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第七十一話 夜訪

深夜の訪問。濡場はありません。

「あのクソ医者が! 奥様の暇つぶしになっているだけならまだしも、ヒルダお嬢様にまで「慈悲をくれてやる」だと!?」


 あら、お言葉が乱れていらっしゃってよ? いや、無理もないか。ヒルダさんが慰みものにされようとしたんだし。夫人が取り込まれてるのはいいのか、ということだが、夫人が主導権を握ってるなら遊びの範疇なのだが、操られて公爵家の身代を危うくするようならダメなんだと。


 うーん、あの会話を聞く限りはもう主導権は握ってないんじゃないかと思うんだけど。というか教団なんだけど、それはいいの?


「決してよくはないが、教団に出資する貴族家もあるので、家の方針とかそういうのでない限りは我々では口は出せない」


 あー、まあ主家の方針なら仕方ないよね。まあやっぱりそっちに手を染めてる貴族はいるのか。この公爵家では夫人がそうなんだけど、でも、だからと言って娘に手を出すのはいけないよね。


「お嬢様がリンクマイヤー公爵家と婚約する前ならば家の方針で許されるかもしれんが、既に嫁ぐことが決まった身でそういう事をされると、ミルドレッド公爵家の立場が危うくなってしまいます」


 娘の心配より対外的な対面の問題なの?!


「もちろん、ヒルダお嬢様は幼い頃よりご聡明で、お優しくいらっしゃって、我々使用人としてもお慕い申し上げております」


 ヒルダさんが聡明で優しい、というのは身内贔屓なのかもしれないが、まあその片鱗はあったよね? あったかな?


「それはもう、小さい頃のお嬢様は可愛くて可愛くて、危うく手を出してしまいそうに」


 清秋谷おまわりさん、こっちです! あ、この世界には居ないんだっけ。まあお巡りさんなんか呼んだら変なのが来て逆にピンチが拡がったりしたりしますけど。


「ともかく、夫人の暴走を何とかしないと」

「左様でございますな。ならば旦那様にお話しするしか」


 えー、またあの人と話すの? いや、ここに来たばかりの時に教団との繋がりをカマかけて失敗してから反応が悪いんだよね。まあともかくは話さないとダメか。


 侍従長を伴って旦那様のお部屋に行く。以前は夜に遊び歩いていたようだが、最近はそうでも無いようだ。体調が悪くなったとか。


「旦那様。夜分遅くに失礼します」

「ガードナーか? なんだ、こんな時間に」

「大至急お伝えしなければならないことがありまして」

「明日ではダメなのか?」

「はい」

「……わかった。入ってこい」

「失礼します」


 侍従長はドアを静かに開けて入る。私は待っておくようにドアの前で待機させられてる。なんかボソボソと話してるのが聞こえる。まあ順風耳クレヤオーディエンスはないから聞こえないんだけど。


「わかった。キューとやら、入室を許す。入ってまいれ」

「ありがとうございます」


 入室許可が出たのでそのまま入る。そしてナイトキャップを被って、パジャマ姿の公爵様と対面する。なかなか可愛い格好じゃないか。


「粗方の内容はガードナーから聞いたが、今一度、確認のために聞かせてくれるか?」

「はい。端的に言いますと、奥様が教団と繋がっておりまして、ヒルダお嬢様を差し出そうとしておりました」

「むむっ、それは確かなのか?」

「証拠はありませんが、私が聞きまして、ヒルダお嬢様をリンクマイヤー公爵家に避難させました」


 どうやって? というのは省略しているし、今話しても意味が無い。大事なのはヒルダさんが安全圏にいるという事実。


「それは、例を言わねばならんな。ありがとう。しかし、教団とは……妻が何かをしているなとは思ったが、男遊びくらいはと目溢ししていたからな」

「あの、こう言ってはなんですが、子供出来てたらどうするんですか?」

「何を言う、もうワシが妻とそうしておらんのだから不義の子に決まっているだろう。そうなればその事実をもって屋敷から叩き出すだけよ」


 うわぁー、夫婦の情とかないのかな? いや、あったらそれぞれが浮気とかしてないか。公爵様も愛人囲ってるって話だし。リンクマイヤー公爵は多分そんなことしてないのになあ。いや、あの人は単なる苦労人大事なだけかもしれないけど。


「とりあえず明日にでも取り調べるとしよう。明日、その医者が来たら捕らえてワシの前に連れて来るのだ」

「かしこまりました」


  公爵様と約束して部屋を辞した。割とあっさりと話が進んだのはヒルダさんへの愛なのか、このガードナーさんへの信頼なのか。まあちょうど良かったのはちょうど良かったんだけど。


 侍従長と別れて翌朝まで一眠りする。いや、夕方まで寝たいけど、我慢だ我慢。


 翌朝、夫人が外から帰ってきた。いや、一晩中どこにいたのか。とかは聞いちゃダメなんだろう。問題は夫人が医者と一緒に帰ってきたということ。丸わかりである。


「ミント、ミントは居ますか!」

「は、はい、お呼びでしょうか、奥様」

「ヒルダはどこです?」

「その、お戻りになっておられないのでなんとも」

「なんですって!?」


 出迎えに出た侍女たちの中からミントさんが呼び出され……あの、なんかすっごいワクワクした顔してません? 若干息も荒くなってる様な。


「申し訳ありません! どうか、どうか、この愚かなミントめに、罰を、ムチでバンバン叩いて、罰を、お与えください!」


 恍惚とした表情で罰を与えてなんて言われても罰に説得力がないんだよなあ。ほら、奥様も怯んでる。どうしていいか分からないみたいな。


「良いではありませんかロイスリーネ様。この娘も供物にしてしまいましょう」

「そ、そうですわね。部屋でゆっくりと調教いたしましょう」


 声を掛けたのは医者。奥様の事を公爵夫人ではなく「ロイスリーネ」と名前呼びに。いや、そんな名前だっけ? と思ったが聞いてないんだよね。年増デブ女がロイスリーネって完全に名前負けじゃん。


「お待ちください、奥様」

「ガードナー? 何? あなた、私のやり方に文句でも?」


 見下したようにいう奥様。医者も余裕そうに笑っている。


「旦那様がお呼びでございます」

「私は忙しいの。後にしてちょうだい」

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