第七十六話 攻砦
回収早かった。
短距離転移を繰り返して、テオドールに追い付く。テオドールは私と一緒に来た人物に驚いていた。
「エレノア殿と……そちらの方はまさか金級の《弾箭》殿か?」
「これはテオドール殿下。お初にお目にかかります。《弾箭》ウィリアムと申します。テオドール殿下のお噂はかねがね」
「どうせどうしようもない噂であろう。教団の奴らめ」
「殿下が騎士団長と打ち合った剣舞は拝見させていただきましたよ」
「……そうか」
どうやら悪態はついたものの、返ってきたのは教団の風説に惑わされない悪くないものだった様子。でも、騎士団長と打ち合ったってそんなにすごいの?
なんでもこの国の騎士団長は近隣にその名を轟かす豪傑らしい。グスタフさんやウィリアムさんも一目置いているとか。アリュアスさんは? あ、英雄だけどベクトルが違うと。なるほど。アリュアスさんは対集団戦なんですね。それにしてはこの間のスタンピードの時に役に立ってなかった様な。えっ、アリュアスさん、街を守る結界を張ってたの? それは失礼しました。
「おしゃべりは終わりだ。そろそろ辿り着くぞ」
テオドールが馬上から引き締めるように言う。場所は古びた砦の様な場所。領境にあり、片方の領が昔小国だった時代に国境を守る為に使われていた砦なんだとか。結局、砦は迂回して都を攻められ、砦はそのまま放棄されたそう。
その砦だが、今でも使えないことはないと思うのだが、そんなところに砦を置いていても戦略的な価値がない。ならば壊すか、というところでストップが入って、演習用の砦として残っていたらしい。
まあそのストップ掛けた人物も怪しさ満載ではあるのだけど。教団の人間はどこに潜んでいるか分からないよ。
「斉射、来ます!」
テオドールの部下が叫んだ。どうやら弓矢を以て歓迎してくれるらしい。ふふん、私には主人公補正があるから、この程度の矢には当たらないのさ! まあ念の為に障壁くらいは張っておくか。
ちょっとちょっと、どういうこと?カンカン障壁に矢が当たってるんだけどぉ!? こ、これは相手を褒めるべきなんですかね? 障壁解いたら私が危ない? ひぇぇ〜。
「エレノア、デカいのいけるか?」
「殿下、私におまかせを」
テオドールがエレノアさんに魔法を使わせようとしたが、ウィリアムさんがそれを遮った。そして弓に矢を番える。いや、さすがに弓矢一本でどうにかなったりは……
「紅蓮弓!」
ウィリアムさんが叫んで弓を引いて矢を放つと、着弾したところで大爆発が起きた。大大大大、大爆発だー、だらった!
「うそぉ!?」
「あれがウィリアム殿の魔導弓か」
「お恥ずかしい。魔法を唱えて放つよりもこの方が当たるし、集約出来るので」
なんでも矢に魔法を込めて弓で放つ技なんだとか。魔法って色々応用がきくんだね。ともかく、砦の一部が崩された事によりそこにモンスターが大量に派遣されてきた。いわゆるゴブリンというやつだ。
「ちっ、教団はゴブリンを使役しているという話があったが、どうやら本当だった様だな」
ゴブリンは厄介だ。数が多い、そして臭い。更には群れるし、集団戦術なんか使ってくる奴もいる。教団に使役されているなら使役者によって集団戦をさせられているのだろう。
「地道に倒しますか?」
「いや、まずは部下がどうなっているのかを確かめたい。様子を見に行こう」
「でしたら、殿下は先へお進みください。ここは私とマイゴッデスだけで十分です」
エレノアさんがマイゴッデスって言われてものすごく嫌そうな顔をした。
「………………仕方ないわね。キューちゃんの為だもの。それに私はここの方がやりやすいですもの」
エレノアさんは向かってくるゴブリンに向かって魔法を放ちながら、並行して大きなものを詠唱しているような感じだ。
「ここから先は通行止めよ、くらいなさい、火門 〈氷結地獄〉」
辺り一面が氷に包まれる。あの時、サイクロップスの足さえ凍らせた魔法だ。ゴブリンごときが耐性を持ってるわけが無い。見事足元を凍りつかせて動けなくしている。
私とテオドールはその隙に横を通り抜けて建物の中へと入っていった。テオドールはスイスイと砦内部を進む。もしかして来たことあったりする?
「この砦には初めてだが、砦なんてのはどこも似たり寄ったりだからな。それに、頭の悪い奴は煙と同じで高いところが好きなんだろう?」
あー、この世界でも高いところに行きたがるバカはいるのか。というか偉くなると高いところに行きたがるよね。私としてはそれよりも地上に近い方がコンビニとか近くて便利なんだけどなあ。あ、この世界コンビニないじゃん。
「よくここまで来れましたね」
白衣を着たままの《教授》がそこにはいた。周りには教団の人間なのか騎士の装束を着た人物が何人もいる。その内の一人を見てテオドールは驚愕の声を上げた。
「騎士団長殿! なぜ、なぜあなたが教団に与しているのですか!?」
騎士団長ってテオドールと試合したとかいうあの近隣に名を轟かせているという豪傑の?
「答える必要はない。テオドール殿、いざ、尋常に勝負!」
「私は暴力行為が苦手ですからね。ここで高みの見物をさせてもらいますよ?」
私は《教授》の顔がすごくムカついて一発殴りたくなった。転移すれば殴りに行けるかな? さすがに私は肉体派では無いけど、念動まで駆使すれば何とかなるかな。
「私に危害を加えようとしても無駄ですよ? 私の周りには常人では吸えばのたうち回って苦しむ様な毒がばら撒かれてますからね。私は慣れてしまったので大丈夫ですけど」
ヒキガエルのように笑う《教授》。一応イケメンに分類されるのに、台無しだよね。まあ私はもうちょい爽やかな感じのイケメンが好きなんでノーセンキューなんですけど。
「王国騎士団長、グライシンガー・エーベリューズ、参る!」
「リンクマイヤー公爵家が長子、テオドール。いざ、尋常に勝負!」
お互いが名乗り合い、そして、閃光が走った。