学生が終わる時ってもう会えない気がするよね
卒業式は恙無く終わった。
最後にもう一度教室に戻り、僕から最後の言葉を皆に掛ける。
「最初はクラスメイトとして。2年からは教師と生徒として。3年間皆と過ごせた時間はとても楽しい時間だった。ここから先はそれぞれがそれぞれの道に進む事になる―――」
ここで過ごしている間はいつまでもこのメンバーでこの時間が続く様な気がしていたけど、それは所詮夢物語。
卒業すればそれぞれ別の道を歩む事になる。
クラウスはガザニア帝国の皇帝となる為、卒業と共に正式に皇太子となり、今後は政治活動や国家の運営に携わる。
ヨルハは何と…………そのまま学園に残って教師となる。
何でも「平民の自分でもここまで成長出来たんだ」と皆の希望になりたいらしい。
キリエはその隠密の腕を買われ、帝国の諜報部としてスカウトされたらしく、その道を極めると言う。
バリーは子爵家の当主の座を他の兄弟に譲り、剣聖クラウス様率いる騎士団への入団を希望した。
コロンは将来、自分の商会を持つ為に様々な所で修行をしていく。
僕が国を興すと伝えた際にいの一番で移住を決定したので、いずれはアルベルト=アインシュタイン作の魔導具販売の多くを委託するつもりだ。
三馬鹿は剛壁ゴルド様に半ば強制的にギルドに入れられ、扱き使われると聞いた。
頑張れ。
そして、オズはと言うと―――
「え?一緒に付いてくるの?」
「う、うん……駄目……かな?」
「駄目では無いけど…………」
いずれ国を興し僕が王になる事、僕の能力で造った部分以外が出来上がるであろう5年〜10年は旅に出る事を皆に伝えたその日の夜、「話がある」と言われて屋敷を訪れたオズから開口一番「ボクもロイ君の旅に一緒に行きたい」と言われた。
「けど…………?」
「そもそも今回僕が行くのは当ても無い旅だよ?危ない事も沢山あるだろうし、なるべく正体を明かさない様にしたいから僕の地位は使い物にならない前提なんだ」
「それは承知の上だよ。自分の身は自分で守れる様にこれまで努力したし、これからも努力する。元々平民だから地位や権力なんてそもそも縁が無かったから気にならない」
「野営とかするだろうからお風呂に何日も入れないかもしれないし、用を足すのだってその辺にしなきゃいけないかもよ?」
「なるべくロイ君に嫌われない様に水浴びとか体拭いたりするし、催した時は…………見ないでね?」
赤面しながらこちらを見てくるオズ。
そんなことされたら覗きたくなるでしょうがぁぁぁぁぁ!!…………じゃなくて。
「オズを嫌う事は無いけど、本当に楽しい事ばかりじゃないよ?色んな……知りたくない事や見たくないものまで見なきゃいけないかもしれない」
「それでも……ロイ君と一緒なら良い!」
「そっか…………。うん、やっぱり駄目だ!」
「えっ…………」
オズが泣きそうな顔になる。
「オズ、僕に付いてきてほしい。僕を支えてほしい。旅の中でも、そして…………これから先ずっ―――」
「うんっ!!」
オズに言わせるんじゃなくて僕から言わなければと決意し、自分からオズに伝えた。
言い切る前に返事されて抱き着かれて結局締まらなかったけど。
因みにオズ「付いてきてほしい」までしか耳に入っておらず、最後の言葉を改めて伝えると見た事が無いくらい真っ赤になってしまった。
…………多分僕も同じくらい真っ赤だったかもしれないけど。
そんな訳でオズは明日から卒業式に出席したご両親と共に帰省して故郷の皆に報告し、それが終わり次第戻ってきて僕と旅に出る事になった。
僕の両親含め周りからは先に結婚をしたらどうかと言われたが、折角なら新しい国が始まるその日を僕達の記念日にしたいと彼女と話し合って周りを説得し、婚約に留まった。
「皆別々の道に進むけど、この3年間一緒にいた事が無くなる訳じゃない」
卒業が永遠の別れに繋がる訳じゃない。
「クラウスは未来の皇帝として、僕は未来の王としての付き合いは続くだろうし」
「そうだな」
「ヨルハは学園にいれば僕の両親の部下になる訳だし、今後妹も世話になると思う」
「あんたの部下じゃ無いけどね」
「キリエはどうせクラウスにくっついてだろうし」
「だね……」
「バリーは騎士団の訓練に顔を出さなきゃいけない時に会うかもね」
「その時はよろしく頼む」
「コロンは今後長い付き合いに…………なれると良いね」
「そこは「なるね」って言い切ってよー」
「三馬鹿は…………いつかね」
「「「扱いが酷いっ!!」」」
三馬鹿は多分依頼で動いている間にどっかで会うかもね。
割と嫌いじゃないよ。
「オズは……これからもよろしく」
「うんっ!不束者ですがこれからもよろしくお願いします!」
「こちらこそ」
周りから「二人の世界に入るなよ」「はいはい、お熱いわね」と言われるけど気にしたら負けだ。
「皆、また会おう!いつか、ここにいる皆で!…………三馬鹿はいなくても良いや」
「「「最後まで酷いっ!!」」」
教室が笑いに包まれた。
皆で一緒に笑い合えるのはこれで一旦終わりだ。
この教室を、この学園を出たらもうクラスメイトと担任では無く、元クラスメイトと元担任。
これからは公の場では対等な関係ではいられないだろう。
でも、こうやって仲間内で集まる時くらいは地位も立場も忘れて、また一緒に笑い合える日がきっと来るだろう。
こうして、僕達の長い様で短い学園生活は幕を閉じたのだった。
また、皆で集まる日まで―――
次の話で本編は終了になります。




