第五十四話 果実
不思議な木の実
朝起きたらベルちゃんさんにしがみつかれて起きれなかった。ホールドされてる!?
「おはようございます」
ベルちゃんさんを何とか起こして朝食をみんなでとっている。グスタフさんは起きてきているが、一緒に飲んでたお父さんが起きてこない。どうやら痛飲したみたいだ。
「おはようございます、キューさんいますか?」
エレノアさんが朝から迎えに来た。何事かと思ったら拷問中の男が喋らないので別のやり方を試してみようと。なんでも私が上空に持ち上げて、そこから自由落下させるんだとか。いやいや、やめよ?
「やるかどうかは
ともかくとして、私も立ち会ってみたいんですけど」
「ううーん、あまり残酷なシーンは見せたくないんだけど。まあいいでしょう」
どれだけ残酷なことをやってるんですか? 窓辺からやがて飛び立たれますよ、あの世まで。
「誰が来ても同じだ。我々は喋らない」
黒づくめの一人が威気を吐く。通用するかどうかは別としてとても元気だ。私は鑑定でそいつを見た。
【名前:ウラガン 所属:教団 人種:殉教者 職業:冒険者】
えっ、この人冒険者なの? ということは冒険者ギルドに所属してた? 私はウラガンという冒険者がいるかをエレノアさんに聞いた。
「ウラガン? そういえばそういうやつも居たような」
「エレノアさん、あれですよ。何年か前に登録だけして更新期限ギリギリで最低限の依頼しか受けない奴らがいるって」
「ああ、あれね! 確かその時はギルドマスターが、「期限ギリギリでも更新出来てるんだからいいじゃないか」みたいに言ってましたね」
はぁ、とエレノアさんがため息。
「その、ウラガンって冒険者がどうしたの?」
「この人です。この人がそのウラガンさんです」
「はぁ!?」
私の言葉を肯定するかのように、その男は動揺を隠せない。
「真偽の箱を使います。あなたはウラガン?」
「う、ううっ、はい……」
箱は当然反応しない。この世界の人間にはやはりこの箱は凄まじい威力を発揮するようだ。まあ私には魔力ないから関係ないけど。
「しょ、正体が知られたからには最早生きている意味もなし!」
そう言って何かを噛み潰そうとしたみたいだけど、それを念動で止めてみた。口の周りを止めたのだ。なんでわかったのかって? 私たちもそうしろって言われてたからだよ! あ、私の奥歯に仕込んであった毒薬はもう既に取り出してるよ。
「エレノアさん、口の中を」
「わかったわ。誰かお願い!」
こういう時でも男の口の中に手を突っ込んだりしないエレノアさん。まあそりゃそうか。下っ端の役目だもんな。なお、ビリー君は上手く取り出せないので、そういうのが慣れた人間がやるんだって。
「取り出しました!」
「よし、もういいわよ、キューさん」
私は念動をゆっくりと緩めた。急に戻すと舌噛んじゃうからね。せっかく毒薬取り除いたのに舌を噛まれちゃかなわない。
「ゆっくり、ゆっくりだ。ゆっくり話してもらいましょうか」
「エレノアさん、それなら筆談の方がいいのでは?」
「字が書けなかったらダメだもの」
そう言われてみたら、この国では識字率が低い。八洲は義務教育があるからみんな書けるようになるけど。この国にはそんなものないからなあ。
ゆっくりと言葉を紡がせると、ポツリポツリと話し始めた。
ハワード商会が手に入れた木の実はある儀式に必要なものだったらしい。教団の息のかかった業者が何度も交渉にあたったが、既に王城へと献上が決まっていたので手出しが出来なかった。
そこで、王城に向かう馬車を襲おうと企画し、そして襲ったらしい。しかし、そこにはその実は無くなっており、それならばあの店にあるはずと番頭を助けるふりをして家探しをした。
それでも見つからず、生き残りの子どもたちが何かを知っているかもしれないと網を張って調べてみたら引っかかったので襲撃に来たのだと。
「木の実? そんなの知らない」
ビリー君が困ったように言う。うーん、私としては、届ける時には持ってて襲われた時にそれを割ってしまったんじゃないかと。
だけど私は別の事を考えていた。いや、もしかしたら……
「あの、エレノアさん。冒険者ギルドで品物だけを届けるみたいな依頼はやってますか?」
「ええ、もちろん。そういうのは信頼度の高い冒険者に割り振られてますよ。あ、キューちゃんには頼んでないわね。信頼度も溜まったし、時々はいいかもね」
やっぱり。という事はハワード夫妻は荷物だけ別で王都に送ったのだろう。お目当ての荷物がないとなれば生き残る確率が高いと思ったのかもしれない。
「となれば王都の冒険者ギルドだな。恐らくは受け取り不可の荷物の中にあるんだろう」
ガタン、と窓の方から音がした。そっちを見るとゲーブルが居てニヤリと笑っていた。
「いい事を聞かせてもらった。王都の冒険者ギルドが。それは盲点だったな。我らの方が身軽だからな。王都に向かわせてもらう!」
そう言うとゲーブルは消えた。エレノアさんはにっこりとした顔で私を見た。
「キューちゃん? ちょおっと、お願いがあるんだけどねえ」
あー、まあだいたい分かります。それで王都に運ぶのは誰にしますか?
「ビリー君とリリィちゃん、それから護衛でグスタフね」
「分かりました。エレノアさんは行かないんですか?」
「ああ、ええ、王都はちょっと、ね」
あからさまに目を逸らすが何かあったのだろうか。ともかく、短距離転移を繰り返して王都に跳ぶ事にしよう。一回の転移の距離が延びているので割と早く着きそうではある。
「じゃあ行きますね。手を離さないでください」
ビリー君がリリィちゃんと手を繋いで、私とも手を繋ぎ、グスタフさんが反対側の手を握る。グスタフさんの手は大きい。男の人の手って感じだ。私の好みはもっとスラッとしたエドワード様みたいな手だけど。最近はインクにまみれて来たみたいだけどね。