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第八十七話 纏剣

檮杌とうこつ戦、終了です。

 リンクマイヤー公爵家の次期後継者、テオドール。まごうかたなき貴族の子息である。だが、こいつは権謀術数を繰り広げるよりも、剣を振る方が似合ってるし、大好きな様だ。


 でも、私はエッジの冒険者ギルドには使いを出したけど、テオドールのいる王都のリンクマイヤー公爵家には出してない。というか全く別方向だと思うんだけど?


「テオドール、様? なんでここに?」

「お前は様は不要だと言っただろう。エッジの街のエドワードの所にたまたま来ていたのだ」


 様は不要と言われても、ここにはギルドの人間やシノブさんも居るんだから。エレノアさんくらいなら大丈夫だけど。


「それよりもなんだよ、このバケモンは?」

檮杌とうこつってモンスターらしいよ」

「名前はどうでもいい。どうせ苦戦してんだから強えんだろ?」

「えっ? ああ、うん、そうみたい。魔力を中和してるみたいだから」

「そりゃめんどくせえなあ。よっしゃ、手伝ってやるぜ!」


 言うが早いか、テオドールはまともに突っ込んだ。いや、脳筋かよ! 脳筋だったわ。


「なんだ、貴様? 矮小な存在が邪魔をするでない!」

「うっせぇ、うっせぇ、うっせぇわ! いいから死んどけ!」


 テオドールはそのまま加速する。多分身体強化を無意識に使ってんだろう。魔力は打ち消されるって言ったと思うんだけど。あれ? スピードが落ちない? もしかして身体強化系は打ち消せなかったりする?


「つ、ら、ぬ、けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 切っ先を檮杌とうこつの右脚に突き立てた。おおっ、血が出てる。ダメージ通ったんだ! なんということでしょう! 脳筋の一念、岩をも通すってやつ?


「ぐぬっ!?」

「へっ、なんだよ、通るじゃねえか」

「貴様ぁ!」

「遠慮なくぶっ殺してやるぜ!」

「戯言を!」


 テオドールが身体強化済みの身体で斬撃を繰り返す。狙いは右脚だ。他のところには目もくれずに右脚だけを破壊しようとしている。


「左脚も頼む!」

「任せて」


 テオドールの指示にシノブさんが跳ぶ。シノブさんは今まで刃に魔力を纏わせて貫通力を上げてたらしい。それを両腕の膂力に振り分けた。刃にはなんの強化もしていない。ざくり、と刺突が刺さるが、そこまでのダメージは無さそうだ。


 後で聞いたらテオドールの剣は公爵家に代々伝わってるなんかよく分からない金属の剣なんだとか。テオドールが剣の訓練で普通の剣を壊しまくったから壊れない剣をって公爵様が与えたんだって。いや、それって後継者扱いしてたってことじゃないの? 違うのかなあ?


 一方、シノブさんの剣は丈夫ではあるものの、単なる数打ちの短剣。普通の武器よりは丈夫だけどそれだけ。希少金属とかあまり使ってないらしい。タコ入道戦で使ってた「蜂の一刺し(ビースティング)」は武器の性能じゃなくてオリジナル魔法らしい。


 もしかして……ちょっと試してみたいことがある。シノブさんの短剣に私の障壁を纏わせてみる。念動のコントロールが半端ないけど、一本なら何とかなりそうだ。空間座標じゃなくて物体に纏わせるのがポイント。


「ふっ!」


 シノブさんが両手の剣で切り付ける。左手の剣は弾かれたが、右手の剣は驚くほどスッパリと切り裂く。


「また、またなのか? なんなのだ、なんなのだ、貴様は! 本当にこの世界の者なのか!?」


 いいえ違います。知ってんのはこの場ではエレノアさんだけだ。答える訳にはいかないよねえ。


「おい、キュー! オレの剣にもそれを寄越せ!」

「さっ、させるものか!」


 テオドールが寄ってきて私に障壁を纏わせようとしてくる。檮杌とうこつは焦ったのか、シノブさんを無視してこっちに突っ込んでくる。もちろん当たるのを待ってるだけのマヌケでは無い。


 転移テレポートでテオドールを連れて距離を取り、テオドールの剣に障壁を纏わせる。


「よし、終わらせてきてやる。おい、あいつの頭の上にオレを運べ!」

「あー、はいはい。サイクロップスの時みたいなやつね」


 私は檮杌とうこつの頭上を目指して転移をした。檮杌とうこつは「させるか!」とばかりに中空に向かって攻撃を振る。シノブさんにはお構い無しだ。致命傷にはならないと踏んだのだろう。


 シノブさんはそれを見逃さず、僅かな隙をついて、突撃を敢行。狙いは右目だ。


「ふっ!」

「ぐあっ!? きっ、貴様、よくも!」


 怒りでがむしゃらになりながらシノブさんを捉えようとするが、そう簡単にはつかまらない。私でも避けれたんだもん。シノブさんには造作もないよね。


「こっちも!」


 ズブシュとばかりに反対側の目も潰した。全く見えなくなって檮杌とうこつは怒りを激しくしながらも周りの様子は見えていないので腕を手当り次第に振り回している。


「よし、やれ!」


 私は偉そうなテオドールを抱えて跳び、のたうち回ってる檮杌とうこつの頭上に着いて、そこでテオドールをリリースした。


 テオドールは雄叫びを上げながら、檮杌とうこつに剣を振り下ろす。檮杌とうこつは頭もいいらしく、それならばとクロスアームブロックで剣の勢いを消そうと試みる。


 だが、テオドールの斬撃、そして障壁コーティングした剣の斬れ味は想像以上だった。テオドールはそのままクロスアームブロックされてる腕を切り落とし、脳天に斬撃を叩き込んだ。


「ば、ば、馬鹿な。この、この、オレが、こんな、雑魚、に」

「雑魚は貴様だ。、これならサイクロップスの方がよっぽど強かったわ!」

「ちく、しょう……」


 そして檮杌とうこつは倒れて動かなくなった。テオドールは「どうだ、見たか!」と一声叫んでそのまま気絶しちゃった。まあ絵面だけ見たら両者共倒れだが、テオドールは疲れきって寝てるだけみたい。エレノアさんの回復魔法かけてもらおうと思ったんだけど、消耗してるものを回復するのは出来ないんだって。やれやれ、じゃあ私の治癒ヒーリングで回復させてやるか。


 檮杌とうこつの身体は私がアイテムボックスに入れて運ぶことになった。しばらく秘密にしときたかったけど仕方ないか。

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