないけど、超高速のスピードを出せる。もちろん筋肉はボロボロになる。それを損傷回復壊れた端から回復させる。荒業っちゃあ荒業。
「そして、これでも喰らえ!火門〈暴爆〉!」
背中の借りはお腹で返す。私は手の中に生まれた爆発を相手の腹に叩き込んだ。ちなみに詠唱破棄版なので威力的にはオリジナルには程遠い。
オリジナル? なんでもきちんと発動させればゴーレムが蒸発する様な火球をいくつも放つって話。まあ発動しないらしいんだけど。
火門苦手なんだけど、出来る気したんだよね。女神の加護ってこれのこと? ありがとう、創造神様!
「ぐおおおおおおお」
剛はお腹を抑えて蹲り、そのまま気を失った。私がやった事だけど、衝撃と火傷が酷いから早く病院に連れて行った方がいいと思うけどね。