第五十八話 国王
木の実の落ち着き先、決定。ウィリアムさんマジ空気。
どうやらウィリアムさんはハワード商会の事はご存知の様だ。なんでもウィリアムさんは王家からの依頼を受けることが多かったらしい。いや、今でも受けているそうだが。先程もその王家からの依頼が完了したので報告に来たところらしい。
「あー、それで、その木の実なんだが。元々ハワード商会から王家に献上するって話になっていてね。もし君たちが良ければ王家に話を通そうかと思うんだが」
王家がどうかは分からない。教団が悪だからといって王家が正義というわけでもないしね。悪の敵対勢力が別の悪って可能性もある訳だ。八洲に生きてればそんな事もある。正直八家なんてどこもろくなもんじゃない。あー、まあ古森沢と十条寺は違うか。あの二つは八家の中でもワンランク下だからなあ。
「オレ……いや、ぼくは、分かりません。どうすればいいのか。実際に会ってみてから決めてもいいですか?」
ビリー君の言葉遣いが丁寧になってる!? あ、冒険者ギルドで鍛えられたからかな? しかし、遠回し(でも無いか)に王様に会わせろと来ましたよ? そして拒否権がこっちにあると。そりゃあまあまともな国なら取り上げられる事はないと思うけど、王侯貴族なんてまともかどうかわかんないよ?
「わかった。近いうちに会う機会を作ろう。それでいいかな?」
「ありがとうございます」
そんな事ウィリアムさんの一存で決められないとは思うんだけど、ウィリアムさんは承諾した。ちゃんと話通せるのかなあ?
「こいつなら心配しなくていいぞ? ちゃんと王家へのコネは持ってるからな」
「もう、グスタフさんだって持ってますよね?」
「オレのは賞味期限が切れてんだよ」
「なんですか、それ?」
軽口を叩き合う金級冒険者たち。まあ二人がいれば再襲撃の可能性も低くなるからありがたくはあるんだけど。教団がこのまま諦めるとは思わないし。
まあ何はともあれ木の実は無事に二人に渡った。これをどうするかは二人が決めることだ。とは言ってもビリー君は王様に会ってから決めると言っていた。私はビリー君とリリィちゃんを守る為に頑張るのみだ。
それから二、三日は何事もなく過ごした。実の見張りはグスタフさんとウィリアムさんで交互にやっているそうだ。まあ二人なら大丈夫だろう。実際に教団も襲ってこなかった。
襲撃のあった日から四日目。王城からの召還があった。いつの間にやらウィリアムさんが動いてくれていたみたいだ。何やら煌びやかな馬車が宿屋の前につけられ、私たちはその馬車に揺られて王城へと向かった。
城の門番はスルーだった。そりゃあそうか。王家の馬車だもんね。グスタフさんやウィリアムさんも一緒についてきてくれている。そうそう困った事にはならないと思う。
馬車から下ろされて、そのままと言われ、応接室のような場所に通された。謁見の間とかいう場所だろうか?
椅子に座ってしばらくするとドアがガチャリと開いて恰幅のいい男の人とその横を固めている兵士たち。神経質そうなメガネの人。こっちは偉そう。そのうち、恰幅良さそうな人と神経質メガネの人が席に着いた。
「木の実を献上しに来たのはお前たちか?」
「ええと、あんたは?」
「私はこの国の国王だ」
なんとびっくり。いきなり国王陛下の御成だったようだ。いや、話が早くて助かるっちゃあ助かるけど。
「陛下、相変わらずフットワークが軽くていらっしゃる」
「久しいな。グスタフ殿。エッジはどうだ?」
「ぼちぼちやってますよ。宰相殿もお元気そうで」
「心労は溜まるがね。陛下が仕事をしてくれれば和らぐのですが」
「そんな事言うなよ。まるでワシが仕事をしてないみたいじゃないか」
「まるで、みたい、じゃなくて実際してないんですよ。全く、我々の身にもなって欲しいものですな」
軽口を叩いてる国王陛下と宰相閣下。うーん、悪い人には見えないけど、どうなんだろ?
「それで、木の実は?」
「あ、はい、こちらです」
グスタフさんとウィリアムさんがビリー君に木の実を出すように急かしていた。もしかしてこの二人は木の実を渡したい派なのか? もし、ビリー君が拒むなら私だけでも味方してあげないと。その場合はどこか他の国に逃げるべき?
「これが進化の木の実か。なるほど。教団に渡せないのだな」
「そうですね。何に使うかは分かりませんが」
「確かになあ。やれやれ、困ったもんだ」
あれ? どうしても欲しいと思っていたらなんか厄介モノを預かるみたいな感じになってる? もしかして、この木の実、厄介モノ?
「正直、この子らが持ってるとずっと教団に狙われる可能性もあるから手放させたいんですが」
「ふむぅ、ウィルからも言われておるし、何とかしたいものだが」
宰相閣下はウィリアムさんの事をウィルって呼ぶんだね。もしかして親しい間柄だったりします?
「宰相、魔法庁の奴らを呼べ。研究させるとしよう。宝物庫に収めとくだけってのは受けの姿勢過ぎていけねえや」
「陛下、余分な予算はありませんよ?」
「教団の目的が分かるかもしれねえんだ。そっちの対策費から回してくれよ」
「……はぁ、仕方ありませんね。確かに対策費から捻出した方が良いでしょう。ついでに人員も確保したいとこですが」
話は纏まった様だ。王様は改めてビリー君に尋ねた。
「さて、意志の確認をしたい。この木の実を献上してはくれんかね? もちろん、これがハワード商会の遺した二人にとっては親の形見とも言える品であるのは分かっている。だが、持っていると君たちの身が危ない。決して悪用しないと約束するが、預からせて貰えんかね?」
目の中は優しそうだし悪意も感じない。ビリー君とリリィちゃんにもそれは分かってるんだろう。加えて二度に渡るゲーブルの襲撃だ。次はもっと大々的に来るかもしれない。
「父さんも母さんも国王陛下に献上しようとしてたんだ。ぼくもそれに従います。改めてハワード商会から国王陛下に木の実を献上します」
「ありがとう。後で対価を渡すから受け取ってくれたまえ」
国王陛下はにこやかに笑った。