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第八十二話 翌朝

新しい事件

 宴会というか着せ替え会が始まって終わり、気付くと朝で私は冒険者ギルドの床で寝ていた。いやまあ床の感触は悪くはなかったよ。コンクリの床素材よりかは暖かかったし。


 辺りを見るとビリー君とリリィちゃんがお揃いのフリフリの服を着て寝転がっていた。なんか双子コーデがどうとかって着せられてた気がする。


 一番の被害者はベン君だろうか。冒険者ギルドでやるから居ないと思われたのに、差し入れの料理を持ってきたとかでそのまま引きずり込まれ、色んな可愛い服を着せられた。


 ちなみに私も着せられたが、ベン君の方が似合うんだもの。あんなに可愛い子が女の子な訳が無いよ!


 コホン。まあ冒険者としてはギルドで騒いだのだから片付けないといけないわけで。いや、関係ないと突っぱねてもいいと思うんだけど、エレノアさんにデートを頼んだ手前、手伝いませんとは言えない訳で。


 正直、ゴミをまとめて持っていくくらいのことはしないといけないかなと思ったのでアイテムボックスにゴミを詰めていく。アイテムボックスには何故かゴミ箱みたいなのがあって、そこにまとめて捨てることが出来る。中を覗いてもウザいイルカは入ってなかった。


 ある程度片付け終わったらベルちゃんさんが起きてビリー君とリリィちゃんを起こしていた。冒険者ギルドを開ける準備を眠い目を擦りながらしているのだ。もうこれは習性というものでは無いだろうか?


 ギルドマスターのアリュアスさんはギルドマスターの個室に入っていった。誰も入ってこないようにと御札というか看板が掛かってたからきっと中で溜まった書類仕事をしているに違いない。寝てる訳ないよね?


 エレノアさんはまだ寝ているのでギルドの宿泊施設に転移で運んだ。まあエレノアさんはお疲れだから寝かせてあげよう。ギルドマスターとの扱いが差がありすぎるって? それは普段の行いだと思います。


 私はギルドと関係の無いしがない冒険者なのでギルドの開店準備は手伝えません。いやー、残念だなあって思ってたら開店したばかりのギルドに飛び込んで来た少年が居た。


「誰か、誰か、助けてくれ!」


 なんだか切羽詰まった様子で顔を青ざめさせた状態のまま飛び込んで来た少年はボロボロな服装だった。そのボロボロさはスラムのボロボロさでは無い。スラムの子のボロボロさは、服として機能してる範囲のボロボロさだ。この子の服はあちこちが破れている。服として機能はしていない感じだ。いや、最低限隠れてはいるけどね。


「落ち着いて。ええと、あなたは誰なのか説明してくれる?」


 ベルちゃんさんがすかさず駆け寄って少年に事の顛末を聞く。水を渡して飲ませるのも忘れない。少年は水を飲んで落ち着いたのか、何があったのかを話し出した。


 少年の名前はローミ。開拓村の出身だそうだ。開拓村、というのは農夫たちが新たに村を切り拓く時に使われる制度だ。大体は近くで鉱山が見つかったり、ダンジョンが発生したりする。少年の場合はダンジョンだ。


 近くに出来たダンジョンの為に村が作られる。領主の肝煎りで作られるので、それなりに資金は投入される。エッジの街ならリンクマイヤー家がそうした。


 少年の村はリンクマイヤー家ではなくその隣領、グレックス子爵家の土地だそうだ。リンクマイヤー家だったのが独立した家柄らしい。元を辿ればリンクマイヤーに行き着く。


 グレックス家は開拓村を作り、ダンジョンの富を独占しようとしたらしい。まあこの辺りは辺境で、森から得られる様々なものがあるからダンジョンなんか無くても経済は順調なのだが。


 ダンジョンというのはお宝であり、時限爆弾でもある。出てくる魔物を何とかしなければ周りに被害が及ぶ。そしてダンジョンはそういうのを繰り返し成長する。だから、ダンジョンから魔物が溢れてもわざと放置して成長を促す、というのも人道的には褒められた事では無いが、よくある手段である。


 私もベルちゃんさんからそういう説明を受けて、この子の村もそうやってわざと溢れさせて育ててるのだろう。村は作り直さないといけないけど、仕方ないよねって思ってた。


「それが、違うんだ。出て来たのは雑魚がたくさんじゃなくて、大きいのが一匹。それも子爵様の軍隊でもどうにもならなかったんだ!」


 人の顔に虎の手足。長めの体毛と凄まじく長い尻尾・猪のような大きな牙を持っていた。そして何より、人語を解する。まず軍隊に対峙した奴が放った言葉は


「餌が向こうから来おったわい」


 ニヤリと笑い、軍隊に襲いかかった。体毛に剣が弾かれ、魔法などは大して効いている風を見せず、そのまま蹂躙が始まった。自分殺されると思っていたが、何故か見逃され、後ろから響く笑い声を背にここまで逃げる様に走って来たのだという。


 なんで少年は見逃されたのか分からない。でも、どういうやつなのかはちゃんと確認しないと冒険者を派遣できない。偵察が必要である。そう、つまり、私の仕事である。


「えけと、ローミ君だっけ? そこまで案内してもらえる?」

「えっ、またあそこにもどるの?」


 目はすっかり怯えきっている。でも場所を教えてもらわないと対処が出来ない。私はちゃんと危害が及ばないようにする、騒がなければということを伝えて何とか案内してもらうことになった。


 エレノアさんは近くにいる(ゴールド)級の人たちに連絡がつかないか手を尽くしてみると言ってたから、何とかなるだろう。いざとなったらテオドールでも呼んでくりゃいいかな。あー、でもヒルダさんに怒られそう。


 私はローミ君を抱えると転移を発動した。ローミ君は最初こそ、えっ、えっ?と驚いていたが驚き疲れたのか何回かやってる内に静かになった。気絶はしてないみたいだから理解してくれたのだろう。


 何度か転移を繰り返して街道から大体教えられた方向のグレックス子爵領に入る。別にパスポートとかは必要ないし、領境に人が居る訳でも無い。そのままローミ君の指示通りルートを選んでいく。街道から外れた辺りで少し休憩。出掛けに渡されたお弁当を食べた。ローミ君もお腹空いてたみたいだしね。

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