頼られるのって嬉しいけど、たまには自分も頼りたいよね
「眠い……怠い……疲れた……何にもやりたくない……帰って寝たい……」
「ロ、ロイ君……。だ、大丈夫……?」
「むしろ大丈夫に見える?」
「えっと……全然……?」
「じゃあそういう事だよ……」
結局、昨日1日でヨルハ以外の全員の身体を借りてクラウスと模擬戦をした。
最後にクラウスvsクラウスになったけど、あいつマジで化け物だろ。
僕じゃあいつの全力は引き出せない……。
流石に元の実力は勝てないみたいだ。
勿論、実際にやったら簡単には負けてやらないけどね。
「ところでロイ君。昨日もだったけど、何でこっちに居るの?」
「え?こっちだと駄目?」
「いや、駄目じゃないんだけどさ……」
現在昼休み。
今僕達がいるのは学園の生徒や教師なら誰でも格安で食事を取れる食堂、所謂学食ってやつだ。
本日のランチはパンと野菜タップリのポトフ的なスープにサラダと健康的な食事。
強いて言うなら肉が足りないかな?
「ある程度身分の高いの貴族の子達は皆あっちに行ってるよ?」
「そんなのお金の無駄じゃん。せっかく安く食べられるんだからこっちで良いんだよ」
オズが言っているのは、隣の建物にあるフルオーダー式の学食の事。
昔、一部の生徒とその親達が『こんな安物食べられない』とゴネにゴネて設立されたものだ。
一食辺り日本円に換算すると5000円〜10000円はする、贅の極みみたいな昼食を取る事が出来る。
因みにこっちは大体300円程。
そんなのこっちが良いに決まってる、味も美味しいし。
「ロイ君って不思議だよね。あんまり貴族らしくない感じがする」
「それは威厳が無いって事?」
「ち、違うよ!接し易くて、ぼく達と同じ目線で考えてくれるって事!」
「つまり平民と変わらないって事だね?」
「そんな事言ってないじゃないかー」
必死になって否定するオズを誂いながら昼食を進めていく。
「所詮、僕は運良く貴族の家に生まれただけだよ。それは実力でも何でもない。勿論、今まで努力をしてきたつもりだけど、それも貴族の家に生まれてそれが出来る環境にいただけ。僕なんかよりよっぽどオズの方が凄いし、頑張ってると思うよ」
「そ、そそ、そそそ、そんな事ないよっ。ぼくはただ、本が好きでずっと読んでただけだし……。狩りに出てたのも生活の為だったから……」
「それが凄いんだよ。僕なんかよりだったら今頃捻くれてるさ」
「今も充分捻くれてるけどね?」
「よし、オズの気持ちはよく分かった。僕と戦争したいんだな」
「ご、ごめん!冗談、冗談だってばー」
昨日の件でだいぶ打ち解けたオズはちょこちょこではあるが、こうやって僕を弄り返してくる様になった。
初めて同年代の友達が出きたから正直嬉しい。
あ、クラウスは友達だけど、あれは別。
「あんた達、急に仲良くなってない?」
「あ、ヨルハ。午前中の授業どうだった?」
「気軽に話しかけないでくれる?」
「いや、自分から話しかけてきたでしょ……」
「まぁまぁ、二人共。で、ヨルハさんどうだった?」
「そうねぇ。今はまだ基礎だからあまり収穫は無かったわね」
僕が聞いたら答えないくせに、オズが同じ事を聞いたら普通に答えてるし。
イジメだよね、これ。
「よっぽどそいつの話を聞いてる方がタメになったわ。……って気持ち悪い顔しないでくれる?」
「えぇ……。褒めてくれたじゃんか……」
「なんか勝ち誇られるとムカつくのよ」
「理不尽過ぎませんか?」
ヨルハの貴族嫌いは筋金入りみたいだな。
でも、多少会話してくれるだけマシなのか?
「オズ、午後は何する予定?」
「ぼくは武器術の授業で弓術の練習するよ。ロイ君も一緒に行く?」
「あぁー。弓術は苦手だからパスで」
「ロイ君にも苦手な物あるんだね。意外だなぁ」
「むしろ得意な事の方が少ないよ」
「ロイ君はどうするの?」
「ん〜。教室で論文の続きでも書こうかな」
「論文?あんたそんなの書いてるの?」
「あぁ、そうだよ。半分暇潰し的な感じで、素人に毛が生えた程度だけどね。興味ある?」
「べ、別に!あんたの子ども騙しの論文なんて興味無いわよ!」
ですよねー、分かってたけど一応聞いただけ。
「んじゃ、僕はそろそろ行くよ。二人共、またね」
「じゃあまた終礼で」
「…………」
挨拶も無視されるのかよ……。
マジでいい加減泣くぞ、コラ。
午後の授業の始まりを告げる鐘がなった。
僕は宣言通り、誰もいない教室で論文の続きを書いている。
因みに道具は常に持ち歩いているんだよね。
え、何処に?だって?
それは勿論、無属性中級生活魔法の一つ《異空間収納》の中だ。
略称で《魔箱》と呼ばれるから普段は僕もそう呼んでいる。
これあると身軽で楽だから、記憶が戻ってから最初に覚えようと頑張った魔法だ。
実は学園に来る時に荷物の確認をした際もこれに全部ぶち込んでいた。
閑話休題。
既に実験済みの事をひたすら紙に纏めていく。
オズとヨルハにも言ったが、本当に半分趣味だ。
ただ、やってみたい事をやって、それを形に残して《魔箱》に放り込むだけ。
既にその総数は100を越している。
日の目を浴びない我が子達は大切に保管(放置)してあげるからね。
8割ほど書き終えたところで教室の扉が開いた。
「本当に居たのね、あんた」
「あぁ、ヨルハか」
「何よ?私がここに居ちゃ悪いの?」
「いや、誰も来ないと思ってたからさ。話し相手が居てくれると嬉しいんだけどな」
「あんたみたいな奴と話す事なんて無いわよ!」
「はいはい……」
休憩がてらの声を掛けたら罵倒をされたので、論文の仕上げの作業に取り掛かる。
心が折れた訳じゃないんだからねっ!
ヨルハも何書いているのか、2人のペンを動かす音と時計の音だけが教室に響く。
このままだったら『終礼までにはこれ書き終わるなー』とか考えてたら不意に声を掛けられた。
「ちょっと、あんた。少しだけ良いかしら?」
「へ?」
予想外の出来事に僕は変な声が出てしまった。
ヨルハから話し掛けられたけど、これ、良い予感はしないんだよなぁ…………。
社畜時代に上司に話し掛けられた時と同じ胃の動きを感じながら僕は覚悟を決めて、ヨルハに向き直った。
ツンデレとウザキャラって紙一重過ぎて、加減が難しい……。
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