表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

151/424

下山(episode76)

割とあっさり手に入れられました。住み着いた人のルーツは名前の元ネタ通り。

 立派な鹿の角を抱きかかえて奥へと進む。正直な話を言えば、これを持ち帰って売れば恐らくとんでもない値がつくに違いない。いや、つかないかもしれないけど、きっとつくに決まってる! 私がそう判断した! これはガンダ……コホン。


 奥に辿り着くと再び声が響いた。前と同じ様に姿は見えない。声も前と同じだと思うのでおそらくは一人の人物が防人みたいなことをしてるんだろう。となればあの謎の声の持ち主は黒い獣の飼い主かもしれない。


「良く戻ってきた。雪の王の角は持って来たかい?」


 その声にアンネマリーさんに促されて角を掲げる。何やらどよめきのようなものを感じた。


「おお、これは立派な……切り落としたのかね?」

「いえ、私たちは雪の王さんに譲ってもらいました」

「なんと! では雪の王と意思疎通が出来たというのですか?」

「賢くてかっこいい立派な王でしたよ」


 しばしの沈黙。そして、声は言った。今度は若い女性の様な声だ。


「その角を見せていただくことは出来ますか?」

「はい、どうぞ。ここに置けばいいですか?」

「失礼しました。今、そちらに行きます」


 奥の方にあった岩が不自然にズレて、そこから鹿の面を被った女性(おっぱいがあるから分かった)と狼の面を被った男性が数人、女性の周りを囲んだまま、こっちに近寄って来た。


 ガンマさんは戦闘態勢に入ってる。うん、私もいつでも魔法が撃てる様に準備してる。アンネマリーさんは悠然と構えてる。交渉相手だから危害を加えて来ないだろうと思ってるのか、それとも戦闘は私たちに丸投げしてるのか。パルパティちゃんはびっくりしている。なんかずっと驚いてるよね、この子。


「私はコアイと申します。この隠れ里の巫女をやっております。これなるもの達はボルテと呼ばれる私の護衛であり、伴侶候補です」

「さっきまでの老婆の声はあなたが?」

「その通りです。声くらいは自由に変えられますし、老婆の方が重みがあったりしますので」


 アンネマリーさんに後で聞いたらそんな事を話していたそうだ。私も分かるように話して欲しい。よく、異世界転生ものだと言葉が自動翻訳されて聞こえたりするよね? そういうイージーモードじゃなかったの? だって、八洲語は普通に喋れたし理解出来たじゃない!


(女神注釈:飽くまで現地の言葉と元の世界の言葉をキューとティアの脳から引っ張ってきて交換しただけなので、お互いが知らない言葉は話せません。というかめんどくさいんですよ)


「えーと、それではこちらが鹿の角です」

「拝見します。……おお! まさしくこれは雪の王様の角! それも切り取られたあとも無い。どうやってこれを?」

「雪の王本人からいただきました。言伝として『お役目ご苦労』と」


 その言葉を聞いて、巫女の人は膝を着いて角を抱えたまま、ぼろぼろと泣き始めました。周りにいる男たちも涙を流しています。お面で表情は見えないのでとても気持ち悪いです。


「……大変失礼致しました。村へとご案内させていただきます。こちらへどうぞ」


 そう言って巫女の人、コアイさんが道を空けてくれた。私たちはそのまま岩があった所へと入っていく。中はまた洞窟のようになっていた。そのまま進むとやがて目の前が明るくなった。


 チョモランマの山中にこの様な場所があるとは思っていなかった。小さな村のような風景が広がっており、麦やトウモロコシ、芋類が植えられていた。どれもすくすくと育っている。


 村の中央には川が流れ、水車小屋には水車がクルクルと回っている。恐らく麦を挽くのはあそこなんだろう。もしかしたらトウモロコシも挽いてるかもしれない。


 山羊の様な動物や、うさぎみたいなやつ、そしてニワトリなんかがそこで育てられていた。野生では無いのだろう。村のあちこちには果物のなってる木もあって食生活は豊かそうだ。川には魚も何匹も泳いでいる。


「我々は雪の王様のめぐみを受けてここで暮らしております。こんな暮らしができるのは雪の王様の御加護のお陰です」


 そんな事を言っていたらしい。随分と贅沢な話だ。しかし、こんな高山地帯で生きられるようにしなくても地上におりて暮らせば良いのでは?


「私たちはアンブロジアの為にここにおります。それを捨てては参れません」

「やっぱりここがアンブロジアの里なのね!」


 アンネマリーさんが興奮気味に叫んだ。あ、やっぱりここだったんだ。私はアンネマリーさんに頼んで一株で良いからアンブロジアを譲って欲しいと頼み込んだ。


 結果、二株。一株は錬金用。もう一株は栽培用にと貰えた。下界で育ててみたいと言ったら私たちなら大丈夫でしょうと言われた。いや、私らに園芸の才能なんてないよ?


「何かありましたらまたこちらにお越しください。出来る限り力になりましょう」

「来れるか!」


 アンネマリーさんに通訳してもらったけど、さすがに来れるわけが無い。私はキューと違って転移の魔法は使えないのだ。というか転移の魔法とか存在するのかね?


 村を出て頂上を目指すかとパルパティちゃんに尋ねられたけど、目的は達したので辞退して降りる事に。なお、帰りは比較的安全な道をパルパティちゃんが見つけてくれて、雪の王の加護か、天気も良かったのでなんの障害もなく降りる事が出来た。


 ちなみにそのまま空港から持ち出そうとすると、きっと税関で止められるだろうことが分かってたのでまたもや外交特権を使わせてもらった。アンネマリーさんには頭が上がらない。


 帰ってきて真っ先に凪沙とタケルに報せたらアンブロジアにびっくりして、しかも効能聞いて二度びっくりしてた。タケルが私の身体を揺さぶりながら、「不老不死の薬なんてつくらないでね!?」って念を押す様に言ってきた。いや、これはオーナーの為に毛生え薬に使うんだよ、って説明したら何やら複雑そうな顔をされた。


 栽培用のアンブロジアについてはタケルが畑を用意してくれるそうな。というか生育方法なんて分からないから鑑定で見ながらこなさないとね。まあまずは毛生え薬だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ