『たいへんだ~!』
“Won! Won! Won!”
『あれ・あれ?』
いつもは「優雅」で、いたって「お上品」なのに…。
“Won! Won! Won!”
『よっぽど美味しいんだな』
野良ちゃんにゴハンをあげた時のように、唸り声を上げながら食べている。
“Won! Won! Won!”
『やっぱり外人なんだ』
そう思ってしまう。
母がどこかから養子にもらってきた、『ヒマラヤン』の男の子。
(『ヒマラヤン』とは、『シャム』と『ペルシャ』のハーフ・ブリード)。
青と茶。右と左の目の色が違う“オッズ・アイ”
(なんでも、かの有名な英雄「アレキサンダー大王」もそうだったそうな)。
通った鼻筋と両耳の先あたりに茶の混じった、白いフサフサの毛。
ムクムクしているので、名前は「ムクちゃん」。
“Won! Won! Won!”
『なるほど! やっぱり外国人だから、肉食なんだ』
父が間違えて買ってきた、肉系の“ドッグ・フード”。試しに食卓に出してみれば、先の状態とあいなった次第。
なんでも「ネコはサカナ」という図式は、日本特有のものだそうだ。まあ「日本固有」という事もないのだろうが、もともと「魚食」主体だった日本の食文化。そんな環境の中で代々育ってきた日本のネコちゃんたちだから、「おサカナくわえた野良猫」となるんだそうだ。
(ゆえに、「肉食」文明のネコちゃんたちは、魚に見向きもしないらしい)。
“Won! Won! Won!”
『おっとり「草食系」だとばかり思っていたのに…』
男なので、そこそこの図体だが…
(もっとも、その毛量のボリュームで、ふた回りくらい大きく見えるが…シャワーしてやったりすると、情けないくらいに細くなるので、体重もさほどではない)。
膝の上に載ってきては、手慣れた仕草でクルリと丸くなる。いたって「甘え上手」なところなど、まさに「愛玩動物」。
(この表現には、ちょっと抵抗がありますが…)。
なにしろ、こんな事があった。
ある日の晩。
『たいへんだ~!』と言わんばかりに、みながくつろぐ居間に飛び込んできた「ムクちゃん」。
『たいへんだ~!』
玄関を入ってすぐの、ほとんど物置と化していた和室とリビングを往復しては、何かを訴えかけているようだ。
「どうしたの?」
着いて行ってみると…
『すっかり野生を忘れてる!』
チョコンと、赤い目の小さな家ネズミが一匹。その存在を、さかんにアピールしていたようだ。
「イヌは番人・ネコは狩人」
太古の昔から、そんな役目を担って、人類と共存してきた犬猫たち。
(特に伝染病の予防のために、戦後、かの「北里柴三郎」先生も、家庭でネコを飼う事を奨励なさった)。
かつて、もっと「ネズミ」の被害が多かった頃は、「賄い」をつけてでも、「用心棒」のニャンコ先生のお世話になったわけだ。
(ロシアの「エルミタージュ美術館」は、今でも夜間、ネズミ被害防止のため、ネコを放し飼いにしていると言う)。
犬が臭いをつけて回るなんて、天敵がいなくなった状況下で、飼い慣らされてしまった証拠なのだろうが…それにひきかえネコは、ちゃんとトイレの穴を掘る。
(犬の“マーキング”の反対で、「臭い消し」のためなのだろう。野生界では、臭いを放つなんて、敵に自分の存在を気取られ不利になるのは明白だ)。
誰に教わるでもなく、そんな行動をとるネコちゃんたち。
『きっとそういうプログラムが、本能に組み込まれてるんだろう』と、ボクはずっと思ってたのだけど…
『たいへんだ~!』
自分で、どうこうしようという気は、まったく無いようだ。でも…
『まあいいか』
なにしろ、ネコのもうひとつの仕事は…
(最近では、こちらの方が重要なのですが)。
「可愛がられること」なのだから…。
そんな「ムク毛のニャン」だったが、やっぱり男の子。年頃になった秋口に、旅に出たきりになってしまった。
フケたネコのオスが「家出」同然になる事は、よく知られた事だが…たとえば「お猿」。成長すると、メスは群れに残るが、オスは出て行く『母系社会』なんだそうだ。
(「チンパンジー」と近縁の『人類』も、「もともとは、そうだったろう」という説があり…それが、「(実は高貴な生まれの)流れ者が、虐げられていた民の娘と恋に落ち、やがて皆を率いて、圧政を強いていた独裁者を打ち倒す」といった「英雄譚」…古くは『アーサー王伝説』や、近々では『スターウォーズ』などの原型なんだそうだ)。
もしかするとそれは案外、人間界でよく耳にする「お父さんのパンツといっしょに洗濯しないで!」などといった事が、真の原因かも?。
(もちろん、何事にも、例外はあるだろうが…きっと「近親相姦」防止のため、これも本能に書きこまれているのだろう)。
だから、「外婚」を信奉する女性が、意外とたくさん存在するのだろう。
(これに関しては、遺伝子に組み込まれた本能「血が濃くなりすぎて、エラーが出るのを防ぐ」といった事にも、起因しているのだろうと思っている)。
親の『子離れ』については、「ライオンは、我が子を崖から突き落とす」とまではいかないものの、「それ的光景」を目撃した事がありますが…それはまた、別の機会に。