第六話 掏摸
少年には掏摸をさせよ(笑)
その日はベルさんの家に泊めてもらって、そのまま起床。朝ごはん、あったかくて美味しいです。こういうのいいなあ。
ベルさんと一緒にギルドに出勤。というか私は薬草を売るんだけどね。鑑定では、ちゃんと薬草の取り扱い方もあったから間違っては無いと思う。
ベルさんが掃除を始めたので手伝おうと思ったら、いいから座ってろと座らされた。買取はベルさんじゃなくて、エレノアさんが担当するそうで、虫眼鏡みたいなので薬草を一本一本吟味していた。
「待たせたわね。それじゃあこれ。状態が良かったから色を付けておいたわ」
どさっと置かれる銀貨の詰まった袋。これでしばらくの間は依頼を受けなくても済むのだが、そうやってゆっくりするよりも手に入れなければいけないものがある。
「あの、エレノアさん。冒険者用の装備って売ってませんかね?」
「そうねえ、一応道具屋とか武器屋とか魔法具屋とかあるけど」
魔法具屋!? 何それ。まあ、魔法具とかもあるのか。そうだよね。魔法が主流の世界だもの。
エレノアさんに地図を渡してもらってまずは道具屋へ。いや、最初に魔法具屋に行きたかったんだけど、一見さんは入れないみたいで、エレノアさんが休憩時間に連れて行ってくれるって言うから私は道具屋に赴いた。
「失礼しまーす」
道具屋の中は割と明るかった。ちょっとびっくり。太陽光だけじゃなくて灯りの魔道具が設置してあるみたい。私にとっちゃ蛍光灯と同じ感覚だもんで意識しなかったよ。
「いらっしゃいませ。お客様は冒険者ですかな?」
「あ、はい、そうです。なったばかりですが」
私がなったばかり、と言うと店主らしきちょっと太めの人物は鼻を鳴らした。
「ふん、見るのは構わんが、くすねようとするなよ? 手癖が悪いところを見せたら警備兵に突き出してやるからな!」
なんか悪意たっぷりに言ってきた。きっと過去に私の先輩たちが無法を働いたのだろう。態度が硬化するのは仕方ない。
ロープ、ランタン、ピッケル、スコップ、水袋、背負い袋。あとは靴もだ。靴に関してはここの道具屋だとは思っておらず、棚に並んでるのを見て気がついた。革靴だから足が痛くならずに済む。
一通り買って、銀貨の袋を取りだし、会計しようとしたら、店主は相好を崩した。なんか携帯コンロとか勧めてくるんだよね。いや、火なら熾せるし。
道具屋を出て武器屋に向かう。武器屋の店主は背が低くて頑丈そうな見た目の人だった。髭を生やしているから子供というわけでは無さそうだ。
「あの、武器を見せて貰っても?」
「好きにしろ。武器屋はぶきをみるところだ」
言われていくつかの武器を見る。使いやすいのはナイフだろうか? 解体用にも買っといた方がいいのかもしれない。剣や槍なんかは使ったことないし、使える気もしない。強いて言うなら斧だろうか? 木を切るのに便利ではありそうだ。
「あの、ナイフを何本か」
「わかった。お前さんの体格だとこの辺りだな」
店主の人は親切に身体にあったナイフを選んでくれた。ナイフを数本とショートソードと呼ばれる短剣も勧めてくれたのでせっかくだから一つ買っておいた。
外に出て何か食べようかと思っていたら、横道から出てきた子供にぶつかられた。尻もちをついてびっくりしていたんだけど、子供は走り去ろうとしていた。
ふと気づくとお金の入った袋がない。どうやらスられたらしい。きっとさっきの子だろう。私は仕方ないので転移を敢行した。
「へへん、ノロマがっ……うわっ!?」
突然目の前に現れた私に驚いて子供は転んでしまった。私の金袋が宙を舞う。下手に地面に落ちると硬貨が散らばってしまうかもなので、念動で手元に引き寄せる。
「返してもらうね」
そう言って私はポカンとしてる子供を尻目にその場から離れようとした。
「待てよ! なんだよ、今の!」
「なんだよって私は君に追いついてお金を返してもらった。それだけだよ」
「なんで追いつけるんだよ! オレはちゃんと転けるようにぶつかったのに!」
どうやら私のバランスを崩して転けさせておって来れない様にするはずだったらしい。残念。私の転移は姿勢を問わないんだよね。
「冒険者が自分の手の内を話すと思うかい?」
「ぐっ、ちくしょお……」
どうやら仕事の失敗が堪えたみたいである。悪は滅ぼされなければならないのです。盗み、ダメ、ゼッタイ。
「お兄ちゃん?」
「リリィ、来るな!」
「うわぁーん、お兄ちゃん、死んじゃやだー」
路地から五歳くらいの女の子が出てきてうわぁーんうわぁーんと泣く。勘弁して欲しい。こんなの私が悪者になるやつじゃん。
「あの、君たち、お腹空いてない?」
仕方なく私は二人にご飯を御馳走する事に。いや、良くないとは思うんだけど、なんかいたたまれなくてさ。
二人を連れて私は適当な食堂に入る。ウエイターが二人をギロリと睨んだが、私は気にせず入店を促す。
「あの、オレたち、入ってもいいのかな?」
「食べたくないなら入らなくてもいいよ」
「た、食べる、食べるから!」
そう言って二人が席に着いた。ウエイターが嫌な笑い顔を浮かべて注文を取りに来た。そして水差しを持ってきたけどコップがない。どうするのかと思ったら私の連れの二人に頭から水を掛け始めた。
「何をやってるの?」
「くせえくせえ。貧民街のガキがここに来るんじゃねえよ!」
そう言って女の子の方を蹴ろうとする。私は手にさっき買ったナイフを持ってウエイターの喉元に流れるような動きで突きつけた。ナイフの使い方を鑑定で観てその通りに体を動かしたほうがのだ。
「黙れ」
「うっ、ぐっ、この……」
ウエイターは自分の持ってるお盆を私に向かって振り上げて、振り下ろそうとした。このまま刺すか? と思ったけど、その前に店の外から声を掛けられた。
「あー、もう、こんなところにいたぁ。一緒にご飯食べようと思ったのに」
呑気な声を上げてエレノアさんがニコニコしながら登場した。