第六十五話&episode65 調和
御局様降臨
二人が目を開けると、そこは真っ白な部屋だった。ただの真っ白な部屋ではない。基調色は白だが、様々なもので部屋は彩られている。まずベンチ。というかベンチじゃなくて大きめのソファーである。弾力もある。座り心地は良さそうだ。足元の絨毯は交換が可能なようにセパレートな感じになっている。手すりは外れているので寝転んでも大丈夫そうだ。別に二人ともクレームとかは入れてないはずだとお互いを見やる。
実の生ってる木は種類が増えているだけではなく、名前がわかるように名札までついている。前と同じように、ティアはりんごを、キューは桃を手に取る。ついでにぶどうも取っていく。
そのままテーブルへと移動。テーブルは大きさが広くなったままで、テーブルクロスは汚れないようにかコーティングしてあるのも変わらない。椅子にはリクライニング機能がついてるだけじゃなくて、マッサージ機能が追加されていた。必要なのか大変疑問なんだが。家庭菜園はちょっとした農園になっていて、そこで働いている女の子の姿が……って女の子ぉ!? 二人して素っ頓狂な声を上げた。
テーブルの上にティーポットとカップ、そしてお菓子が幾つか置かれていた。お菓子は今度はいくつかのケーキとチョコクッキーみたいだ。テーブルの上には果物ナイフだろうか、小さめの刃物が置いてあり、二人はそれで皮を剥こうとすると、「皮をお剥きします」と声を掛けられた。
びっくりしてそっちを見ると美少女メイドがにっこりと微笑んでいた。髪はおかっぱで純朴そうな顔をしている。この世界に何故人が居るのかは分からないが、とにかく状況を整理しないといけない。
「ええと、あなたはどちら様?」
「大変申し訳ありません。私は対有機生命体奉仕用ヒューマノイドインターフェース、セリオースと申します」
ティアの問いに頭を下げながら答える。
「あの、あそこの女の子たちもあなたと同じ?」
「はい。正確には農業従事用ヒューマノイドインターフェースとなりますが」
「ええと、作ったのは女神様?」
「女神様、というのがどの女神様なのかは分かりませんが、こちらの世界を担当しておりました、創造神の上司に当たります女神様、調和神様より派遣されてまいりました」
ああ、とうとうやっちゃったか。二人の胸に去来したのはそんな感想だった。いつかはやると思ってました。というかやり方が雑すぎるし、仕事サボって甘藷食べてたしね。
「あの、その調和神様とお話させていただくことは出来ますか?」
「申し訳ありません。調和神様は大変お忙しい身。仕事以外にも婚活がありますので」
二人はこれ以上は問うまいと思ったのでした。まあ、二人が来た時のためにこのようなメイドさんを用意してくれているのだから今まで通りでいいだろうって事で。
「また会ったわね」
「まだやるの、それ? 」
「何となくやらないといけない気がしない?」
「それもそうか。そっちはどう?」
「ぼちぼちやってるわ」
「そう。こっちもぼちぼち」
二人で椅子に着きながらお茶を入れてもらう。温かい紅茶が香り高く鼻腔をくすぐる。
「ところであなた、ヤクザって知ってる?」
「えっ? ああ、違法な活動やってたりする愚連隊でしょ? 社会のゴミ。それがどうしたの?」
「あー、そういう認識なのね。トラブルになったりした?」
「えーとね、強さは大したことないけど、しつこくて、下手に返り討ちにしちゃうと家族とかそういうのに危害を加えたりするから注意した方がいいかもね。それで嫌がられてるし」
「……もうちょい早く聞きたかったわ」
「トラブったんなら根元から潰しちゃえばいいよ!」
「あんたみたいな戦闘民族と一緒にすんな!」
はぁ、とため息つきながらティアは頭を抱える。キューも何か聞いてみたくなったので教団の事を口に出した。
「ねえねえ、教団って知ってる?」
「……知ってるわよ。何、あいつら、また本格的に動いた訳?」
「ええと。動いたというか。なんか進化の実とかいうやつを狙ってきててね?」
「何よそのいかにも厄介事ですみたいな名前の実は?」
「なんか進化を促すとか何とか」
「全く分からないわ」
ティアには教団の事は分からない。というか教団が活動していた事すら驚きだ。……いや、実際はブルム家に教団が接触を試みて来た事はあった。どうなってるのか分からないが、ティアはその辺で家を出たのだから。教団は没落しそうな貴族を狙って動く。キューにはそう伝えておこう。
「キューに聞いても分からないとは思うけど、キューって魔力無いわよね?」
「ん? うーん、そう見たいね。真偽の箱とか言うのも発動しなかったし」
「ああ、あれも体内魔力で見分けるもんね」
「別に私には困らなかったし、そのおかげかどうか分からないけど、呪いも断ち切れたらしいよ」
「えっ!? 呪いを解呪以外で何とかしたの? それってものすごくない?」
「いや、凄いのかどうかは分からないんだけどね」
「でも、それならなんで、タケルや凪沙は魔法が使えたんだろう?」
ティアが不思議そうに言った。
『その質問には私が答えましょう』
荘厳な声がその世界に響いた。見るとそこにいたメイドさんや、畑で作業していた女の子さんたちが跪いている。ティアもキューも何事が起こったのか分からないという顔をしていた。
天上から光が差し込み、そこから清楚な雰囲気の年齢不詳な女神様が御降臨なされた。アルカイックスマイルというのだろうか。表情は抑えられてるが、微かに笑みを浮かべた顔だ。
『はじめまして、世界を渡りしもの達。私は調和神。この世界だけでなく全ての世界を整えるものです』
「はあ」
「ええと、どうも」
二人とも呆気にとられて言葉が出ないのだが、調和神はとても不満だった。
『あなた方は神を敬うということはしないのですか?』
「いやだって、私たちが初めて会ったのはあの創造神ですから」
「あれを見たら神ってそういうものかなって思います」