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第九十話 午前

エドワード様出しちゃった。

 いつの間に寝てしまったのか、起床したら知らない天井だった。いや、厳密に言えば知らない訳では無い。何しろこの世界に来てから初めて朝を迎えた場所なのだ。冒険者ギルドの宿泊室。


 朝起きて井戸に行くとビリー君が起きていた。なんか一生懸命剣を振っている。


「おはよう、キュー」

「おはようビリー君。剣の練習?」


 昨日は確か解体作業員を目指すとか聞いた記憶があるのだが、剣の練習が必要なんだろうか?


「解体作業の獲物は自分で捕ってきた方が安上がりって言うからさ」


 あー、まあツノウサギにしろリバーボアにしろ自分で捕って自分で解体すれば全部自分の取り分だ。冒険者の中にはそういう作業を習得して、解体まで済ませて高く買取って貰う人もいると聞いた。って、それだとそのまま冒険者になったりしない?


 まあビリー君にしたら冒険者でも稼げるから構わないのだろう。リリィちゃんがついて来たがるかもしれないから解体作業員にしてるって可能性もある。リリィちゃんが嫌いじゃなくて、大切だから危険な目に合わせたくない兄心だろう。


「ギルドの受付は開いてないけど、依頼の貼り付けなら終わってると思うぜ」

「そっか。ありがとう」


 営業時間より前に依頼を吟味するのはマナー違反という話もあるが、受けるかどうかに関わらず、見るだけ見てみたい。


 ギルドホールは薄暗くて、ベルちゃんさんが窓を開けようとしていた。開け放たれた窓から朝日が降り注ぐ。さんさんとおはようさんと言わんばかりに。


「ベルちゃ……さん、おはようございます」

「あれ、キューさん、おはようございます。……今、私の事、なんて」

「あー、窓開けてるんですね。手伝います!」

「あ、うん、ありがと。じゃあ窓開けるのは任せて、私は表を掃除して来ようかな」


 どうやら誤魔化せた様だ。ちゃんさんなんて呼び方したら本人に怒られちゃう。いや、多分、怒られてもそこまで怖くは無いんだけど、泣かれたら面倒だしね。でも、エレノアさんはそうやって呼んでいいって言ってたんだ!


 閑話休題それはともかく。開け放たれた窓によって採光がなされ、掲示板の文字が見えやすくなってる。私は掲示板を見た。


 前にベルちゃんさんに溜まった依頼をする様に懇願されてからはたまにだがそういう依頼をこなしている。 本当は下のランクの人の為の依頼なのだが、人数に比して依頼をする人が少なく、塩漬けになりそうなので、ベルちゃんさんに泣かれる前にやっているのだ。


 草むしりはいいねえ。草むしりは心を無にしてくれる。リリンの生んだ文化の極みだよ。いや、草むしりに文化も何もないか。草むしりは好きなので時々受けてる。お金は十分すぎるほどあるので、生活のための仕事をしなくていい。まあ使えば消えていくので稼がないといけないんだけど。


 よく考えると私に冒険者というのは向いてないんじゃないだろうかと思う。確かにサイクロップスや檮杌とうこつは倒せたけど、あれも私じゃなくてテオドールの手柄だしね。私自身はフィアーベアにも負けるよわよわ冒険者だよ。

(ベルちゃんさん談:フィアーベアに出会って生き残る方がびっくりなんですが。もちろんグスタフさんは例外です)


 ということで、私は冒険に依らずにお金を稼ぐ方法を考えてみることにした。それは、商売だ。そう、こういう異世界物での二大潮流は「チートなスキルで冒険者として成り上がり」っていうのと、「非戦闘系スキルでお金儲けして成り上がり」っていうのだったはず。聖典(深夜アニメ)でも言ってた!


 私がチートスキルとか無い以上は商売で稼ぐのがいいに決まってる! そうと決まればまずは商業ギルドだ。いきなり行っても大丈夫だろうか。


 商業ギルドはそれなりに大きな建物だ。前の世界で言えば役所の受付みたいなところだ。最初に総合案内みたいなところがあって、用件を尋ねられた。


「あ、えーと、新しく商売を始めたいんですけど」

「新規の開業ですね。おめでとうございます。商業ギルドのライセンスはお持ちですか?」

「あ、いえ、冒険者ギルドのならありますけど」

「分かりました。では、あちらの五番の窓口にお並びください」


 五番の列。と言われ五番の窓口を見ると奥の方にあり、誰も並んでいない。並べ、と言われたが並ばなくても順番が回ってきた。


「よろしくお願いします」

「あ、よろしく」


 受付にいたのは凄くダルそうな男性だった。


「ほら」

「え?」

「冒険者ギルド証。早く出して」

「あ、はい、すいません」

「ちっ、めんどくせえ」


 私の出したギルド証を乱暴に剥ぎ取ると男は奥に引っ込んだ。正直何をされてるのか分からなくてぽかんとしてしまった。もしかしたら、前の世界での重要案件を窓口に通そうとする時に「袖の下」を渡していた時みたいにしないといけなかったのだろうか?


「おや、キューさんじゃないか」

「あれ、エドワード様」


 そんな待ちぼうけしてるキューに声を掛けて来たのはこの街の代官であり、公爵の息子でもあるエドワード様だった。横にはベルガーさんのお孫さんだったか名前を失念したがそんな人が居た。


「偶然だね。商業ギルドにお使いでも?」

「あ、いや、何か商売をしようかと思いまして」

「へぇ、何を取り扱うの?」

「まだ何を取り扱うとかは決めてないんですけど、とりあえず登録だけはしておこうと思いまして」

「そう? じゃあまあ登録だけならすぐ終わるよね。この後ちょっと付き合ってくれないかな?」


 付き合う! エドワード様と付き合う? えーと、デートですかね? ちょっ、ちょっと待ってください。可愛い服着てきますから!


「おい、何の商売すんのか言ってねえだろ、ったく、何手間増やして……」


 さっきのやる気ない男がぶちぶち言いながら戻ってきた。そして私を睨みつけようとして、その隣に立っているにっこり微笑んだエドワード様を見て硬直していた。


「やあ、それは済まなかったね。何やら不手際があったのかな? ちょうどいい機会だから私にも聞かせて貰えないだろうか?」

「ひっ!?」


 潰れたカエルみたいな悲鳴をあげて男は固まった。

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