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第五十六話 弾箭

弾箭は造語です。火箭にしようかと思ったんですが、こいつは火門使えないので。

「また貴様か。懲りない奴め」

「まあな。任務だからな。もちろん私一人ではないぞ? 見よ!」


 ゆらりと影の中から現れる一人の男。隻眼というのだろう。片方の目が眼帯で覆われている。立ち姿からして剣を使うみたいなのだが。


「こやつらか、《狂獣》」

「ああ、その通りだぜ、ガトウの旦那」

「名を呼ぶな。気安く呼ばれる覚えはないぞ?」

「まあまあ、教団の任務なんですから」

「確かにな」

「デカいのが《颶風ぐふう》ですぜ」

「そうか、それは楽しめそうだ」


 そう言うと男は剣をすらりと抜いた。かなりなプレッシャーが迫ってくる。


「教団の使徒か一人、《無明》のガトウ」

「使徒が、一度に二人も?」


 アンヤ婆さんがガタガタ震えていた。そんなに厄介なのか。いやまあ確かに。あのグスタフさんやエレノアさんレベルの人が来るとなればさすがにキツかろう。


「いやいや、君たちは運がいい」


 ちっちっちとばかりには指を立ててそれを横に振る。否定のジェスチャーだろう。八洲やしまじゃあ二番目だって言うのかな? じゃあ一番は誰なんだ! ズバッと参上、ズバッと……あ、すいません。


「もう一人来てるんだ」


 そのセリフと共に、冒険者ギルドの表が騒がしくなっていた。おそらくはもう一人が暴れているのだろう。隙をついて逃げ出す事も出来ない。いや、出来ないことはないんだけど、全員にしがみつかれるとねえ。アンヤ婆さんにも説明しないといけないし。 何よりバレたら次がない。


「ガトウの旦那、そいつ、そいつは変な挙動しやがる。注意しろよ」

「必要ない。颶風とは拙者がやるから他は任せる」

「なっ!?」

「貴様では及ばなかったのだろう?」

「……目的が違っただけでさぁ」

「負け惜しみだな。では、推して参る!」


 ススッという擬音がピッタリな程の高速のすり足。キュー知ってるよ、あれは剣道のすり足だ。拳法の極意は歩法にありとかいう人もいるくらいだしね。 絶招歩法とかもあるらしいし。歌の力? それは違う絶唱。


 ともかく、あっという間に滑り込む様に接近し、グスタフさんの首元目掛けて剣を振るう。グスタフさんは「うおっ!?」と仰け反りながらもその剣を受け止める。


「今のを交わすか。なるほど。《狂獣》には荷が重いのも頷ける」

「ふぃー、おっかねえなあ。今まで見た中で二番目に鋭い斬撃だったぜ」

「拙者よりも鋭い斬撃などあるのか?」

「ああ、昔会った《剣聖》殿がな」

「興味深い話だ!」


 話しながら剣撃を打ち合わせていく。火花が飛び散り一進一退の攻防に目が離せない……いや、ダメだ、見とれてちゃ!


「ビリー君、リリィちゃん、こっち!」


 私の声に反応する様に二人が走り出す。いや、そんなに離れてはないんだけど。グスタフさんとアンヤ婆さんのそばにいたからね。さっきまでいたところにゲーブルが飛びかかってきた。


「ちい、気付かれたか」

「当たり前でしょうが」

「だが、颶風がいねえ。氷の魔女も居ねえ、ガキどもとババアだけのお前らにオレが苦戦するとでも?」

「……やってみなきゃ分からないよ!」


 私はビリー君とリリィちゃんの手を取り、転移テレポートした。咄嗟の転移なので距離は稼げない。せいぜいが冒険者ギルドの表に行く程度だ。幸いにして進化の実はビリー君の手の中だ。


 転移先に居たのは暴れ回る影。そして奥の方からゲーブルが叫んだ。


「《不知火》、そっちに行ったぞ!」


 私たちの出現に戸惑ったものの、すぐさまその声に反応したのか、暴れ回るのを後回しにして私たちの方に影が躍りかかる。


 ダメだ!と思ったその瞬間、横合いから何か凄まじい勢いの物体が影に直撃した。影はそのまま転がってカウンターの向こうに消えていく。


 衝撃が来た方を見るとそこには弓に矢を番えた男が居た。


「楽しそうな事やってんじゃあないの。そろそろまぜろよ」


 そう言ってニヒルに笑った。いや、ニヒルがどんなものかは私も理解してないんだけど、きっとこういう時に使うはず。


「なんだ貴様は!」


 奥からすごい勢いで迫ってくるゲーブルに男は迷うことなく次の矢を番えた。そしてその矢を迷うことなく放つ。よっぴいて、ひゃうど放つみたいな感じ? 平家物語だっけか。


「ぐぶぅ!?」


 矢は狙い過たずゲーブルにヒットした。なんか今ミサイルみたいに飛んで行ったぞ? ミサイルマンなのか? トランクス派ですか、ブリーフ派ですか?


「な、何もんだ、てめぇ」

「悪いね、これでもゴールドなんだよね」

「弓使い、ゴールド級……て、てめぇ、《弾箭》かっ!」

「おやおや、知っていてくれてるとは嬉しいね。冒険者ギルドが騒がしいから寄ってみたがなかなか楽しめそうじゃないか」


 どうやらこの人も金級で二つ名持ちみたい。というか二つ名持ちだから金級になったのか、金級になったから二つ名がついたのかは分からない。ポカーンと見ていると、開いてるのか開いてないのかよく分からない細目でにっこりと微笑みかけてきた。


「ご無事ですか? レディ。あと坊やたちも」

「ありがとうございます。やつは狂獣のゲーブルって奴で」

「なるほど、教団の手先ですか。それは容赦は要りませんね」


 すぅっと更に目が細くなり、寒気が周りに振り撒かれた感じがした。


「じゃあまずこいつから射抜きましょうか」

「ちぃっ、いつまで寝ていやがる、《不知火》!」

「勘弁してくれよ、アニキ」


 先程吹っ飛ばされた影は立ち上がるとそこまで背が高くない、なんなら私と同じくらいの背筋の曲がった男だった。あ、そう、あれあれ。せむし男。ぴょんぴょん跳ねてるのでのみ男の方がピッタリかもしれない。


「二人がかりでやるぞ」

「わかりました、アニキ!」


 不知火は弾箭さんに飛びかかる。ゲーブルは……まっすぐにこっちに来た! というか多分そんなことだろうと思っていたので繋いだ手は放していない。そのまま短距離転移を敢行する。


「またか! ちょこまかと動きやがって!」


 ゲーブルは苛立たしげにこっちに突進してくる。

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