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晩餐(episode85)

保乃さんはガチガチに緊張しています。なんなら食事中に何度か花摘みに離席してます。

「改めまして、先程は危ないところを助けて貰ってありがとうございました」


 深々と滝塚さんに頭を下げられた。ここはホテルのレストラン。今日は旅館で山菜鍋を食べる予定だったんだが、晩御飯に是非と招待された。山菜鍋は明日に回してもらいました。


 私たちの旅館を出て少し歩くと滝塚さんの泊まってるホテルがあった。かなり大きめの、外国資本が入ってそうなホテル、ってタケルが言ってた。招待されたのは私と保乃さん。タケルと凪沙もと思ったけど面識ない人を連れて行くわけにはいかないからね。


 とか思ってたらタケルがそのレストランを予約してくれたらしい、凪沙と二人で行くんだって。私たちが心配だから、とか言ってたけど、デートだよね、デート!


 私たちが会場に着くと入口でとめられた。ドレスコードがどうとかそういう話をされた。そんなこと言っても余所行きの服なんて持って来てないよ。


「わかりました。中に滝塚さんという方がいらっしゃるのでその方にドレスが合わないようですのでこのまま帰りますとお伝えください」


 さて、これで山菜鍋をつつけるぞ、と内心はワクワクしていた。やっぱり肩がこる様な雰囲気のレストランじゃ食事を楽しめないよね。


「滝塚だと?」


 入口に立っていたウェイターが怪訝そうな顔をした。あれ? 滝塚さん、中に居ないのかな? それともいちいち客の名前を聞いたりしないとか? まあどっちでもいいか。どの道入れないんだし。


「なにをしてるのだ?」


 ウェイターの後ろから執事みたいな格好をした人がでてきた。きっと名前はセバスチャンかギャリソンだよ。私的にはハヤテとかそっちの路線も好きなんだけど。クラウスはいらん。


「マネージャー! いや、ドレスコードを守らないお客さんが来まして今追い出すところです」


 なるほど、マネージャー。かなり偉い方の様だ。まあ私たちは食べれなくても構わないし、今引き返せば凪沙たちとも合流出来るだろう。保乃さんもその方がいいと思う。なんかさっきから落ち着かないようにしてるし。


「お騒がせして申し訳ありません。中にいらっしゃる滝塚さんという方に入れないので帰るということを伝えていただけますか?」

「滝塚……? しょ、少々お待ちください。確認してまいります!」


 そう言ってマネージャーさんは店の奥に引っ込んで行った。その間、ウェイターの奴が私の胸をジロジロ見てたのは不快だったよ。それもチラ見とかじゃなくてガン見だったからね。まあ見られて減るようなものじゃないからまだマシだけど。


 マネージャーが小走りでやってくる。やや慌てた様な顔だ。滝塚さんに伝えて貰えたのだろうか。


「あー、じゃあ私たちはこれで」

「大変、失礼いたしましたっ!」


 マネージャーさんがガバッと頭を下げる。えっ、えっ、何が起こってるの?


「ドレスコードの件はこちらの手違いでございました。とうぞ、そのまま中にお進みください」

「えっ、でも」

「構いません。非礼をお詫びいたします」


 凄い深々と頭を下げられた。うん、そこまでされたら私たちには否って選択肢はないよ。保乃さんも緊張が限界突破しそうだし。


 中に進むと真ん中の豪奢なテーブルに滝塚さんが座っていた。隣には黒髪ボブの女性、私たちに助けを求めてきた人が立っていた。足の調子はもういいのだろう。


「ようこそいらっしゃいました! 招待に応じて下さり光栄でございます」

「ごめんなさい、ドレスコードとかよく分からなくて。入口で止められたので帰ろうかと」

「そうですか。ぼくこそドレスコードが必要なことを失念しておりまして大変申し訳なかった。これならドレスも一緒に贈るべきでしたね」


 いや、こんな店に入れるようなドレスっていくらするんだよ。諾子さんなら持ってそうだけどさ。そして貸してくれそう。まあ胸の辺りは仕立て直しが必要になるかもだけど。


「どうぞ。貸切には出来ませんでしたが、ゆっくりお食事を楽しめる様に配慮はしてありますので」


 よく見ると真ん中の席の周りの座席は片付けられていた。一番近いテーブルでもかなり離れている。タケルと凪沙はどの辺に座るのかなあ?


 私たちの椅子を待機していたウェイターさんが引いてくれる。マナーとかはよく分からないけど座ればいんだよね。


 私たちが着席すると食前酒が出された。私は未成年だから遠慮するとびっくりされたよ。未成年には見えないってのは言われ慣れてる。


 保乃さんは出されるがままにお酒を飲んでる。いい飲みっぷりね。女の人はそうでなくっちゃ。などとは言わない。酔いが回るの早そうだなとは思った。


 コース料理というらしく、お皿が一品一品出てくる。こういうのもあるのか。いや、王族の食事はこんな感じとは聞いた事あるけど。パーティとかの食事は立食形式が多かったもんね。


 料理のお味はどれも美味い。スープはかなり濃厚だし、肉料理とかナイフで切らなくても切れそうなくらいには柔らかかった。


 辺りを見ると、窓際の席に凪沙とタケルを見つけた。二人ともちゃんとしたドレスコードの服というのだろうか。タケルはタキシード。凪沙はセーラームー……ではなく、煌びやかなドレスを着ていた。あのまま私の世界に持って帰ってもそこまで違和感ないよ?


「楽しんでいただけてますか?」

「ええと、とっても。こんな料理は滅多に食べませんから」


 元の世界にいた頃でもここまでの丁寧な料理は無い。こっちの世界で諾子さんが時々連れて行ってくれるくらいだ。まあそれを家で再現したりするんだけど。凪沙はタケルと二人で出掛けたりする時に使ってるのかもしれない。おじゃま虫はついて行ったりしないよ?


「改めて礼を言いたい。本当に助かった。私と、そして黒峰君の生命の恩人だ」


 デザートが運ばれてきて、寒いのにアイス? でもまあ暖房の効いた部屋で食べるアイスは格別だよね、なんて思ってたらそんな事を言われた。


「ところて、食事が終わったら話があるのだが、構わないだろうか?」


 なんかそこはかとなく厄介事の香りがする。バニラアイスは甘い。空間を噛み砕いて粉々になりそうなくらいに。

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