第八十話 食違
デート? デートかなあ?
デート当日。私も気になって気になって八時間しか寝れなかったので、エレノアさんとウィリアムのデートについて行くことにしました。大丈夫、ウィリアムのデートプランは頭の中に入ってる。
先ずは朝。迎えに行くとかじゃなくて待ち合わせ。場所は乗合馬車の駅である。ここは変更点は無い。わかりやすいのは間違いないからね。というかギルドで待ち合わせしてもいいような気もするんだけど、衆目がとか言い出した。乗合馬車の駅の方が衆目度高いと思うんだけど、知り合いが多いのが嫌なのかな?
ウィリアムは待ち合わせ時間の一時間半前から待機している。いくらなんでも早過ぎないかとは思ったし、アドバイスしたんだけど、遅れるよりはいいと言われた。まあそれなら仕方ないよね。
エレノアさんは待ち合わせ時間の五分前位の時間に来た。いや、この世界時計ないから五分前って時間ピッタリぐらいの感覚だと思うんだ。
「お待たせしましたか?」
「おお、マイゴッデス! いいえ、全然! あなたを待つ時間なら何時間であろうと苦にはなりません!」
演出過多気味なのはスルーしてあげよう。いや、エレノアさんがスルーできるかってのは私の責任には無いからね。
「それじゃあ参りましょうか。今日はどこを案内してくださるのかしら?」
エレノアさんが艶然と微笑む。背筋になんか冷たいものが走った様な気がした。バレて、無いよね?
「も、もちろんです! 先ずは、この近くで朝食などいかがでしょう?」
「あら、そうね。今日はまだ食べてなかったからありがたいわね」
ウィリアムは自分と食べるために抜いてきてくれたみたいなことを考えてるのかもしれないが、多分、起きれてないだけだ。
そうした二人が朝食に選んだのは一軒の食堂。その名は囀る小鳥亭。私は嫌な予感に襲われながらも何とか踏みとどまり、様子を見る。
朝だからか人はまばらになって座っている。朝ごはんはもうメニューが決まってるのか、テーブルに着くと同時に食事が運ばれてくる。運んでるのは男性の様だ。まあ彼女は夜の部担当だろうから、ここには居ないよね。よしよし。
私も少しお腹が空いたので、離れた席で食事をすることに。運ばれてきた食事を見て、あー、朝ごはんはパンとスープと焼いた魚かあみたいに思った後に運んでくれた人を見る。
「やっと来てくれた」
「えっ?」
「もう、なかなか来てくれないからどうしたのかと思ったわよ、いけずなんだから」
にこやかな笑顔をうかべるミナさん。満面の笑みで、私に「つーかまーえたー」って言ってるみたいな感じがした。このまま転移すれば逃げられるかもだけど、それだと無銭飲食になるし、目立ってしまう。
「お久しぶりです、ミナさん。その、ちょっと色々忙しくて」
「照れなくていいのよぉ。ほら、やり方なら私が教えてあげるから。そのまま身を任せてくれればいいのよ」
運んで来た食事を置くと、素早く私の隣に座って、太ももに手を伸ばしてくる。少し生暖かい温度が太ももに触れた。
「あっ、その、実は、まだ、やる事、あって!」
「あら、残念だわ。でもここは予約させてね?」
そう言ってするりと懐に手を入れてきて、私のおっぱいというか胸を撫で回した。ひゃん!なんて声が出ても仕方ないよね?
そうこうしてる内にエレノアさんたちは店を出てしまったようだ。私は急いで食べて店を出ると二人の姿を探した。もしかしたら撒かれてるかもしれない。
二人は店先を眺めながら通りを歩いていた。ショッピングというやつだろうか? 元の世界ではウインドウに品物が置いてあったからウインドウショッピングなんてものがあったけど、この世界はそんなことは無い。
その内の一軒に足を踏み入れる。仕立て屋の様だ。恐らくは既製服のお店だろう。こっそりなかをのぞく。
ウィリアムはお大尽みたいに振る舞いたいのか、エレノアさんに好きなものを選んだらいいと促す。いや、そこは自分で選ぶのでは? エレノアさんはウキウキしながら洋服を手に取っている。ん? なんかサイズが小さめのが多くない?
「あの、エレノア様、そちらは子供用の服でして、エレノア様にはご利用になれないかと」
「あら、私が着るんじゃなくて、ギルドで頑張ってる男の子と女の子のための服を選んでるのよ。こっちはウィリアムじゃなくて私が払うから気にしないで」
どうやらビリー君とリリィちゃんの分みたいだ。愛されてるなあ。エレノアさんは自分の服は買わなかった。その代わりに二人の分の取り置きを頼んで後日取りに来るそう。王都まで? うーん、これは私案件になりそうだわ。
エレノアさんに服を買えなかったウィリアムは少ししょぼんとしてるみたいだが、気を取り直して次の場所に向かう。
洋服でなければアクセサリーと、ばかりに王都の高級アクセサリー店が立ち並ぶジュエリー通りと通称がついてる所に来た。ここはピンからキリまでアクセサリーの全てが揃ってると噂の通りだ。露店にも安物のアクセサリーが売ってたりする。
高級店を二、三ハシゴしてるみたい。残念ながら私は入れない。入るのにある一定身分以上の身分証がいるのだ。冒険者なら金級以上だ。いや、転移使えば入れるけど、印象良くないし。
どうやら大して買い物をしてないみたいで、ウィリアムの肩がどんどん落ちていく。エレノアさんは特に気にしてないみたいで露店を覗いていた。その中に小さな猫の形のアクセサリーを見つけると小さいのと大きいのを買い求めた。そして満足そうに微笑む。
ジュエリー通りを抜けて、今度は落ち着いた感じの喫茶店へと入る。囀る小鳥亭は騒がしい感じの店だが、このお店はちょっと上の階級の人たちが店内にも見られる。
二人は店内で一休みをするようで、次の目的地である劇場の開演時間までしばらくの間の時間つぶしが目的のようだ。小さな声で何か喋ってるが私には聞こえない。順風耳なんか持ってないからね。とりあえず一緒の店内には入っておこうと飲み物を適当に注文する。コーヒーだ。ミルク入れなきゃ。