第七十八話 算段
ご利用は計画的に
外に出たらウィリアムさんもエレノアさんもだいたい片付けてひと休みしていた。ウィリアムさんはエレノアさんに寄ろうとして煙たがられていたが。
「おお、エレノア嬢ではないか!」
「騎士団長様!? それにマリールイズちゃんまで」
どうやら御歳九歳の騎士団長の娘さんはマリールイズと言うらしい。別に要らなかった情報だわ。
「エレノアお姉ちゃん!」
マリールイズちゃんはたったか走ってエレノアさんに抱き着いた。なんか随分と手馴れてますねって思ったんだけど、エレノアさんの御友人が騎士団長の奥さんなんだとか。それでお家に呼ばれたこともあるんだって。
なんか高貴な雰囲気はあると思ってたんだけど、エレノアさんはどうやら貴族の出身らしい。なんでそんな貴族の子女が冒険者ギルドなんかにいるのかは分からない。年齢と一緒で教えてくれないからね。
テオドールはそのままリンクマイヤー公爵領に向かうらしい。ヒルダさんを迎えに行くんだって。ならば、とその間にミルドレッド公爵が宴の準備を行うらしい。凱旋だもんね。ミルドレッド公爵領が潰れるかもしれなかったんだから危機を脱出したと祝ってもいいだろう。
ミルドレッド公爵の奥方は幽閉されることになった。精神を侵されてるのか、それとも教団に忠誠を誓っているのかは分からないからね。ミルドレッド公爵としても離縁でいいそうな。まあ元々愛し合ってなかったって話だし、愛人を家に入れるのにちょうど良かったらしいが。
ちなみに愛人の方は街商人の未亡人らしい。夫はライバルの商人に潰されたらしく、女の細腕で店を切り盛りしてるところに、借金を負わされてライバル商人に妾にさせられそうになった所を公爵様が助けたらしい。
ライバル商人はなんかその夫人を手に入れるためにわざわざ潰したのに手に入りかけてお預け食らったんで、公爵様に、「てめぇ、なにもんだ? この街でこのオレに逆らうのがどういうことか分かってんのか、このデブ!」とか宣ったそうな。
その直後に騎士たちに囲まれて公爵様の名前を聞いたら青ざめて震え上がって命乞いをしたらしい。何もかもを放り出して逃げ出したそうな。まあ不敬罪だもんね。少々の無茶をしたところで誰にも咎められない。
公爵様はそういうことをする人ではなかったみたい。いや、目の前に狙っていた夫人がいたから怖がらせないように紳士然としてたのかもしれない。
ともかく、その商人の残した財産も未亡人にやって、公爵様が実権を握った新しい商会を立ち上げて未亡人に任せたらしい。なんか色々大変だね。
その未亡人は亡くなった旦那に操を立てるとかは無くて、親の意向で嫁がされたらしく、旦那よりも店の経営に心血を注いでいたそう。公爵様の事は憎からず思っているとの事で丸く収まりそうだ。
ヒルダさん? ああ、あの人はテオドールしか見えてないから今更元のミルドレッド公爵家にはあまり興味は無いみたい。もちろん実家だから使えるコネは使いますけどとは言ってた。公爵様は父親として負い目ができたみたいだからある程度はヒルダさんの言うことを聞くだろう。
こんな感じて八方丸く治まったと思ったら、エレノアさんが大きなため息をついていた。どうしたのかと言うと、とても憂鬱そうな顔をして言われた。
「ウィリアムとのデートが憂鬱で」
あの、王都で一回デートしてあげるくらいはしてあげたらいいんじゃないかなと思いますが。
「昔、彼と一度だけデートしたことあるのよ。そうしたら四六時中私を讃える歌を歌いながら街中で踊り出して、そのままエスコートされたのよ。何度帰りたいと思ったことか」
えっ、ウィリアムさん、踊り出しちゃうの? それは、私でも嫌だなあ。というかこれはウィリアムさんに事前に言っておかなければならない、いや、言っておく事でエレノアさんの憂鬱を防げるのでは?
「ウィリアムさん」
「やあ、君はキュー君だったね。お疲れ様。騎士団長の娘さんをしっかりと助け出してくれたそうだね。すごいじゃないか」
登場したのは突然なのに、ウィリアムさんは驚くこともなく、私を見つけて頭を撫でてくれた。いや、撫でられるような年齢ではないんですけど。
「あの、エレノアさんと王都でデートする、と聞きまして」
「そうなんだよ! 長年の夢が叶うというもので、今から踊り出しそうだよ!」
いや、踊っちゃダメだよ。なんで踊ろうとするの? そういう家風なの?
「一度デートしたことあるとか。その時の事を聞かせてください」
「おお。そうだね。あの時以来だ。エレノア嬢は冒険者ギルドでも才色兼備の美女と呼ばれた女性でね。ちょうどあるクエストでデートを依頼料に私が助っ人に入ったことがあってね」
その時のクエストは当然成功して、エレノアさんはデートをしたそうな。依頼料がデートってエレノアさんの人気もうなずける。
「彼女は冒険者ギルドでも高嶺の花で、誰もデートしたことはなかったんだ。だから私は舞い上がってしまったのですよ」
実際舞い上がったというか踊り狂ったというべきなのだが。ウィリアムさんはその時の事をこう言っていた。頭の中がお花畑になっててよく覚えてない、と。
これはまたデートしたら同じことが起きるのでは? 当時に比べれば人間的に成長している、かもしれないが、あのエレノアさんを見た時の反応を思い出すに、あまり変わってない様にも思える。
「ウィリアムさん、あの、エレノアさんとのデート、大丈夫なんですか?」
「正直、夢が叶ってふわふわした気分だよ。あのデートをもう一度と思って何度も声をかけていたが無視されてその内彼女はエッジに行ってしまったからね」
エッジに行ったのがこの人のせいなのか、他にも理由があったのかは分からないが、ある意味、エレノアさんかエッジにいてくれたおかげで私は助かってるし、なんならビリー君やリリィちゃんも助かってる。何とかしてあげたい。とりあえずエレノアさんとのデートの計画を事前に知っておく事が大事だと思うので、どういうデートコースを思い描いているのか教えてください!