育毛(episode68)
アンブロジアは架空の植物です。
マコト君と未涼さんがその後どうなったかは知らない。私は湯船に浸かってゆったりしてただけだからね。まあ万一男どもが襲ってきたとしても軽くあしらえると思うよ。伊達に格闘術とか習ってなかったし。
人は本当に美しいものを目にした時に無力になる。そんな事が世紀末救世主伝説的なマンガに描いてあった。もしかしたらそんな状況なのだろうか。湯船にいる男たちは何かしてくる様子は無い。
「ティアちゃん、か、身体洗ってあげようか?」
「いや、別に。昨日の夜洗ったから洗わなくてもいいかなって」
「そっ、そうだよね、あははー」
「で、でも、寝汗かいてるかもしれないから洗った方がいいんじゃないかな?」
「寝汗ぐらいなら流して終わりでいいでしょ?」
「そ、そうだよね、あははー」
何とかして私の柔肌に触れようとしてるのだろう。下心は満載だが、強制はしてこない。ちなみに、私はお湯に浸かりながら周りの温度を調節したりしてるので逆上せる心配はしていない。というかあの人たちの方が逆上せそうなんだけど。
「おっ、オレは、もう、ダメだ」
「バ、バカヤロウ! せっかく、せっかくティアちゃんが居るのに!」
「拙者は小さい子どもに入ってきて欲しかったでござる」
「バカ、そもそも泊まってなかったじゃねえか!」
まあ見るだけならともかく小さい子にタッチするのは犯罪ですよ? いや、大きいお姉さんにタッチするのも犯罪かもしれないけど。おばあちゃんとかなら喜ぶかもしれないけどね。
すっと上がって湯船横にあるリクライニングチェアに座る。まあそんなに見ても減るもんじゃないから、力づくで襲われない限りは大丈夫でしょ。というか力づくで襲って私を抑え込めるならそれはそれでいいかなって。乙女心は複雑なのです。
お風呂から上がってマッサージチェアに腰を下ろす。いや、このマッサージチェアってのが凄まじくてね。私はもう虜だよ。電気屋行ったら売ってたりしない? 後でタケルに聞いてみよう。
しばらく待っても男たちが出てこない。旅館の人に親切にしらせたらどうやら逆上せて動けなくなってたみたい。彼らだけ帰宅が遅れることになりました。回復するまで寝かせとくんだって。
私たちは朝ごはんを頂いてそのままチェックアウト。みんなで帰宅です。保乃さんはニコニコしながら私の近くに陣取っています。未涼さんはマコト君と手を繋いでますね。〇学生ですか?いやまあ、お二人の未来に幸あれ、って奴ですよ。
凪沙はタケルと一緒です。あまり温泉では会話できなかったみたいで二人で旅館であったことを話してるみたい。まあ凪沙が一番可愛く見える瞬間ですね。砂糖吐きそう。
オーナーはいつも穏やかに笑っていらっしゃる。独身なんですよね、オーナー。まあ恩はあるけど伴侶に選ぶほどでは無いので誰かいい人が居れば紹介してあげたいとは思う。
ただなあ、オーナー、ハゲなんだよね。ほら、ハゲだと魅力が半減するって聞いた事あるし。いや、ハリウッドスターみたいなイケメンなら違うんだろうけど。私は平気だけどね。冒険者にもハゲ多いし。
そうだ、帰ったらオーナーの為に毛生え薬でも作ろうかな。まあまずは材料から探さなきゃいけないんだけど。錬金術のスキルを使えば大丈夫だよね?
「おかえりなさい、凪沙ちゃん、ティアちゃん、タケルちゃん!」
玄関開けたら諾子さんが出てきて抱き締めてくれた。アパートに帰らずにここに来たのはお土産を渡すためと、自分でご飯を作るのがめんどうだったからだ。
諾子さんは私たちの行動などお見通しだったのかちゃんと人数分用意してくれた。後で聞いたんだけど、オーナーが連絡してくれたらしい。オーナーも食べて行けばって言ったんだけど、なんかジャンクなものが食べたいから遠慮するってさ。ハゲてんのオーナーの生活習慣が悪いからじゃない?
のんびりゆっくり、タケルの実家は安心出来る場所だ。ご飯を食べたら自分の自宅に帰る。軽く部屋を片付けて、毛生え薬の製作に取り掛かる事にした。
まずは材料である。毛生え薬に必要な植物、動物を考える必要がある。こういう時にスマホと言うやつは役に立つ。ポチポチと検索してみる。
ビタミンB2、ビタミンB6、タンパク質、亜鉛など。なるほどわからん。ビタミンB2は別名リボフラビン。牛乳、チーズ、レバー、肉、魚、卵などに含まれる。ビタミンB6はピリドキシン。レバー、魚、豆類、赤身肉、かつお、まぐろ、牛乳、納豆、焼きのりなど。つまり牛乳とか魚があれば解決かな? タンパク質はあれだ。肉に含まれるやつだ。これは知ってる。なんか動物性と植物性があって違うみたいだからどちらも揃えておこう。亜鉛。牡蠣、あわび、たらばがに、するめ、豚レバー、牛肉、卵、チーズ、高野豆腐、納豆、えんどう豆、切干大根、アーモンド、落花生などに含まれる。牛乳って割と万能選手だよね。
ということで牛乳を買ってきた。毛生え薬を作るのに牛乳をベースにするのは悪くないと思う。レシピが浮かんできた。むむむ?
【毛生え薬アルファ:牛乳、納豆、ケール、ワカメ、アンブロジア】
牛乳、納豆はともかくケール? お家けーる? いや、違うか。調べてみよう……キャベツの仲間? うーん、これは売ってたりするのかな? あとはワカメと……アンブロジア? ええと、なになに? ギリシャ神話の神々の食べもの? 不死性? 手に入るか、そんなもん!
いや、待てよ? これに書いてあることが全てでは無いかもしれない。こういうのはタケルに聞けばいいんだよ。何か知ってるかもしれない。よし、聞いてみよう。もしもしタケル?
「あれ? ティアか。珍しいね」
「今時間大丈夫?」
「あー、うん。まあ時間はあるよ」
「良かった。ちょっと聞きたいんだけど、アンブロジアって知ってる?」
電話の向こうのタケルの反応が薄い。何かを調べてるのか? それとも何か思い当たる節があるのか?
「いくつかあるけど、口頭じゃあちょっと。家にこない?」
「実家の方?」
「いいや、うちのマンション。場所は……凪沙にでも聞いてくれ」