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『ボクはネコ科の男』  作者: 髙山志行
4/8

『火伏せ』のおまじない

「火遊びすると、オネショする」


 そんな「ことわざ」というか、「言い伝え」というか…子供の頃、大人たちから、そんな風に言われた事がないですか?

 もちろん、ここで言う「火遊び」とは、火を使った子供の悪戯(イタズラ)の事。子供だけでの花火や爆竹遊び。タバコを吹かしては、大人に見つかって怒られたり。


(小学生の頃は、タバコは「吹かす物」。「吸う物」だなんて、思いもつかなかったけど)。


 そんな「悪さ」をしないようにとの、「(いまし)め」の言葉だと思っていたのですが…。


 仕事からの帰り道。ボクは車を走らせていた。我が家が近づくと、あたりは大渋滞だ。

 ボクの家は街中にあり、夕方のこの時間、多少の(とどこお)りはいつもの事。でも今日は、並の混雑ではない。列を作った車の群れは、遅々として進まない。

『事故でもあったのかな?』

 たまにはある事だ。でも…なんだか嫌な予感がする。


 ボクの家は、この界隈(かいわい)では「呪われた交差点」として悪名高い、いわくつきの四つ角に建っている。

 昔から交通事故が多く、ここで命を落とした人も数人にのぼる。そんな時、我が家の二階は、絶好の見物場所となるのだが…


…夕方の夕暮れ時。あお向けに倒れた、近所の駄菓子屋のオジサン。

(店はオバサンが切り盛りしていたので、まったく面識は無かったけど)。

 頭部から側溝に向かって、黒い物が流れていた。


…真冬の早朝。あたりはまだ、真っ暗だった。道路一面に散乱した新聞紙。道のまん中に横たわる、人影とバイク。

 (道路を横切ろうとした新聞配達員さんが、両側の車に次々とはねられたのだ)。


…時刻は、ちょうどお昼どき。向かいの花屋さんで花を買った女性が、こちら側の会社で働く恋人に会いに来ようとしたらしい。道ばたで、その女性を抱え、流れる血を懸命に拭き取っている男性の姿。赤く染まったティッシュの束が痛々しい。

(あの時は、なかなか救急車が来なかった。飛び散った花束が物悲しかった)。


 ボクがそんな光景を目撃した幼少の頃。

 ここは、西の方から来た道が突き当たるT字路。そして、徒歩で五分ほど南にある国鉄駅をかすめ、南北に伸びているこの道は、旧「奥州街道」…もともとの「国道4号線」だ。


(昭和3~40年代。『高度経済成長期』まっただ中の頃。「国道四号線」は、その事故の多さに、各地で「国道死号線」と呼ばれていた)。


 だいたい、この道からして曲者(くせもの)だ。

 旧「奥州街道」は、このすぐ北で右に()れるのだが…今では、それと気づかないほどマイナーな道になってしまった。

 そこを右に行かず、まっすぐ進んだ数キロの区間。事故・火事・強盗・殺人・放火と、いろいろな事があった。


(特に、その先。かつて大昔の頃、処刑場があり、「首塚」があったとされる某小学校付近は、片側二車線・見通しの良い道なのに、やはり事故多発地帯で有名だ)。


 我が家から見下ろすT字路の東の先には、変則的な小道が続き、「東北本線」を越えていた。

 そこには、駅が近いため、待ち時間が長い事で有名な「開かずの踏切」と、歩行者用横断陸橋…通称「チョンチョン橋」があった。


(今では、線路のコチラとアチラをつなぐ、広い地下道となっており…街の東西を結ぶ主要な幹線道路のひとつとして、交通量も一段と増えた。朝晩の通勤時間帯など、市内でも有数の渋滞区間となる)。


 地下道が開通して以来、死亡事故こそ減ったものの、あいかわらず事故が後を絶たない。かつて「お(はら)い」をしてもらった事もあるそうだが、効験(こうげん)の方は…?


(ボクが知る限り、地下道になってから、ここでは二件の死亡事故があった。地下道に沿って設けられた、狭くて急な「自転車通行帯」。そこで、自転車のオバサンが転倒した末、亡くなったそうだ。この「自転車通行帯」も、いわくつきだ。地下道の「落成式典」の時、フト誰かが言ったそうだ。「自転車はどこを通るんだ?」と。そこで急造で作られた物らしい。車道の両側に沿って、パイプのガードレールで仕切られた「自転車通行帯」。左折でここに入ると、いきなり現れる。他県ナンバーの大型観光バスが、曲り切れずに立ち往生。「切り返し」をしている姿を目にする事は、多々ある事だ)。


 たしかに、道路の構造自体にも原因があるだろう。

 地下道を上り切った交差点は、山の頂点をなす格好になり、東西の見通しは極めて悪い。


(それに、できたての頃は、二車線で地下道を上って行ったのに、交差点を過ぎると、何の表示もないまま一車線になっている…などという、お粗末なものだった)。


 でも、それだけではない。ここに住んでいるボクは、よく知っているのだが…ここでは、故障車の数も、異様に多いのだ。それも決まって、北からやって来た車に限って…。


…夜。オーバーヒートで、ボクの家に水をもらいに来た夫婦。

…日中。ウォーターポンプが壊れて、車屋さんまでの道順を教えてあげた、出張中の営業マン。

…朝。赤信号で止まると同時にエンストしてしまい、歩道でキックを繰り返すライダー。


 この近辺で、レッカーで運ばれて行った車は数知れず…。今どきの車が、そんなに壊れるものだろうか?


(だからボクは、一度名のある霊能者の方にでも、この交差点を見てもらいたいと思っているわけだ)。


「ふう~」


 多少の渋滞には慣れっこになっているボクだが、ため息が漏れる。今日の渋滞は尋常じゃない。すでに「薄暗い」を通り越していた。


『どうしたんだろ?』


 なんだかイヤな予感がする。やがて遠くの方に、回転する赤色灯が見えてくる。


『?』


 家が近づくにつれ、胸騒ぎが高まる。こちらの方角からでは、建ち並ぶ家々の陰になって、ボクの住居は見えないが…ボクの家がある四つ角で、たくさんの赤色灯が回転し、物々しい雰囲気だ。


『火事だ!』


 薄明かりに浮かび上がる、数台の赤い消防車と、大勢の銀色の耐火服を着た消防士。あたりは一面、水びたし。すべてが済んだ後だった。


「…」


 湧き上がる絶望感に、声も出ない。すべては、灰塵(かいじん)に帰してしまったのだ。でもそこで…


『ん?』


 目が覚める。


『よかった。夢か』


 ホッと安堵の溜息。そんな夢を、度々見る時期があった。趣味で公募など、物を書き始めた頃だ。


「お金で買えるものは、また買い直せばいい」


 でも、たとえば写真だ。カメラやフィルムは、いくらでも買う事ができる。


(骨董的価値があるという物なら、話はまた別だが)。


 しかし、思い出深い写真は、一度喪失してしまったら、二度とは戻ってこない。


(ボクの友人は、「一人暮し」を始めた時、母親にこう言われたそうだ。(いわ)く、「泥棒は金目の物しか持っていかないが、火事は全部もっていく。火にだけは用心しろ」と)。


 書いた物も同様だ。失ってしまった物を再生するには、非常な困難が伴う。


(一定の書式に(のっと)った、記事や報告書の(たぐ)いならいざ知らず…その時、心の中から湧き出たものは『一期一会』。その時限りのもの。後で再現するとなると、たとえ原稿用紙一枚にしたって、一語一句まで正確に復元するのは不可能に近い)。


 そういった「(個人的)知的所有物」がたまるにつれ、心の中に、大きな不安が芽生えていった。あの頃は、本気で耐火金庫を買おうかと考えていたものだ。


 きっと、『予知』や『予知夢』といったものは、「想像力豊か」で「心配症」な人なら、当たる確率は高いだろう。


(あくまで、確率の問題なのかもしれない。事故に遭う夢や、誰かが亡くなる夢を見ても、ハズレた回数の方が、はるかに多いのだから…)。


 また、実生活や仕事の場においても、「リスク・マネージメント」や「危険予知(KY)」などといった言葉があるように、あらかじめ悪い事態を想定して、事前に対処する心構えが大切だ。

 もっとも、平穏無事な暮らしを送っていると、なかなか実感が湧かないのも確かだ。だが、しかし…


 草木が花を開き、新年度がスタートする四月の初旬。

 ボクは夜中に目を()ました。したたかに酔っている。週末の昨晩は、歓・送迎会があったのだ。


 ボクの住居は、建坪30坪ほどの二階建ての家。

 かつては、祖父母・親兄弟と住んでいた家だ。祖父母は、もうずいぶん前に他界し、親兄弟も、現在は別の場所に住んでいる。

 ボクの年齢とほぼ同じ築年数だから、けっこう古い建物だ。数年前、外壁だけサイディングし直し、昨年、同じ敷地内にあった古い木造倉庫を取り壊し…


(と言っても、商売を営んでいた祖父が、廃材利用で造り上げた「掘っ立て小屋」みたいな代物だったけど)。


 現在そこは、更地(さらち)になっている。


(これが、後に幸いする事になるのだが…)。


 その二階。東西にふた部屋ある東側の部屋を、寝室として使っていた。


「ウイ~、ヒック!」


 夜中に尿意を(もよお)したボクは、まだ酔いが残った頭で、フラフラと部屋を出る。

 階段の電灯をつけようと、踊り場に踏み出すと…


「ビチャ!」


 足裏に、液体の感触が…。


『ん~。なんだ~、コレ?』


 明かりをつけると、踊り場は一面水びたし。階段最上段まで、たれ落ちている。

 それに、ただの水ではないようだ。ちょっとベタついており、オシッコみたいな感触だ。


(むしろ、まったく「水気(みずけ)」の無い場所。そちらの方だと解釈した方が、納得がいく)。


 でも、酔ってはいたが、ボクがやったなどという事は、断じてない。ボクは、これからトイレに向かおうとしていたのだから。


(それにボクは、いくら飲んでも、記憶をなくすようなタイプの人間ではない。憶えていない時は、寝ている時だ)。


『ミーコかな?』


 ボクには、同居人が一人。実年齢15歳になる、三毛のメス・ネコがいた。


(人間年齢に換算すればもういい年のはずだが、まだまだシャンとしていた)。


「ニヒルでアナーキーなナルシスト」を自認するボクには、他人に()びない、勝手気ままな「自由人」の方が、相性が好いのだ。


『まあいいや』


 夜の夜中だ。それに酔っている。はっきり言って、その場で始末するなど、面倒臭かった。ボクはそのまま、ほったらかしで用を済ませ、再びベッドに入った。

 でもそれが錯覚でない証拠に、翌朝も、生乾きのまま、ちゃんと残っていた。

 その日は休みだったが、ちょっとした用事があり、人との待ち合わせの時間も迫っていたので、そのまま早くに家を出た。

 そして、夜半に帰宅する頃には、すっかり乾いていたのだ。


(でも、後で思えば、拭き取らずに、そのまま自然乾燥させたのが良かったのだろう)。


 その翌朝の事だった。


「ガラ・ガラ・ガラ…」


 外が、朝から騒々しい。


「ガラ・ガラ・ガッシャン!」


 ダンプの荷台から、大きな玉砂利でも下ろしているような音だ。


「ガラ・ガラ・ガラ…」


 家の前の道路は、一日中往来が激しい。道路工事や夜間工事も、たまにはある事だ。多少の(やかま)しさには、慣れっこになっていた。でも…


『朝っぱらから、何だよ?』


 明るくはなっていたが、でも、まだ7時前。


(午前7時になると鳴り出す「盲導用信号機」。まだ「ピー! ピー!」「ピッポ! ピッポ!」と鳴り出す前だった…と思う)。


 そして間もなく…


「髙山さん! 髙山さん!」


 絶叫にも近い声でボクの名を呼び、激しくドアがノックされ、呼び鈴が打ち鳴らされる。隣りのおばさんの声だ。


「髙山さん! 髙山さん!」


 その激しい口調で、「ピン」ときた。


「木造家屋が焼け落ちる時は、けたたましい轟音がする」


 ボクはそんな事を…小学校の戦中派の先生から聞いたり、実際に目撃したりして…すでに知っていた。

 あわてて飛び起き、急いで階下に向かう。玄関を開けると、予想通り、東隣りのおばさんだ。


「早くしないと、クルマが燃えちゃうよ!」


 その声に(うなが)され、おもてを見ると…北側二軒先の家から、激しく火の手が上がっている。


「!」


 古い木造倉庫を壊し、更地になったこちら側は、表通りの反対側。火元の家の、裏手にあたる。そこには、ボクの自家用車が駐車してあるのだが…


「あ~あ。朝っぱらから、メンドくせー!」


 それがボクの第一声。

 せっかくの連休・二日目の朝。「恐怖」や「驚き」より、そんな思いの方が強かった。


(モーター・スポーツなんてものをやっていると、事故や大怪我など、非日常的な出来事は日常茶飯事。それに、「死亡事故」なんてものを、幾度となくまぢかで目撃しながら育ってきたボクだ。それで免疫ができてしまったせいか、多少の事では驚かない、ある意味「鈍感」な人間になってしまったのだろう)。


 出火先は、二軒北隣りの「豆腐屋」さん。


(なんでも、「油揚げ」を揚げていた鍋の油に、火が移ってしまったのだそうだ)。


 もうすでに、北隣りの手前の家にまで、火が回り始めている。


(旧市街のこのあたり、ボクの家を含め、古い木造家屋が多い。取り壊してあった納屋が残っていたら、火の手は四方八方へと広がっていただろう)。


「フウ〜!」


 ボクは溜め息を吐きながら…車を移動するため、キーを持って愛車に近づく。しかし…


『アッツ〜!』


 火炎の先端まで、まだ数メートルあったが、炎の熱気は凄まじい。後になって気づいた事だが、このとき熱に(あお)られた車体後部のプラスチック部品は、すべてケロイド状に溶けてしまった。


(車に「家財保険」は適用されない。「車両保険」に加入していなかったボクは、最低限の機能回復のみで、その車を使い続けた。さらに…「住宅ローン」を組むさいに、強制的に加入させられる「火災保険」は、アナタのためではない。ナゼなら…借金を完済するまでの「アナタの我が家」は、完全にアナタの物ではないからだ。火事によって喪失された分は、アナタの元には戻って来ない。だから…「家財保険を掛けておかなくては、手元には何も残らない」と、その後の保険請求の際、オジイチャンの頃からお世話になっていた保険屋さんの二代目が、そう教えてくれた)。


 ともかく、車をおもての道路に移動したら、次はミーコだ。


(はっきり言って、火事のあの炎を前にしたら…映画やテレビ・ドラマのように、「中に飛び込む」なんて、ぜったい無理。近づく事だって、できやしない)。


 幸い火の手は、まだ我が家まで達していない。


「ミーコ! ミーコ!」


 ボクは靴のまま家の中に駆け込んで、ミーコを探す。


(こういった場合、「現金・通帳・思い出の品々」なんかより、やっぱり当然…「世間知らずの薄情者」のボクにも、そのくらいの理性や分別は、残っていたようだ)。


 ミーコの寝場所の見当は、だいたいついている。


『きっと、あわてているだろう』


 そう思っていたのだが…


「?」


 なんと…寝室の西側の洋間。火元に一番近い、あの階段を上がった正面の部屋で…


『どうしたの?』


 そんな涼しい顔をして、外の大騒ぎもどこ吹く風。ソファの上で、平然と寝ているじゃないか。


「ミーコ! 大変だよ!」


 ボクは、ミーコを抱きかかえる。


「フギャ~!」


 ミーコは…火事より…無理矢理つれ出され、車に押し込められた事に大騒ぎ。


(かつて、ドライブが大好きで、自分から車に乗り込むネコもいた。でもミーコは、小さい頃から車に乗せてみたが、けっきょく車には馴染まなかった)。


「フギャ~!」


 声を荒げて、ミーコは御機嫌斜めだ。車外のただならぬ空気が、いっそう拍車をかける。


「イテッ!」


 抱きかかえたボクの手を振りほどこうと、ツメを立ててもがいている。さらに…


『?』


 そうこうしているうちに、運転席に座ってミーコを抱いていたボクの股間に、生暖かさが広がる。


『ゲ~! 「火攻め」の次は、「水攻め」かよ…』


 またしても、「オシッコ攻撃」。

 まわりの物々しい雰囲気もあってか、ミーコは「お漏らし」をしてしまったのだ。でも…


「仕方ね~」


 怒るわけにもいかない。

 そんな頃、消防車が続々と到着する。でも…向こうは向こうで、「水が来ない!」と叫んでいる。


「ミーちゃん、おウチ燃えちゃうかもしれないよ…」


 我が家の向こう側から、モクモクと立ち昇る黒い煙。

 状況は違うが、まさに夢の再現だ。


 しかしミーコは、やがて落ち着きを取り戻し…


『まだ眠いのよ』


 助手席の上で丸くなり、「居眠り」を決め込んでいる。

 そんなミーコの姿を見ていると、ボクも「踏ん切り」がついた。こうなったからには、「なるようにしかならない」のだ。「死の(フチ)」にいるわけでもないし…今さらあわてたって・騒いだって、仕様(しょう)がない。

 それで「冷静さ」を取り戻したボクは、あたりを見回した。


…あわただしく動き回る消防士たち。実に頼もしい。

…あふれかえる野次馬の群れ。道路の向こうまで、鈴なりだ。


(この時になって、フト時計を見る。ちょうど朝の8時頃。日曜だけど、駅に近いこのあたりでは、きっと大混雑だろう)。


…そうそう、みんな大丈夫だったんだろうか? 特に、お豆腐屋さんのご夫婦は、けっこう年配だし…。


 やがて黒煙は白い煙となり、ひとりの怪我人も出さず、火は鎮火へと向かう。

 隣りの二軒は「全焼」だった。

 でも我が家は…さすがに「無傷」というわけにはいかなかったが…ミーコの予想通り、焼けずに済んだ。


(幸い、家の北側だ。出入口も無ければ、大きな窓も少ない。大き目の窓ガラスに亀裂が入ったのと、放水で割れた小窓から水が少々入ったのと、サイディングした壁が焦げた程度で済んだ)。


『だから言ったでしょ』


 ミーコはノンキに大アクビ。


「火事」でも焼けなければ、「区画整理」にも引っ掛からない。


(最近、この『魔の交差点』に差しかかる地下道は…さらなる「渋滞緩和」のためだろう…「拡張工事」が始まった。あの火事で大きな被害の出なかった東隣り二軒は、どちらも「区画整理」に掛かった。隣りは「建て替え」。二軒先の家は、いずれ「立ち退()き」になるだろう)。


「保証金を、もらい(そこ)ねた」


 そんな「ケチくさい」ことを言う人もいるけど…これがボクの「使命」「(さだ)め」なのだろうか? 

 この土地は、つつましいが、祖父が一代で手に入れたもの。

 ボクは、お爺ちゃんからすれば初の「内孫(うちまご)」で男の子。とても可愛がられていたし、アテにもされていた。

 きっと少なくとも、両親や親戚の伯母さん連中…唯一の伯父さんは、戦時中に他界している…が健在なうちは、ボクがここを守っていかなくてはならないのだろう。

 それにボクは、たとえそれが『呪われた交差点』の角であったとしても、ここが気に入っているのだ。


 それにしても…あの前々日の晩の「謎の液体」は、いったい何だったのだろう?


「火遊びすると、オネショする」


 本当に「オシッコ」だったのだろうか?

 それに今回の場合は、「オシッコをかけると、火難を逃れる」だ。それならば、あのオシッコ…


『火()せのおまじない』


 あれは、いったい誰が?


「どうなんだよ? ミーコ」


 年を重ね、ヒゲが長くなったミーコは、すでに「悟り」の境地。

 問いかけても、(まぶた)が重そうで、何も答えてくれない。でも…「ネコは家につく」と言う。


『きっと、ミーコが守ってくれたんだ』


 ボクは、そう信じている。


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