明度(episode52)
メイド服は私のフェイバリットです。
しばらく瞑想生活してて、これはダメだと気付いた。いや、もっと早くに気付けって話ではあるのですけど。そう、なんというか魔力は増強されるのに体力がゴリゴリ削れていく感覚と言いましょうか。健全なる精神は健全なる肉体に宿ったらいいなあって話ですけど、健全なる魔力は健全なる肉体で保持するのがいいと思われます。
ということで、仕事復帰です。パチンコ屋に帰ってきました。ソロモンよ、私は帰ってきた! ちなみにソロモンは職場近くの喫茶店の名前です。チョコパフェが美味しい。至高だよね。この世界に来て良かったぁ。
お店に入るとオーナーから「まだゆっくりしてていいんだぞ? なんなら辞めたっていい」なんてお言葉をいただきました。私、邪魔ですか?
なんでもこのパチンコ屋のお仕事ってのは肉体労働の底辺職らしくて、行き場がなくなって仕方なくって人が多いみたいです。あの、私、異世界から来て何も問われずに働けたのってそういう事情なんですかね?
じゃあ凪沙はどうかって言うと、高校の学費をオーナーが出してくれたらしくて、その恩義に酬いたいと。あ、あと、タケルがよく顔を出しに来るのも大事な要素らしい。
タケルって仕事何してんのかって言ったらデイトレードとかいうパソコンに向かってなんかやってる感じなんだよね。その他にも個人で輸入業者みたいなのやってんだって。転売? それはやってないみたい。むしろ転売ヤー滅ぶべし、慈悲は無いとか言ってたから嫌いじゃないかな?
そのタケルは家に帰る頻度よりもオーナーである源三さんのパチンコ屋に顔を出すことが多いんだって。理由はパチンコ屋の裏のモニターとかの保守点検をしてるのがタケルだから。来たらオーナーが凪沙を呼んで調整室で二人きりにさせてるみたい。いや、あの二人には逆効果じゃないかな?
ともかく、来たからにはしっかり働いておちんぎんをゲットしなければ。欲しいのぉ、おちんぎん、いっぱいいっぱい出して欲しいのぉ。いや、実際はそこまで無駄遣いもしてないし、当分は何とかなりそうなんだけど。
ホールに出ると常連さんたちが声かけてくれる。生きとったんかい、ワレェみたいな人もいれば、入院してたのかとか心配してくれる人もいる。心配してくれてんのはアケミさんだ。
「暫く会えなかったから寂しかったあ。ねぇねぇ、病気とかしてない?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
アケミさんはパチンコそっちのけで抱き締めてくる。お触りは厳禁ですよ。おっぱいの間に一万円札突っ込まないでください! それは厳禁じゃなくて現金。イントネーション違うじゃないですか!
「いやぁ、しばらくこの辺に伽藍堂の集団が来てたからさ、なんか危ない事に巻き込まれてないか心配してたんだよね」
なお、アケミさんはお陰様で大忙しだったんだそう。身体が持たないからやっとゆっくり出来るって言ってた。割とアケミさんは売れっ子らしい。まあ私や凪沙程じゃないけどおっぱい大きいしね。
「アケミさん、ティアにちょっかい出さないでください」
「あら、凪沙ちゃん。ティアちゃんの保護者みたいね。ティアちゃんにかまけてタケル君持っていかれないようにね」
「なっ!?」
アケミさんには凪沙がタケルの事が好きなのバレてる。タケルが来ると視線がそっちに行くからわかりやすいんだってさ。まあアケミさんには「旦那」が居るし、私はタケルみたいなのは好みじゃないってのは共有してるので恋敵にはなりそうにないんだけど。
「タケルも大きくなったよねえ。味見してもいい?」
「ダメです!」
アケミさんの「旦那」は地元ヤクザの人間らしい。いや、詳しい事は知らないけど、ヤクザって暴力装置だから伽藍堂の人間って思われるらしいけど、実態はもっとえげつないらしい。清秋谷といたちごっこやってるみたいに言ってた。海外からの勢力もちらほら見られるのでなかなか商売は難しいと聞く。
「ねぇねぇ、二人とも。ちょっとお願いがあるんだけど」
アケミさんからそんな声をかけられたのはその日の時間潰しを終えたアケミさんが景品を交換して帰る時だった。カウンターには私と凪沙。
「なんですか?」
「いや、実はね。私のお世話になった姉さんが独立して店やるらしいんだけど、なんか、当日に人が足りなくなったんだって」
その姉さんとやらが始めるのはメイド喫茶らしい。元々コスプレという趣味がある人でメイド好きが高じて自分で店を出すことにしたらしい。アケミさんと同じ職場だからそれこそそういう仕事なんだけど、なんでもメイドは精神的な奉仕をうんぬんかんぬんみたいに説明されたと。
いや、分からなくもないよ。私だって元は貴族の娘だからね。メイドにも傅かれていたともさ。いや、あまり傅かれてなかったかも?
それで、メイドにしようと誘っていた娘が男と逃げたんだとか。なんか借金があったとかで必死に行方を追ってるらしい。いつ王大人状態になるか分からないからその姉さんは手をひいたらしい。
「でね、ちょっと次の子が間に合わないから二人にお願いしたいんだけど」
「お断りします!」
私は面白そうだからいいんだけど、凪沙は嫌なようだ。顔が真っ赤になってる。
「ええー、じゃあしょうがないな。タケル君にはダメだったって言っておくよ」
「えっ、タケル!? どういうことですか!?」
アケミさんは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「最初はね、タケル君に伝手がないかって聞いてみたのよ。そしたら来月で良ければ用意できるって言われたのよね。なんでも今月いっぱいで閉店する店があるとかで」
「そ、それで?」
「じゃあその間だけでも誰か居ない?って聞いたらぽつりと「凪沙なら似合うんだろうなあ」って無意識のうちに言っちゃったみたいなのよね」
「〜〜〜〜〜?〜〜〜〜〜!?」
凪沙の顔が百面相してる。こりゃあ陥落したな。
「どうかな、凪沙ちゃん?」
「わ、わ、わかりました。仕方ありません。アケミさんにはお世話になってますから」
うん、凪沙がやるって決めたなら私も協力してあげるよ。メイド服にも興味あるし。