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番外話 もういくつ寝ると

特別編! 本編とは関係ないので、ちょっと息抜きをば。

「……どうして私たちはここに連れてこられているのかしら?」

「決まってる。あの女神がまたなんかやった」

「あのさあ、私、これから世界最高峰への登山なんだけど」

「世界最高峰って、サガルマータ?」

「何よそれ? チョモランマって言ってたわ」

「あー、エベレストね」

「意味がわからないわ!」

「大丈夫。全部同じものだから」

「ああ、なるほど。大判焼き」

「それ以上はいけない。ちなみに私は今川焼き派」

「派閥まであるのね」


 場所は白い部屋。二人はコタツに入ってみかんを食べながらだべっている。なんでこんなところにいるのかは分からないが、いつの間にか連れてこられたらしい。


「私も今から野盗退治」

「野盗退治? そんなの衛兵に任せとけば?」

「痺れ薬とか使われたみたいでほとんど全滅」

「なんで!? というかキューは無事だったの?」

「私にそういうのは効かない。耐性付くように訓練されたから」

「貴族でもそこまでやらないわよ!?」


 コタツの上のみかんに手が伸びる。コタツにみかんは黄金のコンボだ。贅沢言うならアイスでもいい。暴力的な組み合わせだ。


「作中では年越しはまだだけど、現実の暦では大晦日だからスペシャルだって」

「大晦日だよ、二人ともって? 巫山戯てますわね。ギャラは貰いますわよ」

「そこのみかんがギャラらしいよ?」

「舐めてますの!?」


 ティアは多少興奮気味に、キューは割り切ったのかみかんを美味しそうに食べている。


「ここでは紅白とか無いから退屈でしょう?」

「紅白ってなんですの?」

「あー、歌番組だよ。年末の恒例行事みたいな」

「テレビは嗜みませんわよ?」

「そーなの? 私とかテレビしか見るもの無かったから紅白とか年末のお供だったなあ。ほら、演歌の女王がものすごい衣装で宙に浮かんだり」

「演歌と宙に浮かぶ事の関係性を説明して欲しいのですが」

「目立つからじゃない? あと、演歌は地味だから見た目だけでも派手にしようって」

「むちゃくちゃですわね。まあそれも文化という事でしょう」


 そういうティアもみかんに手が伸びる。なんだかんだとみかんは美味しいのだ。しかも、酸っぱいのはあまり入っていないみたいだ。その辺は女神の配慮なのかもしれない。


「ティアの世界では年越しはどうだったの?」

「どう、と言われても、騒ぐところでは騒いだりしますが、あまり田舎だとやることも無くて。あ、新年始まってからなら王城で年始の挨拶に貴族がかり出されますわ」

「そっか。じゃあ公爵家はどっちも挨拶に行くんだね」

「……どっちも? 公爵家が二つ!? 何をやってるんですか!」

「大したことは。伽藍堂ぐんたい清秋谷けいさつと問題起こしたティアのセリフじゃない」

「四季咲と古森沢は味方ですし、十条寺と妖世川にも伝手は出来ましたわ」

「なんで八家の半分が味方についてるの?」


 みかんが無くなったので何かないかと取りに行ったらお餅が用意されていた。女神の隠し食料だろうか。


「夢の世界だからかいくら食べても太らないのはいいね」

「お餅は太る。砂糖醤油だと更に太る。きな粉も太る。お雑煮もそこそこ太る」

「新年は太り過ぎに注意ですわね」

「お餅つきは運動。やってみる?」


 キューは納屋から臼と杵をもってきた。もってきた、というか念動サイコキネシスでコタツに居ながら運んだというか。


「キューはやったことありますの?」

「話に聞いたことはある」

「それでは……あ、もち米」

「そういえば。炊かないとないよね」


 二人はしばし悩んだ。実は納屋の中にはもち米が三十キロばかり置いてあったりする。女神は餅を搗かないが、臼と杵があるということは誰かがやっていたという事。コタツから出たくなくて探しにも行かないが。


「餅つきはやめよう」

「そうね」


 それからしばらくはまったりとおしゃべりをした。ティアはスイーツが美味しいと喜び、キューは自由に出歩けるのが嬉しいと喜んだ。お互い、それなりに満足そうである。いざ、帰れと言われても困るに違いない。


「そろそろ年明けね」

「まあじょいやーの鐘? とかいうのがなってるから」

「じょいやーじゃなくて除夜よ。どこの世紀末覇王よ」

「よく分からない。でもバスケは難しい」


 確かに除夜の鐘が聞こえる。なぜなのかは分からない。除夜の鐘は百八回。百八ある己の煩悩を振り払うと言われている。……女神が煩悩まみれなんだからむりじゃないかな?


「お蕎麦茹でてくるわ」

「おー、年越し蕎麦」

「長生きできるようにってね」

「切れやすいから苦労を断ち切る様にって聞いた」

「良く考えると長寿で蕎麦は切れやすいから寿命もそこで途切れるんじゃあ」

「それ以上はいけない」


 ティアはお蕎麦を茹でるくらいの家事はできるようになっている。一人暮らしをしているのだそれくらいは容易い。キューは、出来ないことはないけど、外で食べ歩く方が好きみたいだ。どんな食事も味気ないペースト状の餌に比べれば上等に見える。


「色々あったわね」

「そうだね。色々と」

「入れ替われてよかったわ」

「私もだよ。凪沙やタケルに会えた」

「私も。エレノアさんやベルちゃんさんに会えたし」

「お互い良い出会いをしたみたいね」

「正直、生きてること自体苦痛だったんだけど」


 お互いの状況を知ってるだけにお互いに同情し合っているところがある。二人とも暮らし的には不自由はそこまでしなかったけど、心の自由はなかったから。


 新しい世界に来て、心の自由を手に入れた二人は改めてそこだけは女神に感謝するのであった。


「いぃーやぁー! なんで!? わたしのみかんとおもちがどっかいった!?」


 悲痛な叫び声が納屋から聞こえた。どうやら女神が戻ってきたようだ。みかんもお餅もちゃんと帰ってきた時用にとってあるので問題は無い。騒がしい年越しになりそうだが良い新年を迎えられそうだ。


 女神さま、私たちを入れ替えてくれてありがとう。これからもよろしくお願いします。あと、仕事してね。

野盗退治が野党退治に誤変換されてて一人でお腹抱えて笑いました。


今年の更新はおしまいですが、来年はまた1月1日に休まず連載しますので、ご安心ください。


それでは良いお年をお過ごしください。

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