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深宇宙に行けたら  作者: 六二三
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月が消えた日

梓月とD君は、放課後に帰り道の公園のブランコに座っていた。夕焼けに染まった赤い砂を蹴りながら思い出したように梓月が話す。

「そういえば、今日さ……」

「うん?」

「俺、変な夢を見たんだよ」

「どんな夢なの?」

「いや、それがさ。なんか、いきなりお前が居なくなってさ……」

「えっ、ああ、僕が出ると思わなくてびっくりした」

「それで俺はずっと探してたんだけど見つからなくて……」

D君はそれを聞いて朝の出来事を思い出す。

「だから朝あんなメールしてきたんだ」

「そう、そうなんだよ。なのに携帯繋がんないし」

「あー、ごめんね。充電切れてたみたいで」

「次からは気をつけてくれよ、本当にいなくなったのかと思った」

「はは、どこに行くって言うの」

「宇宙とか」

「ロケットに乗って?」

「予約いっぱいだから無理かも」

月が消えた空を見て、いつ来るか分からない地球の崩壊を想像する。地球に来る隕石を防ぐ役割を果たしていた月が無くなったことで、いつ隕石が落ちてくるか分からないそうだ。

「隕石がぶつかったらどうなんのかな、爆発?」

「真っ二つに割れるのかと思ってた」

「地球のこと卵だと思ってる?」

梓月が近くにあった小枝を拾って、砂に丸を描く。右上に石ころを置いて枝でつついて転がすと、地球に衝突した。

「地球がなくなったら宇宙に投げ出されるのかな」

D君も枝を拾って、丸の周辺に棒人間をふたつ描いた。

「最終的にはブラックホールに吸い込まれて終わるんじゃない」

梓月が大きな渦を描いて棒人間が掻き消されて行く。

「ブラックホールの中って何も無さそう」

「入れたとしても特異点に集まって点になるから何も残んないんだよ」

梓月が人差し指と親指で5ミリメートルの隙間を作って、このくらいと言って笑う。

「凄いなあ、東京タワーも仏像も…あ、ゾウも」

梓月が手放し地面に落ちた枝が、小さなクレーターを作って止まった。

「もし明日世界が終わるとしたら何したい?」

そう言いながら、D君は喋りに合わせて枝を振る。

「別に何もしたくないけど……」

「僕はやりたいことがたくさんあるから困っちゃうかも」

「例えば?」

「まず、お昼寝」

「いつもやってんじゃん」

「それからお菓子食べながらゲームしたり漫画読んだりテレビ観たり……」

「それいつもと同じだよ」

「でもきっと楽しいよ」

「…確かに。俺は貴重な時間だから普段やらないことに使いたかったけど、楽しければなんでも一緒か」

梓月が土を蹴ってブランコを漕ぐと、少し寂しい空が近くなった。

「その時は俺も誘って」

「いいの?」

「俺がこう言ってるんだから良いんだよ」

「じゃあ、どうしよう」

梓月の家には一度も行ったことがない。本人が来ないように散々言ってくるからだ。どこで待ち合わせをしようと考えていると梓月が思考を遮る。

「迎えに来てよ」

「えっ」

「どうせ集合場所とか考えてたんでしょ。もうその時には世界が滅茶苦茶だし。D君もそれでいいよね?」

「え、あ、うん……」

「よかった」

梓月は、返事を聞くと靴で砂を弾きながらブランコを止めて、笑いながら言う。

「隕石早く落ちてきたらいいね」

梓月は、ブランコから降りて目に付いた小石を蹴り飛ばすと、安全柵に当たり高い音をたてる。

「運が、良ければ」

D君は落ちるとも落ちないとも言わず、視線を落として黙り込んでしまった。

「楽しければいいって言ったじゃん」

「あ!そ、そうだね。お菓子も漫画もゲームもいっぱい買って、遊んで、喋って……そうしよう」

D君は困ったように笑いながら指を折り数える。それを見て満足したのか、梓月は今日はもう帰ろうと荷物を持って自転車に乗る。

「持久走来月からだっけ」

「うわ!嫌なこと思い出しちゃった……」

「あはは、頑張ろうね」

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