穏便に済むのであればそれが一番だよね
今回、ドラゴンが帝国に降り立った原因はただの【帰宅】でした。
これを陛下にどう説明しろと?
いや、説明する分には簡単なんだけどさ。
説明したとして陛下としては「それじゃしょうがない」で済ます訳にはいかない。
実際、直接的では無いけど被害がある訳だし。
かと言って、一方的的に「どっか別の所に行け」と言っても聞いてくれる訳が無い。
さっきの話からすれば此方にも非がある訳だし。
ぐぬぬ…………。
そんな感じでどうしようか悩んでいると、僕の後ろに立っていたクラウスがドラゴンに問い掛ける。
「偉大なる存在よ。この場から退いてもらう事は出来ないのか?」
『先も言った通り、ここは元々我の寝床。そもそも以前はこの地に人間が訪れる事は無かったと記憶している』
「確かにこの地は先々代の皇帝が治めた時代に我が帝国領となり、現在に至るまでになった。しかし、その前から既にワイバーンも住み着いていたと聞いている。それ程まで長い間寝床を留守にしていたのも問題では無いか?」
『長い間だと?短命種であれば確かにそうであろう。だが我等長命種からすればほんの一時。同じ物差しで物を申すな』
これ、話はひたすら平行線を辿りそう。
クラウスからすれば長い間、ドラゴンからすればほんの一時。
お互いに絶対理解出来ない認識の齟齬がそこにはある。
『我は此処で眠るだけだ。無闇矢鱈に他の生物を襲ったりはせん』
「それでもだ!貴方程の存在がそこにいるだけで恐怖する者もいる!」
『ならば近付かなければ良いであろう?』
「貴方がいるせいでワイバーン達が他の地に向かい、そこで襲われる人間がいるんだぞ!?」
『それこそ我には関係無い』
おっと、考え込んでいる間にヒートアップ(主にクラウスが)している。
まだ考えは纏まってないけど流石に口を挟まなきゃ。
「話し合いの最中悪いけど良いかな?」
「『何だ!?』」
そこだけは息ぴったりなんだね。
実は気が合うんじゃない?
「つまり、ドラゴンからしてみれば「ここを動くには無い。近付いてきた者を襲うつもりも無い」って事だよね?」
『先程からそう言っている。此方に攻撃してきた者達を追い払う際にどうなるかは保証出来んがな』
「やはり殺すかもしれないんだろう!?」
「クラウス、ストップ。話が進まないから」
「くっ……」
帝国の事を思うのは良い事だけどね。
今はそれだけじゃ駄目なんだよ。
「正当防衛ならしょうがないよ。僕としては寧ろドラゴンを害するつもりで襲ってきたら全力で排除してくれて良いと思っている」
『ほぅ……?』
「なっ、ロイっ!?それは積極的に人間を殺せと言っている様なものだぞ!?」
「そう言っているんだよ。勿論、態々人間を狩るのはいただけないけど。クラウスだって襲われたら相手の生死問わずに返り討ちにするでしょ?正当防衛だよ、正当防衛」
「そ、そうだが……。しかし、ドラゴンという圧倒的存在だぞ!?襲われたと言っても早々命の危機に陥るとは思えないが……」
「確かにそうだね。でもその「命を狙われた」って事実が大事なんだよ。仮に僕が野党に命を狙われたとしてだよ?返り討ちにしたら僕は罪に問われる?そこにいるのが悪いと国を追い出される?」
人間であろうとドラゴンであろうとその他の生物であろうと、「命を狙われた」という事実は変わらない。
弱ければ命を奪っても罪に問われない。
強いのに命を奪えばやり過ぎだと罪に問われる。
それはおかしいんだよ。
「ドラゴンはこれ以上無く帝国に対して譲歩してくれているんだよ。自分が出掛けている間に寝床に別の者が住んでいて、寝床の所有権を別の者に主張されているのにも関わらず、ね。それに加えて積極的にこちらを襲わないとも言ってくれている。これ以上何を望んでいるの?」
「…………」
「さっき言っていたみたいにいるだけで恐怖する者がいるのだとしたら此処から離れたら良いだけだよ、ワイバーンみたいにね」
「しかし……住処を追われた者達は……」
「それこそ帝国の仕事でしょ?そういう人達に衣食住と仕事を提供するんだよ。少なくとも一番近い町の人達は逃げるどころか感謝していそうだし、いずれはドラゴン信仰しそうな位だけど」
クラウス、君の言いたい事は分かっているつもりだよ。
君はこの国の上に立つ人間だ。
まぁ僕もなんだけど、立場が微妙にズレてきたから一旦置いておく。
だからこそあくまで帝国とその臣民を一番に優先しなければならないんだよね。
そう教育され続けてきたんだもんね。
だからこそ悩んでいる。
ドラゴンという強大な存在が国を脅かすんじゃないかと。
でも、その考えを180度変えてみたら良いよ。
「クラウス、ドラゴンがいる事自体脅威。そう考えているんだよね?」
「それは勿論そうだろう?」
「じゃあこう考える事は難しいかな?「ドラゴンがいる事でその場所は平和だ」って」
だってそうでしょ?
よっぽどの馬鹿……が一部いる事が問題なのだけど、それはあくまで少数。
だけど、その少数を切り捨てればドラゴンという脅威でその場所を守れるんだから。
『我が我以外の脅威からの防波堤になれと?』
「なってほしいとは思っていますけど、なれとは言えませんよ」
「……成る程。そう考えれば…………」
クラウスが顎に手を当てて思案している。
『我の気が変わって暴れ出すやもしれんぞ?』
「ドラゴンはそんな気分次第で約束を反故にする馬鹿な生き物ですか?」
ドラゴンを馬鹿呼ばわりした僕にずっと傍観していた女子組と思案顔のクラウスは青褪めた顔でこちらを見て声を出さず非難してくる。
そんな3人の心配は杞憂で終わった。
ドラゴンは大声で笑い始める。
表情は殆ど変化無く、頭の中に大きな笑い声が響いているだけだけど。
そして笑いが収まったのか、今度は牙を剥き出しにした満面の笑みを浮かべ、僕に対してこう言い放つ。
『良かろう、其方の言う通りだ。だが、我を従えるのであれば力を見せよ。その力を認めた暁には其方……ロイに従おうではないか』
…………笑顔は本来攻撃的な表情だって聞いた事あった気がするなぁ。
結局はこうなりました。




