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第五十一話 噂話

ドロレスの愛称はロリであって、ロリータは指小形(小さいとか可愛いとかの意味)なんですけど、お婆ちゃんになれば小さくなるからいいかなって。

 エレノアさんが女神様の関与を疑ったのには理由があって、過去、この世界ではそういう不思議な現象が起きたらしい。それで説明のつかない現象が起こった時は「女神様が関与された」と言ってるらしい。それでいいのか。


 いや、八洲でも「祟りじゃー」とか言ってたババアが本当に存在したらしいからいいのだろう。陰陽寮とか昔の八洲にもあったって言うし。なんだよ、物忌って、縁起が悪いとかで仕事休める制度とか最高だよね。私らの任務には適用されなさそうだけど。


「エレノアさん、女神様多分何も考えてないと思うよ」

「えっ? 女神様なのよ? そんな訳ないじゃない?」


 実物見てる私としては異を唱えたいところだけど、そんな事は言えないしね。まあエレノアさんには私の身分はさっきのカバーストーリー通り(商家の娘で意に沿わぬ結婚を勧められて)って事にしといて貰った。


 あ、ベルちゃんさんには話してもいいけど、ベルちゃんさんの場合はそのままギルドマスターに伝わっちゃうかもだもんなあ。


 そのままエレノアさんとアリュアスさんに伴われて代官屋敷を辞した。どうやら教団の影はないらしいという事になって一安心という訳だ。


 確かにあんなテロリスト集団が近くに居たら安心して暮らせないよね。まあこれで暫くは平和に暮らせる、そう思って囀る小鳥亭にエレノアさんとビリー君、リリィちゃんを誘って食べに行きました。ベルちゃんさんは家で食べるって。まあ確かにそれも魅力的な話だけど。


 ビリー君とリリィちゃんには親が居ないから親の事を思い出しちゃうかもしれないみたいに配慮したんだよね。詳しい話は知らないけど、兄妹の父親は商人をしていたらしい。兄が未だ小さい頃だからリリィちゃんなんて生まれたばかりとかだろう。


 で、商売で失敗して逃げたのか、それとも仕入れの途中で襲われたのか、帰って来なくなり、番頭さんに店から追い出されたんだとか。いや、それって番頭が怪しくない?


 エレノアさんは「良くあることよ」と達観していた。エレノアさんにも色々あったんだろうなとは思う。過去のことを聞いても「いい女には秘密がつきものなのよ」ってはぐらかされるし。


 酔っ払った勢いでビリー君の家だった店を見に行こうということになった。なんでそんな話題になったか分からないけど、冒険者ギルドで仕事してる以上、後から文句言われても困るって事で一言言うためかもしれない。本当の目的はビリー君を奮起させて負けるもんかって思わせる事かな?


 私たちがその場所に行くと店はなかった。いや、店の形自体はあるんだけど、営業をしていなかった。店休日、という訳でも無さそうだ。何しろ品物がひとつも並べられてないし、人の気配すらしない。


「おやまあ、ビリーちゃんかい?」


 そこに通りがかった老婆がビリー君の名前を呼んだ。ビリー君はびっくりした顔をしている。


「ドロレス婆ちゃん!」

「ロリータとお呼び。今何やってんだい?」

「今はね、冒険者ギルドで働いてるんだ。まだ見習いだけどな」

「そうかいそうかい。ちっちゃいのはリリィちゃんだね。あの頃は生まれたばかりだったから私の事は覚えてないだろうねえ」


 リリィちゃんは困惑した顔でこくんと頷いた。ビリー君はリリィちゃんにお婆ちゃんの事を説明し始めた。私らもそれに便乗する。


 ドロレス婆ちゃん、自称ロリータさんはビリー君の実家のお店の常連さんだった。ビリー君のお店は食料品などを商ってるところで、特に果物の種類が豊富だったそうな。


 で、ある時、珍しい果物を手に入れてそれを国王様に献上しようと王都に向かう途中で行方不明になったそうな。それで、王城では国王様に献上するのが惜しくなって持ち逃げしたんだろうと断定。残った番頭さんに違約金を請求したんだそうな。


 そこまで聞いてああ、そりゃあ追い出したくもなるよなあ。公的に持ち逃げをしたと思われている店主の忘れ形見が居たら目をつけられるかもしれない。捨てておけば店主が回収しに来るかもしれないとまでは思ってないかもしれないが、後のことは知らんと。


 で、番頭は必死で店を立て直そうとしたみたいだが、国王様の不興を買った店がやっていけるわけもなく、そのまま逃げる様に何処かに行ってしまったんだそう。


「私はね、お前たちの両親がお前を置いて何処かに行くというのが考えられなくてね」


 お婆ちゃんは言った。二人とも子煩悩で可愛がっていたと。王都に行く時も連れて行きたがっていたが、まだ乳児のリリィちゃんが王城でぐずったら首が飛んでしまうかもしれないと、乳母に任せて二人で王都に向かったんだそうな。


 乳母は何をしていたのかというと、単に雇われだったので給料が払われなくなったら来なくなったとそれだけだった。


 番頭さんは店を立て直すのに奔走していてかなり危ない橋も渡っていたと聞くが、本当のところは分からないらしい。まあお婆ちゃんの知恵袋ならぬ、街の噂話程度だからね。信ぴょう性なんて皆無だよ。


「最後の方には何か黒づくめの男たちが出入りしてたって噂もあるしねえ」


 あの、黒づくめの男たちってもしかして教団とかいうやつ? いやー、なんでこんなところで繋がってきちゃうの?


 ほら、エレノアさんも厳しい顔をしている。あ、ニコッと笑顔になった。目が笑ってないからいつもの氷の微笑だ。


「ドロレス様」

「ロリータだよ」

「……ロリータ様、あの、その黒づくめの男たちというのをもう少し詳しく」

「もう少しって言ってもねえ。あれは確か番頭が夜逃げする前日とかじゃなかったかねえ。数人の男が入って行ったんだよ。でもその後に買い物してたんだけど店の中では見かけなかったからこりゃあ怪しい宗教にでも縋ってたのかと思ってね。あの時分は番頭さんも何にでも縋りたいとか言ってたから」


 まあ気持ちは分かる。溺れるものは藁にもすがるのだ。


「これで、これで助かる!って言ってたから持ち直すかなと思ってたんだけどね。それで翌週に買い物に行ったらもぬけの殻だよ。やっぱりダメだったのかねえってみんなで言ってたよ」

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