物語の主人公は何時だって自分だよね
本日で最終話になります。
10/10(金)注目度ランキング85位ランクインしました!
皆さんの応援のおかげです。
ありがとうございます。
街を一望出来る城で最も高い塔の頂上。
今日、私はこの街の……いや、この国の王となる。
…………いや、無理無理無理。
格好付けて自分の事を私とか言ってみたけど、鳥肌立った。
ちゃんとした場ではちゃんとするけど、普段の言葉使いは変えられないね。
お久しぶり、僕ロレミュリアだよ。
気軽にロイって呼んでね。
うん、やっぱこれだね。
では、改めて―――
この国が人が住める様になるまで6年。
そこから住民の移動や各ギルドの稼働、その他諸々の準備に1年。
計7年の月日を経て今日、この街は国になる。
これからオースタス……オズとの結婚式、そして僕の戴冠式を行い、僕は王に、オズは王妃となって、この国を導く存在になる。
え?こんな所にいて良いのかって?
皆知らないのかな?
花嫁の準備って物凄く時間が掛かるんですよ、本当に。
僕なんて一瞬でしたよ、一瞬。
でもそろそろ時間になりそうだから名残惜しいけど、僕は塔を降りる事にした。
この王城は大聖堂にもなっている。
城の扉を潜ればそこは精霊王エレナーデを象った白亜の像が一番に目に入る。
僕達はそこで結婚式を上げる。
城門の前に民衆が集まっているが、聖堂にいるのは僕達の知り合いだけだ。
この後、外に出てお披露目と戴冠式をするからまぁ結婚式くらいはね?
僕は既に壇上に上がり、新婦を待っている。
この式を取り仕切るのは本人たっての希望によりラリノア聖教国の教皇猊下だった。
精霊王の使徒の婚礼に立ち会うのはそれはそれはもう歴史に残る偉業らしく、揉めに揉めたらしいけど些細な事だ。
そして遂にその瞬間が訪れる。
聖堂の扉が開かれ、扉の向こうから純白のベールとドレスに身を包んだオズが此方に歩いてくる。
こっちでは父親がエスコートはしないらしい。
あのドレスとヴェールは旅の途中で立ち寄った集落で知り合った種族が特別に作ってくれた物だ。
光沢と透明感を保つ見るからに上質な生地は今後、この国の産業の1つになる事が既に決まっている。
オズが僕の隣に並んだのを確認し、教皇猊下が静かな、だけど不思議と聖堂に響き渡る声で僕達に問い掛ける
「ロレミュリアよ。汝はこれから先、どんな時もオースタスを妻とし、共に歩み続ける事を誓うか?」
「はい、誓います」
「オースタスよ。汝はこれから先、どんな時もロレミュリアを夫とし、共に歩み続ける事を誓うか?」
「はい、誓います」
2人の宣誓を聞き届けた教皇はゆっくりと頷き、エレナーデの像に振り返る。
「偉大なる精霊王よ。2人は今、この時に永遠の愛を誓った。2人の行く末をどうか見守って下さい」
言い切ったと同時に3人で深く礼をする。
それを以てこちらの世界での結婚式は終了となる…………筈だったのに―――
『勿論です。私の使徒であるロイ、その妻になるオズには私から祝福を―――』
まさかの本人の登場である。
精霊王の出現に僕以外(オズは僕が立たせたままにした)は一斉に平伏する。
「ねぇ、エレナーデ?君が現れるとそりゃこうなるよね?」
『あら?私はただロイとオズを祝いに来ただけだったのですが…………』
「自分がどんな存在かご存知で無い?」
『精霊王です』
「そこはわかってるのになぁ……」
「エレナーデ様。お祝いの言葉ありがとうございます」
『いえいえ、どういたしまして』
マイペースなエレナーデとオズの会話を聞いて僕は頭を抱える。
様々な視線が僕の背中に刺さるのを感じながら―――
無事……では無かったけど結婚式は終了した。
一旦僕達は衣装チェンジの為にそれぞれの控室へ戻る。
その際にエレナーデが付いてきたので、ついでに頼み事をして了承をもらった。
次はそれぞれ王と王妃としての装いに変わっている。
大聖堂の丁度真上にあるテラスに僕達は足を運んだ。
下を見ると、街の住民のみならず各国からこの日の為に足を運んだであろう数の人々が此方を見上げていた。
一度オズと頷き合って、僕は2つの魔導具を展開する。
集まった人々からどよめきが上がった。
1つは拡声の魔導具。
ここにいる全員に僕達の声を届ける為。
もう1つは映像投射の魔導具。
空に僕達の映像が映し出される様にしてあるので後方からでも見える事だろう。
1つ深呼吸をして、僕は口を開いた。
『皆、この日の為に集まってくれてありがとう。これから王になる身としてはもっと相応しい言葉を使わなければならないんだろうけど、体裁の為に自分を偽りたくないから今日もこれからも僕はこのままで話させてもらうね』
…………すみません、本当は恥ずかしいだけです。
『今日、今この時よりこの街は国になる。僕は王、隣にいるオズは王妃として、これから皆に支えてもらう事になる。でも、僕達2人は支えられているだけは苦手だから、それだけに甘んじたく無い』
ふんぞり返るだけの王様なんてごめんだ。
『形式上、僕は王だ。皆の上に立つ人間だ。でも、精霊王から見ればそんなの大して変わらない。だったら皆の上に立つ王なんて必要無いと僕は思う。僕はそんな王にはなりたくない』
民衆にどよめきが広がる。
「どういう事だ?」「だったらこの国はどうなるんだ?」そんな不安がこちらにまで聞こえてくる。
『僕は皆の前に立つ王となる。皆の先頭に立ち、皆を引っ張って進み、時に皆を守る盾となり矛となる。それが僕の目指す王の形だ!皆、僕を……僕達を支えてくれ!後ろから背を押してくれ!その期待を背負って僕達が道を切り開く!皆を守る!この宣誓を皆が聞き入れてくれた時、僕とオズは王と王妃となる!皆、付いてきてくれるか!?』
一瞬の静寂が街を包んだ。
そしてその静寂を切り裂く大歓声が街に響き渡る。
「命の限り付いていきます!」「支えます!この命に変えて!」「私の人生を捧げます!」と様々な民衆の声。
いや、皆?重いよ?
実際国に仕える人達はそんなもんなのかもしれないけど、国民皆がそうなるのは重過ぎるよ。
でも、皆は僕達の想いに応えてくれた。
後は背中で、行動で示すだけだ。
そして、僕の最後の仕込みが発動する。
『国王ロレミュリア。王妃オースタス。2人の誓いをしかと聞き届けました。精霊王エレナーデの名の下に、今、この時よりこの街は国となりました』
先程の歓声を上回る大歓声。
半分くらいは悲鳴な気もするけど気にしたら負けだよね。
『さぁ、ロレミュリアよ。この国の名を……この国を導く者が名乗る名をこの場にて宣言しなさい』
精霊王エレナーデに国を認めてもらう。
それは他のどの国の王より、帝国の皇帝に認めてもらうよりも確かな王国の誕生を意味する。
そして、その彼女に国の名を宣言する事で、彼女の庇護下に国が入るも同然となる。
エレナーデのせいで使徒なんて呼ばれてるんだから、たまにはその恩恵を賜らなきゃね。
「精霊王エレナーデに宣言する。この国は精霊王の名の下に全ての種族を別け隔て無く受け入れる国【霊王国エリアナ】。そして竜王の盟友である僕は今日よりこう名乗る。【ロレミュリア=ブランシュ=エリアナ】と!」
宣言をしたその時、民衆の1人が空に飛び上がり、光を放ってその真の姿を表した。
『光竜王リュミエブランシュは盟友ロレミュリア=ブランシュ=エリアナを心より歓迎する!』
精霊王に続き、竜王の出現で民衆のボルテージは最高潮に達している。
そしてエレナーデ。
『良いところを取られた』みたいな不満顔をするのは辞めてください。
その表情に気が付いた一部が精霊王の機嫌を損ねたと勘違いして(あながち間違ってないけど)青を通り越して白くなってるから。
…………しょうがない。
(エレナーデ。君の名を冠した国の王の宣言、認めてくれる?)
一部を強調して念話で伝えると表情が一変、慈愛に満ちたほほ笑みで口を開き―――
『霊王国エリアナ。そしてロレミュリア=ブランシュ=エリアナ。2つの名を認めます。この地に住まう皆はエリアナの民となりました。私はこの世界が滅びるその時まで、この国を見守っていますよ』
そう言って姿を消した。
歓声は消え去り、ある者は涙を流し、ある者は自ら平伏し、またある者はただただその場で祈りを捧げ続けていた。
霊王国エリアナの歴史が始まった記念すべき1日目だ。
いや、僕とオズの印象が全て1人と一匹に持ってかれた気がするのは気の所為かな?
…………何はともあれ記念すべき日だ!
僕達はこれからも歩いていく。
立場を超え、種族を超えて、手を取り合って。
『あ、そうでした。オズ、ロイの伴侶である貴女も使徒にしますので。では』
ほんっっっと、最後まで締まらないな!!
俺達の未来はこれからだエンドにするつもりでしたが、やっぱりオチは欲しいかなと言う事でこんな終わりになりました。
週一更新で始まった今作をここまでお読みいただき、ありがとうございます。
本当はロイとオズの旅とかクラスの皆のその後とかを書こうかとも思ったのですが、ダラダラ続けてまた更新が途絶えるのも嫌だったので敢えて書きませんでした。
今後、読んでみたいとの声が多かったら最終話の後に番外編として、もしくは別作品として投稿したいと考えています。
それではまた他の作品でお会いしましょう。
まっしゅ@
P.S.
ずっと更新をストップしていた【ずんぐりむっくり転移者は異世界で図太く生きる〜イケメンじゃなくても異世界で生き残れますよね?〜】を今週金曜日(10/17)から更新再開させていただきます。
良ければそちらもご覧下さい。




