自分では理解してるけど、人に教えるのは難しいよね
説明パートです。
分かりにくかったら申し訳ありません。
なんとか教室に辿り着いた頃には足の痺れも取れ、自分の足で歩く事が出来ていた。
「はーい。説明するから皆座ってー」
「何よ、偉そうに。さっき迄産まれたての子鹿みたいだったくせに」
「はーい、それは言わないお約束ですよー」
クラスメイトから笑い声が上がる。
ヨルハめ、痛い所を突いてくるなぁ。
「はいはい、お静かに。じゃあ始めるよー」
「「「では我々は補佐を―――」」」
「いらん、帰れ」
話が進まないじゃないか……。
三馬鹿め……。
「さてと……。何処から話し始めようかな」
「そんな事も考えずにそこに立ってるの?あんた馬鹿じゃない?」
「お前、平民の分際で!」
「何よ!?本当の事を言って何が悪いのよ!」
こいつら、いい加減に―――
「静かにしてよ!ロイ君が話せないじゃないか!ヨルハさんも、マルア君も!これは元々ぼくの話だ!邪魔するなら教室から出て行って!」
「ぐぬぬ……」
「わ、悪かったよ……」
おぉ、まさかオズがこんな大声で皆を嗜めるなんて……。
「ご、ごめん。でも、ロイ君はきっと大切な話を、し、してくれると思うから……。その……」
「ありがとう、オズ。お陰では話が纏まったよ」
オズがちゃんと言ってくれたから次は僕がちゃんとしなきゃだ。
「じゃあまずは、先程の装置の話からしようか。少し長くなるけど聞いておいて。さっきの部屋は知っての通り、特殊練武室。そこにあった魔道具、[仮想空間生成装置]で様々な疑似体験を命の危険無く経験する事が出来る。それで、さっきのはその内の二つの機能を使ったんだ」
「二つの機能?」
「まずは模擬戦用の機能だね。実際に痛みも衝撃もあるけど、実際には怪我をしたり、命を落としたりしない防護機能だね。ほら、僕とクラウスの手足みたいに」
そうやって僕の腕とクラウスの脚を見せる。
先程無くなっていたのが、部屋を出た直後にさも当然の様にそこにある。
「これが機能の一つ目。もう一つ、どちらかというと今回はこっちがメインだよ。それは『他者の能力を疑似体験する』という機能」
「他者の能力?疑似体験?どういう事よ」
「焦らないで、ちゃんと説明するから。さっきの事は覚えてる?まず最初、オズにしてもらった事」
「ぼく?あぁ、魔石に魔力を流した事?」
「そうそう。そして次に僕が魔石に触れて、その魔力を受け取ったんだよ」
「それでどうなるのよ?」
「簡単に言うと、僕の身体がオズになったんだよ」
ここで一呼吸置く。
過去の経験上、皆頭の上にはてなマークが付いている筈だ。
ほら、やっぱり。
「もう少し詳しく説明するよ。あの装置の魔石を通して、一度オズの魔力を読み取り、読み取った情報を僕の身体に入れたんだ」
「それで……?何が……出来るの……?」
本日初めてキリエの声を聞いた気がする。
先程まで興味なさげだったのに、いつもより少しだけ開いた目でこちらを見ながら説明を促してきた。
「それによってあの部屋の中でのみだけど、僕の身体能力・魔力量・適正属性は全てオズと一緒になる。最初に言った、『僕の身体がオズになる』んだよ、文字通りね」
「それをして何になるんだ?」
今度はバリーが質問してくる。
どっかの王子と同じで頭の中まで筋肉じゃなかったのか。
失礼な勘違いをしていた。
「僕の意識と感覚でオズの身体を動かす事が出来る。つまり、オズの身体を僕が操作しているんだよね。そして、それをする事で分かる事もある」
「ぼくには思い付かないけど、本当は出来る事…………とか?」
「そう、その通り」
オズが答えを導き出した。
流石、自称本の虫なだけはある。
まとめるとこうだ。
オズの身体をコピーした、実力的には上の僕が実際に戦闘を行う。
それによって、今まで出来なかった事や出来ないと思い込んでた事が本当は出来るかどうかの識別が可能になる。
つまり、さっきの戦闘の実力は、
『オズが今の身体や能力を十全に使えた場合の戦闘力』
となる。
クラウスの全力には程遠い状態だが、それでもあそこまで食い下がる事が出来た。
更に磨いていけば、もっと実力を伸ばせるだろう。
「で、でも、それと朝に言っていた『それは勿体ない』とどういう関係が……?」
「つまりはあれだろう?オースタスには攻撃魔法の適正が無い。それなのに攻撃魔法の勉強のは勿体ない。それよりも今の身体能力や身体強化魔法を生かした方が良い。と」
「その通りだよ、クラウス。オズ、残酷な話だけど、攻撃魔法を身に付けるのにはそれこそ学園にいる間に多くて2つか3つが限界だと思う。その為に時間を浪費するのは勿体ないと思うんだ。だから、今ある手札をより強力なものにして、それでも足りなければ手札を増やせば良い」
「ちょっと!黙って聞いてれば、それって『才能無いから辞めとけ』って事でしょ!?」
「少し違うけど、端的に言えばそうなるね」
「それは酷いんじゃない?いくらあんたが魔法を使うのが少し上手だからって、それはあんまりよ!」
そう、ヨルハの言う通り。
僕が言っている事は伝え方としては優しいものの、極めて残酷な事だ。
才能が無いから諦めろ、得意な部分を伸ばせ。と。
しかし、これを受け入れられるかどうかはオズ次第。
勿論、オズが『それでも攻撃魔法を覚えたい』と言うのであれば、それを止める気はない。
あくまで効率のみに絞った考え方だ。
「そ、そうだよね……。ぼく……魔法の才能無いもんね……。やっぱり、魔法を覚えるのは辞めておくよ…………」
「え?何で?」
「え?」
「あんたが魔法の才能無いから諦めろって言ったんでしょ!?」
「僕は魔法の才能が無いなんて言ってないよ?攻撃魔法の才能が無いって言っただけだよ?」
「あぁ、そういう事か!オースタス、俺とロイの戦いを思い出せ」
「二人の戦い…………。っ!もしかして……!」
「思い出した?」
クラウスのアドバイスでハッとした表情になるオズ。
他にもキリエとバリーは気付いていそうだ。
それ以外の者はキョトンとした顔をしている。
「クラウスとの戦いで、僕は身体強化魔法を使ったよね?しかも二重まで。つまり、今のオズでもそこまでは使える。さっきと同じ動きを再現出来るんだよ」
「だから……さっきから……“攻撃”魔法……って言ってたんだ……」
「そうだよ、キリエ。魔法は何も攻撃魔法だけじゃない。身体強化魔法や付与魔法・支援魔法に回復魔法、防御魔法と沢山あるからね。その中で自分に合った魔法を見付けて伸ばしていくのが強くなる近道だよ。それに加えて、苦手でも搦め手や補助として覚えても良い。けどそれは、今のスタイルで行き詰まった時に考えた方が良いんだ」
「なる……ほど……。ロイの話は……タメになる……」
納得してくれたキリハから目線を外し、改めてオズを見ればその瞳はやる気に満ち溢れている。
「オズは今でも二重までは使える。このままその才能を伸ばせば、更に上を目指せる筈だよ」
「う、うん!ぼく頑張るよ!」
「その意気だ。僕も出来る事は手伝うよ」
「ありがとう!ロイ君!」
こうして、僕のルームメイトの方向性が定まった。
しかし、疑問を解消するのに半日かかってしまったなぁ……。
午後からは何をしようか…………。
「ねぇ……ロイ……。ボクにも同じ事……出来る……?」
「え?出来るけど……?」
「じゃあ……ボクも……お願い……」
キリエの一言を皮切りに俺も私もと、結局ヨルハ以外、クラウスを含めた全員分の魔力を借りて、特殊練武室で模擬戦をする事になった。
こうして、僕の学園生活2日目は幕を閉じたのであった……。
つ、疲れたぁ…………。
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