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登山(episode73)

本編に戻ります。

「どうして私も登山の準備をしなきゃいけないのかしら……」


 アンネマリーさんがしみじみと言う。それはそうだ。現地のガイド、シェルパの人の指示を理解出来る人が居ないからだ。


 えっ、コタツ? みかん? 幻ですよ、そんなのは。だって、今、ネーパーラに来てるんだから。


 そして、目の前にいるのは褐色肌の美少女、パルパティちゃん。十条寺の海外支部に勤務してる現地人なんだとか。くりくりした目が可愛らしい女性だ。手足は長く、背もそれなりに高い。私とはサイズが違うね。まあ私の方が年下だけど。勝ってるのはおっぱいの大きさだけだね!


「よろしくお願いしマス」


 たどたどしい八洲語で自己紹介してくれた。なんだ、八洲語出来るじゃん、って思ったら「よろしく」「ありがとう」「ごめんなさい」「さようなら」しか出来ないんだって。なるほどなあ。


 ちなみにガンマさんも現地の言葉は喋れない。ガンマさんは主に戦闘系だから言語はそこまで取得してないんだとか。私も英会話くらいは出来る様になった方がいいのかな?


 という事でこの四人で登山をするというのが決定。登山隊に参加するかと言われたが、山頂が目的では無いので遠慮した。びっくりされてた。


 エベレストにあるというある植物を分けてもらうために山に登るのだと言うと余計にびっくりしていた。その植物を栽培されている村は恐らく隠し村みたいなところで普通の人では辿り着けないのだと。でもまあ困難は織り込み済みなので、構わないとは答える。


 入口の村と呼ばれる場所から緩やかな長い坂を一歩一歩登っていく。もっとひょいひょい行くのかと思ってた。高度順化という問題があるらしい。


 平地の気圧に順応している私たちが高山に行くと、体調を崩してしまう。高山病などの発症もする。そんな事態に登山中に陥ると事故の可能性が高まる。だから、時間をかけて高所の空気や気圧に身体を慣らすんだそうな。


 私は周りの空気をさぐってみる。確かに少し木門の気が弱いよね。木が生えてないからだと思ったんだけど、そういうことなのか。ええと、地上と同じ割合にするには……こうかな?


「ちょっと、今何やったの!?」

「えっ? ちょっと呼吸しづらそうだったから空気の気を調節しただけですけど」

「そんな事も出来るのぉ!?」


 アンネマリーさんに驚かれてしまった。ガンマさんは当然といった顔をしてたけど、パルパティちゃんはアンネマリーさんに通訳してもらって遅れてびっくりしていた。


「シェルパのパルパティちゃんも有り得ないって言ってるわよ」

「有り得ないということこそ有り得ないわ」

「けむにまかないで。全く。高度順化やる必要無くなってない?」


 魔法が続くなら高度順化やらなくてもいいけど、切れた時に辛いかもだから真面目にやることにした。魔法は禁止だって。まあいいけど。


 高度順化を終えてそのまま登山へ。基本的に山頂を目指しながら隠された村を探すらしい。と言っても高高度の場所に村なんかあっても他の場所との流通を考えたら不便じゃないかなと思うんだ。


「そういう村、ここじゃなくて知ってるけど、村の中で経済が完結してるのよ」


 つまり、外部との交易を行わなくても自給自足でやっていけるらしい。アンブロジアを育てている村もそんなところなんだろう。


 上に行くほど気温は下がるし、険しさも増していく。岸壁に張り付くようにして移動するのも慣れた。落ちそうにはなったけど、何とか無事だったし。


 ガンマさんは身体を使うのが職業だからか、スイスイと進んでいる。シェルパのパルパティちゃんもスイスイだ。登り慣れてるんだろう。高度順化も早かったし。


 アンネマリーさんは三回くらい落ちかけて、三回目にもうやだーって泣き出した。いや、確かに岸壁にくっついて進むには豊かなおっぱいをお持ちですけど。


 私は豊かなおっぱいも持ってるけど、岸壁には張り付いた。胸も潰れよ、とばかりに押し付けたので痛かったのはある。でもまあ靭帯切れてなかったし、魔法をこっそり使ったからね。


 アンネマリーさんにも頼まれてつかってしまった。軽量化デクリースウェイトの魔法だ。風に飛ばされなければ軽くなった身体で通り抜けられる。そして風は私の木門の魔法で止めているから。金門と木門の同時発動は疲れるのだ。


 風が強くなってきたので洞窟の様な場所に逃げ込んだ。山の天気は変わりやすいと聞いたが、そのとおりみたいだ。あられというよりも雹というべき大きさの氷の粒がゴンゴンと降ってくる。止むまで待機かな、と思って奥の方を見ると、洞窟の奥の方が緩やかに下に下っている。


「これは……もしかして隠し村の入り口では?」


 ワクワクしながらアンネマリーさんが奥に進む。まあ実際に頂上に行くなら下に下っているこの道は進むべきでは無いのだけど、私たちの目的は隠し村だ。一縷の望みというか好奇心を胸に下っていく。


 しばらく歩いていると、アンネマリーさんの前にガンマさんが立ち塞がった。しかも武器を構えている。正直、ガンマさん相手だと私でもキツいと思う。一体どうしたんだろう?


 正面の闇から二つ鈍く光る輝きが見える。ガンマさんはみんなを押し留めると、その闇に向かって武器を構えた。


 のそりのそりと黒い獣が姿を現す。全長は三メートルくらいだろうか。なぜ、このような場所にこのような大きさの獣がいるのか。辺りにはネズミらしき動物の骨にまじって、人骨、それも頭蓋骨の様なものまで転がっている。こいつが食べたのだろうか。


 黒い獣はガァァァ!と一声吠えてこっちに突っ込んでくる。私たちが人数居てもお構い無しだ。まあサイズが違うもんね。


 ガンマさんは手にナイフのようなものを抜き……いやナイフじゃなくてクックリとかいうネーパーラの武器だ。せっかくだからとか言って持ってきてたのは知ってる。空港? 外交特権でチャラにしたみたい。ガキン、と音がした。どうやら相手の牙とかち合ったみたいだ。黒い獣が一撃で倒せぬとみて距離を取ったみたいに見える。

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