酒席(episode8)
居酒屋に入れるくらいには大人なんです。胸も大きいしね!
散々騒いでいた凪沙が大人しくなってきたし、お腹も空いたので、どこかの店に入る事になっあ。結局、はんばーがーとやらは食べられなかったしね。
なんか個室?みたいな感じで区切られてる場所だった。居酒屋?とかいう場所らしい。なるほど、酒場なら悪くは無い。喧騒で他の人の声は聞こえにくいからね。
「お兄さん、生ビール二つと、この子にオレンジジュース。あとポテトと唐揚げと……この辺適当に持って来て!」
どうやら私だけ違うものらしい。しかし、この子と来たものだ。これでも成人はしてるんだけどな。
「お待ちどうさまでした。生ビールとジュースです」
ドンと金色のキラキラした泡がシュワシュワいってる飲み物がタケルと凪沙の前に置かれた。私の前には金色っぽいけど、ちょっと違う。
「まずは、かんぱーい!」
「か、かんぱい」
「えーと、かんぱい?」
何故かタケルと凪沙がコップをお互いにぶつけて、そのまま凪沙が金色の液体を一気に喉に流し込む。ゴキュゴキュという子気味いい音がして、コップの中身がどんどんと無くなっていく。
「ぷはぁ」
飲んでて呼吸が出来ていなかったからか、海に潜った後みたいに息を吐く。うん、確かに溺れてるみたいだね。
「この一杯の為に生きてるぅ。さて、ティアちゃん? 魔法とか色々聞かせてもらおうか?」
ずいっと詰め寄ってくる凪沙。顔が怖いんだけど。タケルに助けを求めようとするが、飲み物をチビりチビりと飲みながらこちらの様子を伺ってるみたい。
まあ、秘密にしてる訳でもないし、凪沙には世話になってる。異世界だと言うのはキューとの会話で知っているが、魔法があるかどうかなんて確かめてもいなかった。
「ええと、もしかして、この世界は魔法とかなかったりする?」
遠慮がちに聞いてみた。
「ある訳ないでしょ! おとぎ話じゃあるまいし」
「あ、でも超能力とかいうのはあるんだよね?」
「今度は超能力? なんかのアニメ見たの? あ、タケル、あんたでしょ。なんのアニメ見せたのよ!」
「ふぇっ!? ご、ごかいだよ。何もしてないって。これから布教はしようと思ってたけど」
「布教!? タケルって聖教会の人間なの?!」
布教と言う言葉にビクンとした。それは聖教会の奴らが勝手にやってきて教会を建て、寄進を強奪していく事だからだ。まさか異世界のここにも聖教会の手がのびていたなんて。
「あー、ティアちゃん? この布教っていうのは宗教的なものじゃなくて、好きなものを勧めるって意味だから気にしないで」
なんの事かよく分からないけどどうやら聖教会は関係ないようだ。良かった。
「それより、魔法だよ、魔法。なんなの、あれ?」
「なんなのって魔法は魔法に決まってるんだけど。まあ私は基本的な魔法しか使えないんだけどね」
「どんなのが使えるの?」
ワクワクした目をしながら凪沙が聞いてくる。
「ええと、よく使ってるのは身体強化かな」
「身体強化?」
「うん、ぱちんこ玉の箱持ち上げたりする時に」
「あっ、ティアちゃん、力強いなあって思ってたらそんなズルしてたんだ!」
「ええー、魔法は魔法で実力だからズルというのは違うと思うんだけど」
なんか糾弾されてる。いや、目は笑ってるからきっと本気では言ってなくて場を和ませようとしてるんだろう。
「あとは火種起こすやつとか」
「マッチがあるからなあ」
「飲料水出すやつ」
「水道あるし、ペットボトル持ち歩けば」
「あとは落とし穴掘るのとそよ風吹かせるの」
「うーん、使い道ないなあ」
「そうだね」
なんかタケルは横でわちゃわちゃしてたけど、なんか言葉になってなくて笑う。そうこうしてるうちに食事がいくつも運ばれてきた。
「まあいっか。食べよ食べよ」
そう言われて私はお箸とやらを手に持つ。いや、これ、食べにくいんだよね。と思ったら店員さんがフォークを持ってきてくれた。これで勝つる!
まずはなんか巻かれてる黄色い塊を食べる。口の中に入れるとなんかふわふわの食感がする。あと美味しい。
次に唐揚げとかいうものを見た。凪沙はヒョイパクヒョイパクと口の中に入れている。タケルは自分のお皿に取って何か果物の汁をかけている。
「タケル、それは?」
「ああ、これはレモンだよ。唐揚げにかけると美味しくなるんだ」
「何言ってるのよ、唐揚げには何も足さない、何も引かない。そのまま熱々を食べるんだってば!」
凪沙はかけてないので人それぞれらしい。私は掛けたのと掛けてないのを両方いただいた。うん、私は掛けてる方が好きだわ。凪沙には言わないでおこう。
それから色んなものが入ってるお好み焼きとかいうものや、揚げただけのポテトとかいうのも食べた。じゃがいもとかいう野菜らしい。簡単に作れるというので今度家でやってみることにした。
それからしばらく飲んで凪沙がべろべろに酔っ払って、タケルにおんぶされていた。
「ごめんね、いつもこうなんだ」
タケルが困った様に微笑む。そう言えばタケルはあまりお酒を飲んでいなかったし、会計もタケルが払っていた。ひょっとしてこうなる事を分かっていて遠慮していたのかもしれない。
「ぼくらはティアちゃんがどこから来たのか、なんて知らなくてもいいさ。君がぼくを助けてくれたのは間違いないからね」
いや、話すのは構わなかったんだけど、その前に凪沙が有耶無耶にしちゃったんじゃないかな? まあ魔法のことは色々教えたけど、大したことは出来ないんだよね。
「分からないことがあったら何でも聞いて欲しい。ぼくで良ければ力になるから!」
そう言ってくれたので私はお言葉に甘えることにした。
「買い物の仕方、というかお金の使い方が分からない。そろそろ干し肉も尽きそうだから食料を調達したい」
「ええっ!?」
タケルが素っ頓狂な声を上げたが、凪沙をおんぶしているので派手なリアクションは取れなかった様だ。とりあえず帰りにコンビニとかいうところで教えてくれるって。タケル、凪沙背負ったままで大丈夫なのかな? なんなら身体強化で代わりに持つよ?