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第八話 陥穽

ビリーとリリィの出番はまだありますからね。

「なんだって、衛兵が?」

「ええ、そうよ。酷い話だと思わない?」

「クソ、代替わりしてからこんなのばかりだ」


 代替わり、という言葉が聞こえた。衛兵の隊長でも交代したんだろうか?


「ああ、キュー。君にはまだ把握できてないのかもしれないけど、ここの街の代官が半年前に代わったんだ」


 代官? 代官ってあの時代劇とかで悪役やってるやつら? あー、でもあれは一番の下っ端でそれより偉い人にへいこらされるお話だもんね、


「それで、代官が代わって衛兵も変わるの?」

「代官が自分の子飼いのの部下を衛兵に取り立ててるんだよ。忌々しい事にね」

「アリュアスさんは文句言えないの?」

「証拠があればねえ」


 アリュアスさんはそう言ってちらりと子どもたち、ビリーとリリィを見る。何を思ってかは分からないがため息を吐く。


「正直、現行犯じゃないと証拠がないってもみ消されてしまう」

「なんかむちゃくちゃだと思うけど仕方ないか」


 そしてアリュアスさんはビリーとリリィに向かってニコッと微笑みかけた。


「そこでお前たちには現場を抑えてもらいたい」


 いや、今までも捕まえられなかったのは証拠がないからでしょ? この子たちの証言で証拠になるなら直ぐにでも捕まえて欲しい。


「とりあえずこいつを預けておきましょう」


 そう言ってアリュアスさんが出したのは赤くて小さな玉。


「魔力を込めると録音を開始する。映像を撮るにはちょっと色々足りんのでな」


 ああ、ボイスレコーダーって事ね。それなら何とかなるのかもしれない。でも、おたかいんでしょう?


「あの、もし、ぼくたちがこれを持って逃げて売ったらどうします?」


 恐らくビリーはそんな事をやるつもりもないんだろう。ないよね? いや、ないって信じてるよ、多分。


「そのときは私の見る目がなかった、それだけです。また別のやり方でやりますよ」


 アリュアスさんは強要することも無く、にっこりと微笑んだ。ずるいなあ。あれは人心掌握術とでも言うのかな?


「わかりました。やってみます」

「ありがとう。じゃあビリー君と、リリィちゃんもね」

「わたしも?」

「そうだ。お兄ちゃんとお揃いだぞ」


 それを聞くとリリィちゃんの顔がぱぁっと綻んだ。


「わぁい、おそろい、おそろい!」

「こ、こら、リリィ」

「万が一という事もあるから遠隔でもスイッチを押せるように術を組み込んでいる」


 どうやら遠隔操作も出来るみたい。なかなかにとんでもない人みたい。


「さて、キュー君」

「はい」

「君のご実家の力を借りる事は出来そうかね?」

「無理だと思います」


 実家、つまり生まれてから過ごしたところ。すなわち、大八洲(おおやしま)の鱗胴研究所。そもそも世界からしてちがうのだ。


「そうか。残念だ。あるいはと思ったが。まあいい。君には引き続き街中の依頼をこなしてもらおう」


 アリュアスさんの言葉に私は大きく頷いた。エレノアさんと明日の昼過ぎからの買い物の約束をして、今日はひとまず外に依頼に行く。と言ってもいつも通りの薬草の採取だ。


 街の周りの辺りでは競合も多いし、なかなか稼げないんだよね。もっと人のこない場所に行こうと短距離転移(ショートテレポート)を繰り返してたら、街から少し離れた街道で、衛兵たちが数人、馬車を囲んでいた。


 普通だったら衛兵が囲んでるんだからあの馬車の人が何かを密輸してるのかもしれないって思うんだろう。でも、さっきの話聞いちゃうとそんな風にも思えないんだよね。


 とりあえず様子を見ていたら馬車から中の人を引きずり出した。メンバーは子どもが一人、多分一桁年齢の子と、お世話係なのかメイド。奥さんらしき人、あとは恰幅のいいデブ。あ、いや、あれが商人さんかな? それと御者席に座っていた身なりの整った爺さん。

 その爺さんが衛兵の前に立ち塞がる。


「お待ちくだされ。ヘッジの衛兵の方が、どうしてこんなところに?」

「馬鹿が。検査だよ、検査」


 そう言って奥さんらしき人のスカートを剣でつーっと裂いていく。切れ味はあまり良くないみたいでスムーズには切れてない。


「な、何を!」

「検査って言ってんだろ? ほら、ヘッジの街にご禁制のものを持ち込まねえかどうかのな」

「そ、そんなものは商人の誇りにかけてやっておらん!」

「誇りとかどうでもいいんだよ。俺たちゃ調べるだけだからな」


 ゲヘヘと下卑た笑いを浮かべる。


「さて、じゃあまずは、そうだな。そこの奥さんとメイドに脱いでもらうか」

「なっ!?」

「どこに隠してるか分かんねえからな、隅々まで調べねえとよ」

「アニキ、オレ、あの子を調べたいんだけど」

「おいおい、ありゃまだ一桁だぞ?」

「だがそれがいい」


 衛兵その二はすこぶる下衆な野郎だった。手がもうやばいんだよね。わきわきしてるというか。あー、私もあの赤い玉貰っときゃ良かった。でも魔力とか言ってたからもしかしたら使えないかも?


 あんまりムカつくからなんか石でもぶつけてやろ。私の念力(サイコキネシス)でどこまで出来るかは分からないけど。


 拳大の石を拾って顔面目掛けて飛ばす。クマにぶつけた時は石の大きさが小さかったしおっかなびっくりだったからね。まっすぐ飛ばすだけだから余計なコントロールとかは要らない。全力で飛ばす。当たらなかったらどうしよう。


「へぶぅ!?」


 石は一直線にその二の顔面に直撃した。おお、私やるじゃん。こうなったら次々と石をカタパルト発射だ。


「な、なんだ? 土魔法か? いや、風か?」

「どっちにしろ魔法使いにゃ勝てねえよ」

「くそ、せめてこいつらだけでも始末して」


 またなんか悪あがきしようとしてる。こうなったらなんかビームとか出してみたい。サイコビームとか悪くないと思わない?


 とかやってたら剣が振り下ろされそうになったから、転移(テレポート)でさらって逃げた。キョロキョロしてるけど、直ぐには見つからないと思う。


 やれやれとか思ってるとなんかポカーンとした表情の御一行。まあ緊急事態だったから仕方ないよね。

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