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上級(episode81)

厄介事呼び込み

 ゲレンデの雪上に鮮やかなシュプールを描きながらなだらかな坂道を下っていく。えっ、ペンションの名前? いや、そういうのはちょっと苦手なのでやめてもらってもいいですか?


 そこそこな楽しさで、私としても満足だよ。まあ上手く滑れたな以上の感動とかは特にないんだけど。もう二、三度練習したら上級者コースに行ってもいいかもしれない。行く前に三馬鹿に声掛けて行ってあげようかな。


「三人とも、私はこのまま上級者コースに行くつもりですけど、皆さんはどうされますか?」


 私の呼びかけにお互いの顔を見つめた。そして、彼らは選択した。例え滑れなくとも女の子がいる場所に行くのだと。


「ウェイウェイウェーイ! ジョートーじゃん!」

「難易度の高いコース、颯爽と滑っていくオレたち。控えめに言ってサイコーじゃね?」

「ゲレンデの視線はイタダキだぜ、コネコちゃんたち!」


 颯爽と滑れるかどうかは神のみぞ知るというところだが決心はできたようだ。私は三馬鹿を伴い上級者コースへ。リフトに誰が私の隣に乗るかみたいなのを話してて、ジャンケンまで始めたんだけど、待ってあげる義理なんてないからね。さっさと一人でリフトに飛び乗ったよ。


「あれ、ティア?」

「ティアお姉様まで!」


 リフト降りた辺りで凪沙とその腕にひっついている保乃さんが満面の笑みを浮かべた。


「さあさあ、お姉様、私が手取り足取り教えて差し上げますから」

「保乃、さっきまで滑るの怖いって」

「ティアお姉様が来たので怖く無くなりました!」


 絶対保乃さんは元々怖くなかったし、それなりに滑れたんだろう。ただ、凪沙が滑れたから別々で、と言われたくなくてくっついてたんだろうな。そうじゃなきゃ上級者コースでイチャイチャしてない。


「ティア、滑れる様になったの?」

「中級者までは大丈夫だったから上級者コースで試してみようかなって」

「なるほど。まあティアなら大丈夫だとは思うけど気をつけてね」

「凪沙も滑るんじゃないの?」

「まあね。もう少し滑ったら旅館で休もうかなって」


 まあタケルは旅館だもんね。どっちかというとそっちに早く行きたいに違いない。でもそのまま行っても保乃さんがついてくるだろうから誰かに押し付けて……あ、私かっ!


 まあ、タケルにも凪沙にもお世話になってるから二人だけの時間のために協力するのはやぶさかでは無い。


「ええと、保乃さん、良かったら教えて欲しいんだけど、ダメかな?」

「いいですとも!」


 保乃さんがシャキッとした感じで凪沙から離れて私の方に近付いてくる。私の方に近寄って色々観察してから一緒に行きましょうと先導を始めた。


「凪沙、今のうち」

「! あ、ありがとう」

「タケルによろしく」

「もう!」


 そう言いながらいそいそと下山する凪沙。颯爽と滑る姿はとてもかっこいい。焦らず急いで滑るのはかなり難易度が高いと思うけど、凪沙なら大丈夫だろう。


「ええと、じゃあ保乃さん、よろしくお願いします」

「保乃、と呼び捨てにしてください、ティアお姉様」

「あ、いや、ここでは私の方が生徒だから」

「なるほど! 主従逆転プレイですね! 凪沙お姉様はなんでもこなすから主導権握らせて貰えなくて。そういうことでしたら胸取り腰取り教えます!」


 取る場所は手とか足とかじゃないのかと思うけど、八洲語は難しいのでそういう言い方もあるのかもしれない。って、本当に密着して胸と腰を撫で始めた!? いや、おっぱい揉む必要あるの?


「お姉様、スキーはバランスの大事な競技です。特に胸の重さは私では持ってないものなので実際に体験する必要があります。あるのです! なければならない! あるのがいけない!」


 途中からなんか違うような気がする。あるのがいけないというのはどういうことだ? 右手で胸を、左手で腰を擦りながら何となくバランスを取ってる感じはする。これはもしかして本当に必要なことなのでは? と錯覚してしまう。いや、インストラクターのお兄さんがしてなかったんだから絶対必要ないよね?


「男性がこんなことしたらセクハラですから、女性のインストラクターじゃないと出来ないんですよ」

「それなら女性のインストラクターばかりにならない?」

「……あー、まあ女性の社会進出には色んな弊害があるんですよ」


 絶対嘘だ。なんか誤魔化されたけど嘘だ。いや、女性の社会進出に弊害が出てくるってのは間違っては無いはずだけど、胸や腰を取る指導が出来るスキーインストラクターに女性が少ないのは違う理由だろう。


「分かりました。ティアお姉様、前傾姿勢にならずに真っ直ぐ背筋を伸ばして滑ってください」


 あら? 本当にアドバイスくれた? まあ確かにおっぱいの重みで転がり落ちたくはないもんね。


「じゃあ行きますからついてきてください」


 保乃さんがばっとゲレンデに飛び出し、滑り落ちる。私も遅れないように後を追う。おっぱいの重さには気を付けながら。


 やっぱり、保乃さんはスキーがちゃんとマスター出来ているに違いない。なぜなら、軽やかに滑降しているからだ。上級者コースとはいえ、まばらに人が滑っている。その間を縫うようにスイスイと滑っていく。


 私はそこそこのスピードを出しながら地面の凹凸に気を付けながらスキー板を滑らせる。転けることは無いけどかなり危ない場面もあったりした。それでも必死に頑張って持ち直しながら下っていく。


 保乃さんはスラロームしながら林の中に突っ込んでいく。私もそれを追いかける。なんでいちいち林の中を通るのかというと、人が居ないからだそうだ。人気のないところに行って何をするつもりなのか。


「お姉様、ちょっと」


 保乃さんが途中で止まってる。何かあったのだろうか。


「なんか、女性の苦しそうな声が聞こえて」


 対女性の保乃さんはものすごい精度の探知魔法並だ。きっといるのだろう。そう思って声のするという方に行くと、足を抑えた女性が蹲っていた。歳の頃は恐らくは二十代後半。落ち着きがでてくるころだ。黒髪のボブカットだから普通にどこかのOLなのだろう。

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