第九話 障壁
障壁発現。いや、念力の応用ではあるんですけど。
「ご無事ですか?」
「あ、あの、あなたは? 今のは一体?」
うん、かなり混乱してるみたいだ。さもありなん。
「通りすがりの冒険者です。名乗るほどのものではありません」
「冒険者なら尚のこと、商人に名前を覚えてもらうために名乗ると思うのですが」
そうだよねー。懇意にしてる商人が居るのと居ないのとでは色々違うよね。
「あなたは商人なのですね」
「これは失礼を。命の恩人に名乗りもあげておらんかったとは」
そう言うと恰幅のいいお腹の膨らみが大きくなり掛けてる方(丁寧な言い方にしてみた)は恭しく礼をしてきた。
「辺境三都市にて商いを営んでおります、トム・ボッタクルと申します」
ぼったくるの?! いや、名前なんだろう。しかし、名字があるということはお貴族様なのかな?
「私はキュー。冒険者になりたて」
「キュー様ですね。この度は主人と私たちを救って下さりありがとうございます。妻のベリル・ボッタクルです」
「リエルはリエルだよ」
「旦那様を救って下さり感謝いたします。執事をしておりますウォルトと申します」
「あ、あの、私はベッキーと申します。ベリル様のメイドでございます」
それぞれの自己紹介が終わった。しかし、やはり貴族なんだろう。執事にメイドさんなんて貴族しか持ってないイメージだもん。
「じゃあ私は行くからあとは気をつけて」
「ええっ!? そ、そんな。まだ奴らがうろついているのに」
「あの、馬車や積荷を回収出来ませんでしょうか?」
切羽詰まってるというか縋るような目で私を見てくる。いや、私も戦闘能力殆どないし、どこまで出来るか分からないんだけど。
でも、この商人みたいな貴族一家のうるうるには耐えられないし、特にリエルちゃんのは。やるだけやってみるか。
私は再び馬車の方に戻った。盗賊たち、いや、衛兵って言ってたな。奴らは馬車を物色しながら辺りを探し回っている。総勢十人程度だ。いや、衛兵がそんなに沢山街を離れてていいのか?
私の手持ちで考える。転移、まとまっていれば連れ去ることは出来ると思う。
念力、岩くらいなら飛ばせると思う。岩がないとダメだけど。
治癒、傷は治せる。発火、種火なら大丈夫。ダメだ、この辺りは使えない。
鑑定、情報は読み取れる。剣の情報を読み取れば戦えるのは戦えるが鍛えてないからもたない。
あと使えそうなのは思い当たらない。というか使おうと思ってない。何か試せないかな。実は目からビームが出ます! とか。……ダメだ。出せない。
サイコソードとかサイコクラッシャーとかその辺のサイコな技も使えないかなと思った。サイコクラッシャーが出ればそれで突っ込んで轢き倒しながら戻るっていう国電ムーブが使えるはず。いや、ごめん、これはゲームだわ。実際サイコクラッシャーもダブルニープレスも出ないんだもの。
ええい、なる様になるわよ。とりあえずあいつらは許せないもの。いざとなったら馬車の品物持って転移してやる! 待てよ、転移? もしかして……
「クソ、あいつらどこに行きやがった!」
「こんにちは」
私は茂みから姿を現した。
「あっ、てめぇ!」
「はいはい、ちょっとごめんなさいね」
私は男に近寄って正面から触れる。あまりに自然な動きに抵抗する気もしなかった様だ。
次の瞬間、私と男は上にいた。そう、上空だ。距離にして地上から三メートルくらいの位置。
「はっ!? えっ!?」
「じゃあね」
私は彼を取り残して再び転移する。残された男は悲鳴をあげながら地面に激突する。
「ぎゃあ!?」
落ちてる時に足から落ちなかったから顔面打って顔が血まみれだ。でも死んでない。私は再び男に接近して、今度は五メートルの高さから落とした。
「ひいっ!?」
今度は手をつこうとして折れたみたいだ。腕を抑えてのたうち回ってる。
「どうした……おい、何やってんだ!」
他の衛兵が気付いて私の方に来た。なので私また上空へとご案内して落とす。その繰り返しである。
「そんなものが何度も通用すると」
「ですよね」
私は最後の一人、それもガタイが良くて少しくらいの落下ではダメージにならなさそうなやつ。
とりあえず連れて転移して置き去りにしてみた。五メートルの高さから落ちたのに何ともなくてピンピンしてる。
「その攻撃は通じんぞ!」
わお、そうみたい。どうしよう。あとは念力くらいしか攻撃方法無さそうなんだけど。
「今度はこっちの番だ!」
そう言ってリーダーは剣を抜いて私に斬りかかってくる。うわっ、ダメだ。避けないと。転移で後ろに回る? ダメ、間に合わない! バリア、とか出来ないかな?
ガキン、と音がして見てみると私の前に何か壁のようなものが出てきて剣を受け止めた。これは障壁?
「な、なんだ? 壁みたいなのがあるぞ?」
どうやら剣は弾けたみたい。となればあとはノックアウトする方法を考えるだけ。障壁ができるならもしかしたら。
私は障壁を拳大の大きさにちぎるように配置し、それを念力で飛ばした。名付けて弾丸
「いっけえ!」
「な、なんだ?! み、見えない攻撃が、うごっ」
見えてる岩なら避けられたんだろうけど、見えてない攻撃は避けられなかったみたい。そりゃそうだよ。射出してる私も見えてないもん。
全員片付けたのでトムさんの荷物から荷物を縛っていた縄をこいつらに掛けてそのまま連行する事にした。トムさんは一緒に街に行ってお礼をしたい、と言ってたけど、私は薬草の採取があるから丁重に断って森の奥へと跳んだ。
森の奥に薬草のたくさん生えてる泉を見つけて夢中になって採ってしまった。お陰でギリギリのタイミングで冒険者ギルドに帰ってきたよ。
帰ったらギルドマスターが呼んでるって。なんなんだろう? 薬草はちゃんと採ってきたよ? 部屋に入るとマスターとエレノアさん、そしてさっき別れたトムさんがいた。良かった。街に辿り着けたんだね。