第八十五話 氷園
ギルドマスターって強かったんだなー(笑)
「キューちゃん、無事!?」
「エレノアさん! 来てくれたんですか?」
「当たり前じゃない。ギルドマスターも連れてきたわ」
「えー、なんか役に立つんですか?」
「とことん失礼な人だね」
エレノアさんが優雅に参上したと思ったらその後ろにはアリュアスさん、ギルドマスターがいた。正直、この人強いという感じはしないんだけど。そういえば英雄とか言ってたなあ、ティアが。
「しかし、檮杌とは、随分な大物が出てきたものだね」
「ギルドマスターはご存知なんですか?」
「直接的に、では無いがね。噂で聞いたことがある程度だよ」
ため息を吐いて答えるアリュアスさん。どうやら同じレベルの敵を倒した事があり、それで英雄と呼ばれるようになったらしい。どこまで凄まじいんだか。
「今日は足手まといは連れて来てない。大丈夫」
そう言ったのはシノブさん。おおっ、この人も来てくれたのか。エッジの街の現状での最大戦力じゃない? グスタフさん居ないけど。
「脳筋颶風はどっか行って間に合わなかった。森まで探しに行くのも面倒」
どうやらシノブさんはグスタフさんを探しに行ってたらしい。しかしまた森に入ってたのか。なんでも定期的に森の魔物を倒しているらしい。私が助けて貰ったのもその時だから感謝はしてる。一説によると手持ちの金も食糧も尽きたら行くとか。つまり、狩猟生活ってことか。
いや、あの人って金級の冒険者でしょうに。なんで金が簡単に尽きてるの? まあ割と金にならない仕事もよくこなしてるらしいけど。
「どうやらなかなかの役者が集まったみたいだな!」
歓喜を声に滲ませながら檮杌が現れたのは翌朝早くの事だった。どうやら夜半のうちに強者が集結してるのは感じていたらしい。逸る気持ちを抑えつつ待つのはなかなかに苦痛だったと零していた。
「朝まで待ってくれるとはなかなか律儀な奴だな」
「朝日が登らねばそちらが全力を出せんのだろう? 愉悦のためには多少の我慢も必要だからな」
そして檮杌は吠える。
「我は檮杌! 四凶が一つにして、狂乱を司る者也! さあ、かかってくるが良い!」
「やはり、饕餮と同類か!」
アリュアスさんが叫ぶ。どうやら饕餮というのがアリュアスさんが倒した四凶らしい。
「ふむ? 饕餮の小僧が討伐されたと聞くがお主の仕業か? それはそれは。我ら四凶の中では一番の下っ端なれどそこそこの実力はあったはずなのだがな」
どうやらいわゆる「やつは四天王の中では1番の小物!」状態らしい。まあそれはそれでバトル漫画のスタンダードだよね。この理論で行くと最後の四天王は凄まじく強いか話にならないほどに弱いかの両極端だったりすんだけど。
「ならば、試してみるがいい! 木門〈雷撃〉」
アリュアスさんの手から電撃が迸る。かなりな威力で普通のモンスターなら焼け焦げてると思った。
「ほほう? 電撃か。選択肢としてはまずまずだな。先制攻撃にはうってつけだ」
檮杌には大して効いている感じはしない。完全無効化? いや、魔法耐性が高いのかもしれない。
「大して効かんとはいえ、何度もやられてもうるさくて敵わんからな。貴様から嬲るとしよう」
どうやら檮杌はアリュアスさんをターゲットに絞ったみたいだ。凄まじいスピードで突っ込んでいく。
「樹木よ、集いて盾となせ! 木門〈樹盾〉!」
地面から木が生えて檮杌の攻撃を弾く。かなり強い盾の様で、切り裂くことも出来ずに弾かれて檮杌は着地しながら体勢を整えている。
「ふむ、なかなかの魔法展開速度だ。すぐには終わらんようで楽しめそうだ……むっ?」
「ふっ!」
檮杌の頭の横に襲い来る踊る影。それは、間違いなく、奴さ。いや、シノブさんだ。両手に持った二本の武器で檮杌を攻撃する。宵闇と呼ばれた金級冒険者。いや、元だけど。今は商業ギルド所属らしいし。
「ぐっ、この身体に傷をつけるとはさすがに強者よ」
「防御貫通使っても防御が貫ききれない」
シノブさんの連撃でも僅かに傷をつける程度。どうしようも無い戦力差に少し嫌気がさしてくる。
「魔法障壁が硬すぎるのよ」
「魔法障壁、ですか?」
「そう、対物理、対魔法の障壁ね。おそらくは無意識で展開してるのかもしれないけど、あそこまで濃厚な魔力の壁があったらなかなか倒すのは至難の業だわ」
「エレノアさんの冷気の魔法でも?」
「そうね、足止めくらいならそこまで難しくはないと思うわ。こうやって、ね!」
そう言うとエレノアさんは檮杌に向けて呪文の用意を始めた。
詠唱してるエレノアさんに攻撃がいかないように必死に攻撃の手を緩めないシノブさん。そして雷撃でちまちま削ってるようなアリュアスさん。この人本当に強いのかな? いや、私に分からないだけできっと強いに違いない。
「開け水門、凍てつけ火門、我が言葉は氷の標、我は闇と氷結と永遠の女王、咲き誇る氷の白薔薇、全ての物に、等しく氷牢の戒めを! 〈氷結庭園〉!」
エレノアさんの魔法が発動した。檮杌のいる辺の気温が急激に下がり、足元から凍りついていく。必死で逃れようとするが、逃れようとするのを氷の茨が絡めとってくる。檮杌は地面に張り付けられた。
「ご苦労、エレノア。あとは任せよ」
「あまり持たないと思いますのでお早めにお願いします」
エレノアさんの後から出てくるのはアリュアスさん。なるほど、この人は真打なのか。まあでもこれでさっきの雷撃みたいなのだったら拍子抜けだけど。
そう思った私にアリュアスさんはにっこりと微笑む。いいから見とけって事か? 対物理、対魔法でガチガチに固めた相手、しかも素早い奴にはどうするか。まず、動きを完全に止めてから防御を貫通という方防御が問題にならないほどの威力を叩き込む。私はそれをその時に見せられた。