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出立(episode1)

異世界→現代社会

なお、現代社会の方は令和の日本とは少し違います。

 もう後戻りは出来ない。実家のブルム家を追い出されるように逃げ出した私、ティア・ブルムは冒険者になる為の試練の洞窟に挑んだ。そこまでは普通の冒険者としてありふれたというか特別な事情でもない限りは一般的な話。


「あれ? こんな所に穴が? なんで?」


 その試練の洞窟に何故か横穴を見つけてしまい、持ち前の好奇心で首を文字通り突っ込んだのがいけなかったんだろうか? 私は意識を失い、落下に伴う浮遊感を覚えながら、天国に行くのってこんな感じかな。私死んじゃったんだななんて思ってた。


「ううっ、なんだろう。水の音? どこ、ここ?」


 気が付くと川の流れる音が聞こえる。どうやら川べりの様だが、何故か下に掘り下げられてる感じで少し上にまた平たい場所がある。私の上には橋が架けられている。石の橋だ。こんな高い場所に橋を架けて、落ちたらどうするのだろう。


「ええと、なんか思ったよりも明るいけど森の中ではなさそうね」


 ふと辺りを見ると、暗い闇の様なものは少なく、遠くの方には何やらきらびやかなあかりが点いている。ここは一体どこなのだろうか? 先ずは自分の持ち物を調べる。気持ちを落ち着かせる為でもある。


「とりあえず現状を整理しましょう」


 カバンに入ってるのは松明、、魔法具のランタン干し肉、ピッケル、マント、あと着替えである。カバンは容量増加のついてるマジックバック。実家から出てくる時に持って来た。あとは宝石がいくつか。当分はこれを換金して暮らすしかない。一体ここはどの辺なのだろうか? 見たこともない景色だ。


「暗いからよく分からない。明日になればギルドから捜索が来るかもしれないし」


 ともかく動くのは明るくなってからだから、と思い直し、そういえばお腹が空いていた事を思い出す。川があるから魚でも捕って食べようと思うものの、釣りの心得はない。とりあえず今夜は干し肉を齧って空腹を紛らわせようと思った。


「ううっ、お腹空いたよう。釣りも覚えればよかった」


 翌朝、朝の空気が頬を揺さぶる。起きると何か地鳴りの様な音がする。聞こえてくるのは橋の上からだ。馬車でも走ってるにしては音が大きすぎるし、台数も多そうだ。


「ふぁあ、なんだろ、この音?」


 私は持ち前の好奇心を発揮して、橋の上を確認する事にした。坂になってる所を上がると、硬くて唸りを上げて走るモンスターがそこには幾頭も居た。もしかしてここはこのモンスターの巣なのだろうか?


「な、なによ、これ!? ここはなんなの? それより、あれは、人!? いけない!」


 よく見るとモンスターの中には人が閉じ込められている。私は無我夢中で魔法を放とうとする。出て来たのはポンという音と申し分程度の炎。いや、火種。そう、私が実家であるブルム家を追い出された原因はこの魔法の才能のなさだ。


「あはは、そうだよね。私の魔法なんてこんなものだよね」


 火門は種火、水門は飲料水と中級までの回復、木門はそよ風、金門は簡単な身体強化と武器強化、土門は落とし穴程度。およそ貴族としては失格レベルのものしかない。水門の回復は伸びる可能性があるとは言って貰えたが。


「はあ、修道院に行って回復術師になった方が良かったかなあ」


 正確には追い出される前に自分から逃げてきたんだけど。だってこのままだと金持ち貴族の十何番目の後妻にされそうだったし。それでも剣術なども不得手なのに、冒険者になるのは無謀だったのかもしれない。でも、世界を見たかったのだ。


「こんなことしていられない。とりあえず周りを探索しよう」


 なるべく気配を消して移動を開始する。気配を消せるのは数少ない特技の一つだ。もっとも、家で視界に入らないように人の視線を避けていて身に着いたものなんだけど。


「それにしても、硬い地面だわ」


 足元の地面が石のようなもので固められているのに驚く。歩きづらさは今の所ない。歩き過ぎると疲れるかもと思って木靴でなくて革靴にして正解だった。


 しばらく歩くと建物が色々見える。何の建物なのか分からない。でも店とかそういうものでは無いと思う。少し拓けたところに出た。周りが低い石の壁で囲んであって、中には木が何本も生えている。


「ここで一休みしましょう」


 歩き疲れたからか備え付けてある椅子に座って一息ついているとお腹が空いてきた。食べ物は、見当たらない。木にも何も生えていない。もしかしたら果樹園かもと思ったのに大ハズレだ。


「あー、お腹空いたなあ。どうしよう?」


 ぼんやりと空を眺める。雲が通り過ぎていく。暇な時は一日中雲を見ていたものだ。


「オラ、こっちに来い!」

「ひぃぃ」


 そんな会話が聞こえてきた。私には大して関係ない事なんだけど、三人ぐらいの男がいかにもヒョロっとした男を連れて公園に入って来た。服装的には三人が真っ黒な着物。ヒョロ男は黄色い上着と青いズボンを履いている。


「見た事ない格好。どっちも貴族かなあ」


 なるべくなら関わりたくない、そう思いながらもそいつらから目が離せ無かった。


「金がねえなんて嘘こいてんじゃねえぞ!」

「いや、本当に、お金なんて」

「じゃあ金おろして来て寄越せ!」

「そ、そんな」


 お金をおろす、というのはよく分からないがお金を要求しているみたいだ。支払いのトラブルだろうか? こういうのは言った言わないで揉めるから第三者が仲介してあげた方がいい。上手くいけば謝礼金が貰えたりする。


「あのー、何かお困りですかね? お話し聞きますよ?」


 私は出来るだけにこやかに話し掛けた。こういう時は胸元を見せつければ効果は高い。栄養ある食べ物で育った貴族のおっぱいを見よ!


「そうかい? いやあ。実は暇なんで遊びに行こうかと思っててな、その金を徴収するところだったんだよ」


 男の一人、恐らくリーダー格の一際大きい男性がニヤニヤしながら話しかけてきた。なるべく友好的に。友好的に。いざとなったら実家の名前を……いや出したら連れ戻されるか。


「その方からお金を? もしかして、その方はお金を貸す職業の方でしょうか?」


 私の目がキラキラ輝く。私もお金を貸してもらえれば行動範囲が広がるかもしれない。

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